第一章 World.14 クライス、歪な昼寝治療
「正気か?俺が昼寝してる横にずっといると?暇なの?」
レンナは俺が昼寝すれば、レンナはどうするのかと聞いた。すると四肢が驚き痙攣するほどの答えが返ってきた。
「残ってるタスクならいっぱいあるけど、クライスの治療が最優先!じゃないとお皿を洗う魔法教えてくれないみたいだし」
つまりクライスは知らず知らずのうち、レンナに『皿を洗う魔法』という、横にいるには余りにも合理的な口実を与えてしまった。
クライスにとっては敵陣に塩を贈り、自身の累卵をさらに重ねるという究極の利益度外視に働く、なかなかの悪手だった。
こういう度に、ノアの顔が浮かんでくるうちは、怒られないと信じておこう。
「知らないよ、レドルアが激怒しても。側から見れば、何とは言わないけど怪しすぎるって。それに昼間何て、元気なんですかって話だ」
遂に自分が純粋ではないということを世に知らしめてしまった。
「ダメなこと想像しちゃダメだよ。そんなことはないから、本当に治療してるか寝てるかしてるだけだからね」
「寝てるじゃないか、一緒に、それも同じベッドで!もう少し俺みたいな青少年の思いも汲んで欲しいものだ」
「だから気にしすぎよ。怪我人は黙って寝とく!過去未来現在共通よ」
主語がやたらと壮大な上に、語尾が[よ]だなんて。レンナはどうやら俺に返答を、密やかに禁止しているみたいだ。言葉巧みで、おまけにかなり強い魔法使い、手掌の上で転がされている感覚はひしひしとする。
俺とレンナはベッドにつく。言葉だけ聞くと淫らにも聞こえるが、まったくそんなことはない。むしろ困っているくらいだ。
レンナ自身は、クライスの横にいるのを割と嬉しく思っている。
俺は部屋の天井を見上げて、顔のように見える三点を探すのが好きだ。一人でも、一人じゃないみたいな幻を持って、安心して眠りにつくことができる。
確かにいろんな視線を浴びるのには、恐怖がつきものだが。俺の異常性癖と言ったところだろう。
ただ今日はそんな必要はない。人が隣にいる、それは俺にとって、子守唄のようなものである。
流石にカーテンは、明るすぎて寝れないので閉めた。
「この家に、ムスカルがレドルアとクライスを連れてきた時は、びっくりしたな。第二第三のハルカが来たのかと思った」
「例え方がまるでハルカが迷惑者、みたいな言い方だぞ」
「そんなわけないでしょう!変な冗談挟まないで。その時は、突然の弟登場でそれどころでは無かったけれど、あなたが居なければ、この村がそもそも消えていたかもしれない」
「いや、そんなにちゃんと働いてない。戦っていたのはほぼレドルアとあなたと、鎧包の剣士だけだ」
「だからと言って、もういいわ。また機会があれば話すわ、とっとと寝なさい!」
「いいや、いくらなんでも投げやりが過ぎると思う!」
「うるさい!もう分かってないわね、寝ろって言ってるでしょ!」
俺はレンナの腕に押さえつけられ、起き上がることはもはやできなかった。とりあえず寝ろと言うので、眠たいし寝ることにした。
クライスが本当に寝てしまったことを確認したレンナは呟く。
「私はさっきあなたの思いを汲まなかった。だけどもう少し察してくれてもいいじゃない」
身勝手な要求だが、それはレンナが一番よく分かっている。
「私はただ、話すのが怖くなって途中でやめてしまった、あの話をしたいだけなのに」
他と同じくまともに寝ていないレンナは、ベッドにつく。
不貞腐れた顔で赤髪をバラし、背中をクライスの背中に向けて寝る。腕は繋がったまま、魔法を使ったまま寝落ちする。
クライスは高枕で、レンナは少し濡れた枕で寝るのだった。
「おはよう!クライス!起きて食べ物取り行こうぜ!」
「せっせと集めてこんかったら、夕食無しやで!」
「デンジャラス(dangerous)!それはまずい!今からドアあけるよ」
今何時だ。とりあえずカーテンを開けよう。
上体を起こすがクライスは重要なことをいつも忘れている。
(ああ、そうだ繋がってんだよ)
まったく困った魔法道具だ。
「おい、起きろレンナ。お前が起きなきゃ、俺起きられないだろう」
結局レンナは、俺の横で寝てた。こんな魔法具のせいで、俺の異性との初ベッドが・・・・。
意味が変わってくるので、その言い方はやめた方が良い。
「うるさいなあ。今何時?」
カップルじゃないんだから、寝ぼけ面もいち早くなんとかして欲しいものだ。
「知らないからカーテン開けたいんだ。とりあえず早く起きてくれ、もしくは今すぐ解除してくれ」
「劣勢すぎる二択だよ、私にとって。分かった起きるよ」
レンナは体を上げる。摩擦でせっかくの綺麗な赤髪が癖だらけである。カーテンを開いたことで、部屋が少し明るくなった。
「ハルカ、おっちゃん!今行くよ」
あいつらは何故かかなり興奮しているようだ。ハルカのジャンプが床をつたって響く。
「よっぽど何かが楽しみなんだろうな」
レンナは随分と含ませた言い方をする。
「何を隠してるんだよ。そんな感じの言い方じゃないか」
「隠してなんて、・・・いませんよ?」
あからさま過ぎて、口角が無意識に上がってしまう。とにかく部屋の外に出よう。話はその後である。
「おはよう、ハルカ、ムスカル爺や。そんなに急いで何をしているの?」
「呑気にしてる暇なんてないよ、レンナ。明後日に行商隊が、街に来るんだって!」
レンナが肝を潰したような顔をしている。
「テキトーなこと言ってないでしょうね。誰から聞いた?」
レンナは錆びついたロボットのような、断続的な動きを始めた。
「確か、村長さんが、みんなの家を回って話してたよ!」
「よく俺は聞いとらんかったんやけども、この子の話どうやら本当みたいやねん。村の役場に『ようこそテリテテへ!』って書いてる旗がぶら下がっとんのや」
「やさぐれている暇はない、つまりそう言うことよね」
事情をまったく持って理解していなかった俺だが、詳しく聞くとどうやら、この家は宿場になっているそうで、行商人が来たときは、お金を払ってもらって、客人として招き入れているそうだ。
商人用の食料や、家の掃除など、商人たちに無礼にならないように用意しなければならず、レンナは焦っているそうだ。とにかく早く行動に漕ぎ着ける必要があるようで、結局レドルアの力も必要となった。
「レドルア、お前起きてくれ、今すぐだ」
「大層急がれて、何が起きたと言うんです?」
「すぐに準備をしなければいけないの。明後日、村に行商隊が来るらしい」
レンナは大変忙しい。