表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神、降臨  作者: 楼陽
第一章 『砂漠色の遊戯』
18/22

第一章 World.18 レドルア、仮名作成

 いつもの部屋とやらに、レドルアと共に招待された。招待者はレンナである。応対をしたランダも初めてあったが、レンナのことだ、怪しい集会というわけではないだろう。


「何があったんだ、レンナ」

「何なんですか姉さん、突然私が名乗るのを遮って、なんかあるっていうんですか」

「かなり問題があるわ」


 名前が自身に支障をきたすというのはどういうことなんだ。






「まず、二人とも、十四年前のことは知っているでしょう」

「うん、レドルアがそれでトラウマになっちゃったやつね。今日の夜明けごろに号泣した話だ」

「黙っててください!他の人には言わないでくださいよ、絶対」


 レドルアは自身の恥を言葉にされ、恥ずかしそうにしている。




「いいから、その話のことよ。私の名前『レンナ・コルテ』なの。それが前提」


「いや、何当たり前のことを言ってるんだよ、レンナ。それぐらいわかる。レドルア・コルテの姉なら、レンナ・コルテとしかならないだろう。直接あなたから姓は聞いてないけど、それくらい簡単にわかるぜ」


 この世界に来て、必死に情報収集していたから、そういうのを予想するのはとても簡単だった。

 自慢げに予想能力を披露するクライスを見て、レンナは心が痛んだ。今度は鋭利な眼差しに切り替えて、淡々と言葉を繕い出す。

 



「絶対その名前外で言っちゃダメよ。もちろんレドルアのことも」

レンナは脅迫でもしているかのような態度をとる。その圧迫感には、俺は従うしかなかった。


勿体(もったい)ぶらずに、理由を説明してください。コルテの苗字に何があるっていうんです?」

「すごくあなたがわかっていることだよ」

「よくわかりません。どういうことですか?」


「勘が鈍いのかしら。つまり、この村の住人は『レンナ・コルテ』という名を忌避しているということよ。転じて、コルテの姓も怖がるのよ」




 案外、話の着地が微妙である。レドルアが、トラウマになったのは、レンナが暴走したのを目の前で見ていたからである。だが、村人に関しては、助けてもらった恩人であり周知の事ではないのか。


「よくわからないんだが、何で『レンナ・コルテ』を忌避する必要がある。『レンナ・コルテ』は村を救ってくれた英雄なはずだろう?」


「うんと言いたいところですが、そうもいかないでしょうね、クライス。あの時、精神教と戦ったのが、レンナであることを知っている人は、その戦いの最中に助けたあの店員さん、ランダくらいです。他の村人は、逃げることで精一杯でした」




「だから、村の人々は、精神教から逃げてみたら、村に魔力が暴走して暴れている少女がいるって状況なのよ。もしそうだとしたら、あなたはどう思う、クライス?」


「すまない、精神教の内通者、もしくは関わりのある誰かだと思ってしまうかもしれない」


「いいわ、もう慣れているからね。つまりそういうことなのよ」


 この村で、『コルテ』という姓を出せば、西方精神教事件の時に精神教と過去関わっていた人、狙われた原因が来てしまった、という誤解を起こしてしまう。

 村を追放される可能性があるということだ。


 威勢を張った強者は英雄として称賛されるのがセオリーであるが、時に迷信や呪いと掛け合わされて残念な結果を生むこともある。世界を作ったウォーチェンでさえ、それはどうにもできなかったようだ。



 優柔不断そうにみえるレドルアも、自身の命となれば話は早い。


「よくわかりましたよ。だとすると、私はどう名乗りましょうか」

「かなり大事だよな。レンナはどう名乗ってるんだ?」


「だけど私の姓と一緒にすると、危ないよ?一応『レンナ・コルティア』を名乗ってるけど」


 何かの拍子に知られたら二人とも追放だし、そもそも姉弟であることが知れてしまうのも危ない。





「どうあれ、私は『コルティア』とは名乗れませんので、ここは『レドルア・ウォーチェンス』とでも名乗っておきますか」

 何か聞いたことある響きだな。


「ウォーチェン様からもじったのね。神様の名前をもじるなんて、随分と大胆なことをする」

 あいつ、この世界では神様なのか?!いや偶然だろう、さすがにあいつが神様だなんて、笑いを堪えられない。



「何笑ってるの、クライス。やっぱりレドルアが神様の名前をもじって仮の姓にするの、変だと思う?」

「うん。まあ別に名乗る分にはいいと思うけど」


 この世界で俺が現実のウォーチェンの話を出せば、俺が精神教信者にされてしまうかもしれない。流石に一日でも勉強していないわけではない。




「とにかく私は今日からこの村では『レドルア・ウォーチェンス』を名乗りますね。基本レドルアですが」


「完了だね。今日ここに来た理由は終わり。ご飯だけ食べて帰ろうか」





 レンナはそういうが、まだハルカたちの話が残っている。


「完了していない事が一つある。レドルアは、ハルカとムスカル爺やの目の前で、堂々と『レドルア・コルテ』を名乗ってたけど、何であいつらは忌避しないんだ?」


「だってムスカル爺やが行商人で、ハルカはその養子よ?こんな薄っぺらい村の噂を信じるわけないじゃない」


「いや、何でそうなるんだ?」


「だからそんな噂に流されていたら、正しい情報を見極められていない行商人ってことよ?廃業まっしぐらね。あの人たちも、噂を知ってはいるけど、信じていない」


「いいじゃないかそれなら、ハルカやムスカル爺やを連れてきても。何でハルカたちをおいてきたんだ?」


「だって、それは、・・・・」


 レンナが言わないように自分の口を塞いでいる。

「家で話すね!あレドルアはダメよ」


「よくないですよ、姉さん、そういうのは」


「はいはい、愚痴なら聞くから。この話はクライスにしかできない」

 何だかこの人、今日の朝日で泣いてから、急接近してきている。夜になって情緒も奇妙だ。どんどん利己的になっている。


 だいたい何の説明も無しにここに連れ込んで、秘密はあとで俺だけに話しますというのは、レドルアにも同情される義理はあるだろう。




「お料理どういたしますか?」

 ランダが誰も料理について話していなかった個室にやってきた。


「カレーなんてのはありますか。ここら辺で食べたことがあって、それがまあ美味しいくて」

 嘘である、先程まで慌ていた。少し汚れたランダの口を見て、すぐに決めるなど邪道というか、反則というか、何だか知ったかぶりの顔しているのが腹立たしい。


「店長の得意料理です。辛すぎないものならご用意できます。香辛料の類は量を持ち合わせておりませんので」


 ランダの唇の横には茶色いトロッとした液体が付着している。賄いかなんかで店長が振る舞っているのだろう。レドルアが皆無の事前知識で答えられたのは、そういう理屈だ。


「であれば、俺もそれがいい」

「いややっぱ私もそれにするよ!」

 結局俺もレンナも同じものを頼んでしまった。得意料理と聞いてしまえば、わざわざ質問してまで他の料理を注文するほど、食に執着心はない。

 レンナはそもそも、他人と違うものを食べる気は更々無かったようだ。


 注文を通してきたランダは、レンナと話している。

「この方々を私、失礼ながら存じ上げないのですが」


「片方は知っているはずよ。赤髪の方は、・・・・あなたを助けた私の弟よ」


「よく見れば、確かに同じ人ですね。大変失礼致しました『レドルア・コルテ』様」


「まあ、礼儀正しくありがとうございます。聖都から休暇で参りました特級精霊師です。この村では『レドルア・ウォーチェンス』とお呼びください」


 ランナは久しいレドルアの顔が魅力的に映ったようで、少し瞳孔が開いている。


 そうか、ランナは助けてくれたレドルアに一途な想いがあるのだろう。虚構における典型的な恋愛のような、出来上がった物語も、現実に存在しているのなら、この二人は結ばれるだろうに。

 レドルアは冷淡な顔をしている。非常に残念だ。あとで少し誘導をかけてみようか、ウォーチェンの気持ちも、今なら少しわかるような気がする。



 ランダの持ってきた店長特製のカレーは美味だった。思っていたよりも香辛料の効きが強く、辛口に仕上がっている。

 レドルアが辛くて舌を腫らしたのはまた別の話。





「今日はありがとう、ランダ」

「大丈夫ですよ。またいつでもお越しください。この地下の個室はいつでも開けていますから、クライスさんも、レドルアさんも、村人に聞かれてはいけないことがあれば、このランダ、いつでもお呼びください」


 人を救う恩というのはなかなか偉大であり、同時に心強いようだ。



 家に帰ってきた俺らは、もう夜なので就寝の準備を始める。

「ピクルス作っておかなくていいのか、レンナ」

「なんと、完全に忘れちゃってた!赤かぶ取りに行かなきゃ」


 レンナがクライスとは反対の食物蔵へと進むので、二人を結ぶ鎖は張力のままにピンと張る。

「きついんじゃないか、今日までに治るのは」

「はい。そうですね、魔法は教えてもらえませんよ」


 何だか満足げである、何か既視感がある。何かがマズい方向に行っている。何だろう、何だ?


「つまり今晩も鎖が外れないまま、治療し続けるしかないです」



 ウォーチェンよ、ノアに伝言を頼む、これは「不可抗力」だと。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ