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神、降臨  作者: 楼陽
第一章 『砂漠色の遊戯』
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第一章 World.16 クライス、赤髪と畑の魔法

「よし、畑に着いた!」

「大変ですね。この畑から四日分×三食×十四人の計百六十八食分。食物蔵にあるものを差し引いても百食は必要です」


 百六十八食なんて、聞いたことがない。聞くとしても食堂くらいだ。でも宿屋だから、食事に関しては食堂みたいなものか。

 レドルアは()()の肉体労働による疲労を危惧(きぐ)している。


 ただレンナだけは随分と平気そうな顔だ。


「すごいね、百六十八食か、頑張って」

レンナはまるで全部他人に押し付けたような言い方をする。


「てっきり姉さんもやると思ってたんですが、まさかやらないつもりですか?」

体力があまりないのに、一人で働かされることが確定しているレドルアは強い嫉妬の目線を向ける。


「勝手すぎるだろそれは、レンナ」

「何をどう頑張っても肉体労働はしません!空から魔法でチャチャっとやっちゃうって話」

「しかし、トマトとか、きゅうりとかの、根菜じゃない野菜も根っこごと取っちゃうじゃないですか」


「簡単な話、ここでも分担すればいいのよ」

「要するに、俺とレンナで空から根菜などを回収しながら、レドルアは下で、根菜以外を回収すればいいと?」


「と言うわけで、根菜回収したら帰るわ」

我儘(わがまま)もそこまでにしてください。それ以上はいただけませんよ。早く終わらせたいなら手伝ってください」

「いや、そうなるよな。レンナ、ちゃんと手伝おうぜ」


 レンナの悔しい顔には、冷水をかけてやりたい。レドルアも嘲笑(ちょうしょう)を抑えられていない。




 とりあえず、鎖で繋がっているレンナと俺は空から根菜類の回収に回る。

「どんな魔法を使うんだ?」

「大地に埋まっているものを引き抜く魔法【グランプル】。なんでも引き抜いちゃうので、ナメクジとかモグラとかも出てきちゃうのなんとかしたいんだけど」

「どうにかしたいな。気持ち悪いだろう」


「うん。ナメクジは、土が柔らかくなるからまだいいとして、モグラは畑のものを食べ出すから、大変なのよ」

「よく聞く被害だな。魔法じゃ何もできないってことだよな?」


「なんかできるならやってるけど、生物駆除用の魔法って、ないんだよね。なんか、神話の中の、魔女()()()が、生物駆除魔法の悪用に反対した時に、国からの武力攻撃を受けて、魔女自身が世界を滅ぼしかけたって言う理由で、この世界では、忌避されているのよ」


 レンナは何か変な顔をする。朝日の話といえ、この人は何か大事なことを抱えているような気がする。

「予想以上に現実じみた理由だな」



「何か土の中の害獣を追い出す方法が他にあるならいいんだけどな」

「何もないわけではないけど、今すぐだとどうしようもない」


 宝箱でも見つけたみたいな反応だ。

「いいから教えて、モグラって結構大変なのよ?やってみる?」


「【グランブル】、箱にいっぱい野菜入ってくるから、気をつけて」

「程度ってものがあるだろう!」


 レンナは、大根を約三十本、ニンジンを約四十本と言った具合で大量の野菜を引っこ抜いた。それとその半数くらいのミミズやモグラが、一緒に引っこ抜かれた。あとダンゴムシも忘れずに。

 虫や害獣たちは、レンナが選別して俺の箱へと投げているので、虫だなんだと暴れる必要はないが、単純に野菜だけでも重いのだ。


「うるさいわね、見たでしょ、今のモグラの量!これをなんとかできるなら、今すぐ教えて欲しい!」

「今すぐなんて無理ですよ!こんな重いのを一気に俺のところに飛ばさないで!」

クライスの爛れた腕に乗っかった箱に、野菜がどんどん吸い込まれていく。


 重い、量が量だ。腕がはち切れそう。


「出来の悪い腕ね。帰るわよ一旦。食物蔵に戻らないと、その野菜たちの本数数えなきゃ」


「昨日からあなたが治療してる患者の腕になんてもの載せてるんだよ」

「よし、聞いたぞ今、もう一回言ってみ?」

 体が一瞬にしてブルブル震える。


「見事な治療でございますよ!」

「よろしい」


 レンナは、本当に相手が面倒臭い人だ。今俺が断ると、治療をやめるでなんでも通されてしまう。腕の鎖だって俺が断れない理由になっていることを、熟知していなければ、なかなか出てこない我儘だ。

 もしこれが素なのなら、レドルアに喜んで同情しよう。




 家に一旦戻ってきた。地面に降りるのが面倒なのか、結局最後まで空を飛んで帰ってきた。 

「おかえり、クライスとレンナ!」

出迎えたのはハルカである。


「なんと掃除は一通り終わったみたいね!さすがだわ!」

「悪いけど、ほぼおっちゃんがやってくれた」


「頼むけど、ムスカル爺や、ハルカにもちゃんと仕事やらして!そんな甘々じゃ、いずれ独り立ちとかなったとき大変なのは、あなたなんだからね!」


「ネチネチ言うてくんなや、ハルカには装飾頼んどるけど、あの子全然集中せえへんねん。それで俺の掃除だけが進む、そう言う仕組みや」

 ただ甘やかしてるわけではなさそうだが、あまりしっかりハルカに頼んだような顔には見えないな。


「やっぱりハルカ、ただ丸投げしてるだけじゃない!装飾はあなたの専門でしょう?ちゃんとやってよ!明後日行商さん来ちゃうんだから!」


「ラストスパート頑張るぞ!」

「それはこれまでちゃんと頑張ったムスカル爺や、レドルア、クライス、()しか言えない言葉なの!」


「飲み込めないな、レンナ。あなた魔法で野菜引っこ抜いただけでしょ。全部俺に持たせやがって」

 さすがに「私」には頭が納得していないぞ。


「手伝ってるだけのあなたに言われたくないね。私はあなたの治療もしながらやってるの!それがどれだけ疲れるかくらいわかって欲しいわ」

 心の底から激怒しているわけではなさそうだ。これはただの繕い文句だろうな。


「わかったわかったから、落ち着いて」


 やっぱり歯向かえないや。少なくとも明日までは、俺はレンナの支配下である。





 そして、赤髪の清楚美女が、俺に向かって、少し照れながら怒るのは、思わず面を少し赤くしてしまう。この人にはやはりノアの面影が見えて心の鍵が少し緩んでしまうから、困ったものである。


 その後、ノアを勝手に想像し、必ず痛い目に遭うと確信し、首の皮が一枚繋がった。





「さて、野菜の数を数えよう、クライス」

「スイカなんて、あったんだ。一気に飛んできたから覚えてない」


「いいからいいから、数えて!」

「でっかいスイカが一玉。大根が二十八本。人参が四十一本。赤かぶが十二玉。玉ねぎが・・・・」


 かなりの量と種類をとってきた。もう何をとったかは、覚えていない。


「赤かぶ十二玉って、何に使うんだ?」


「たくさん取れたね。これは切り刻んで、茹でて、酢とか砂糖とかと一緒に漬けるの。美味しいのよ。三日ぐらいかかるから、今日から仕込まなきゃだね」


「寝る前にしないとだな。その作り方って、ピクルスの作り方と一緒じゃない?」


「いろんなこと知ってるんだね、クライス。そうそう行商人に教えてもらったんだけど、ピクルスって言ってた気がする」


気がするというか、おそらくそうだろう。


 十四も世代が違うが、一世代世界のものは、だいたいこの世界にもあるみたいだ。文明レベルが少し低いというくらいか。世界列学者にしてみれば、かなり興味深い発見である。


 ただ上の世界に行く方法のあてについては、出会ってすぐにハルカに言われた「精神教」というものにしかなさそうだ。かなり危ない橋だろう。



 この世界は、正直”しりとりコミュニケーション”のせいで、常に頭を働かせないといけないのでかなり疲れる。

 だから、頭がオーバーヒートしないペースでしか、上の世界に行く方法が考えられない。それが今の一番な悩みどころである。






「野菜を食物蔵にしまった後、レドルア手伝いに行かなきゃね」

レンナは突然何かを思い出したかのように言う。


 そうかあいつ今一人で食べ物取ってるのか、忘れるなって話だよな。



「なんで一人にするんだよーーーー!」

レドルアは、畑で自身の(こうむ)った不条理を叫んでいた。


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