第一章 World.12 レドルア、今を直視し独り泣く
なぜか金具でつながっている、俺の腕とレンナの腕。治療のためとはいえ、見た目があまりにも悪くすぎる。
部屋についているドアを出て、階段とは向かい側へ歩いていく。よく考えてみると最初の部屋から、階段側は通ったことがあったが、反対側は未知だ。
「腕を繋がれながら歩くのって結構むずかしい」
「いいから黙って!明日からでも街を回って、レドルアの霊司力を抑制した魔法の使い手を探さないとダメでしょう!こう言うのは急がなきゃ。我慢して」
この人秘密が共有できた途端に態度変える人だ。さっきから扱いがものすごく雑なような気がする。
「テキトーな扱いもそのうちだと?」
「どっちに取ってくれてもいいわ」
この人の表と裏がかなり違って、どうやって接すれば良いか迷う。あっちがテキトーならこっちもテキトーでいいのだろうか。
連れて行かれたこの家の一番奥にある部屋のドアを開けると、レドルアとハルカとおっちゃんがいた。
「おっちゃんどこ行ってたんだ?」
「大した用やない。よう知らん剣士が突然来よったから、少し様子を見に行っただけや。結局もうおらへんかったけどな」
ムスカルの笑い声は世界の反対側まで届きそうだ。するとレドルアが突然ベッドから出てきて、地面に頭をぐっと押し付けた。
「なんと失礼なことをしてしまったのでしょうか。特級精霊師という肩書を持っていながら、軽率な行動でした。本当に申し訳ない」
「いいよ、大丈夫。それにレドルアは自分の拳が俺の頬についた瞬間止めただろう。傷なんて一つついちゃいない。こちらこそお前の過去に配慮が至らなかった。申し訳ない」
「言ったよねクライス、これは弟の責任なんだって。伝えたはずでしょう」
レンナが遮るように言う。
「うん。聞いたよ。でもそれで俺の責任がなくなったとまでは言ってないだろう」
「うん。でも腕を上げたのは私の責任ですから、クライスは謝る必要なんてないので、レンナさんが言うことも正しいです。ただ、私はそんなに謙虚になってくれるクライスが好きですよ」
レドルアはこう言う時自分を卑下する
「よかった。ありがとう。だが一つ言わせてもらう。お前やっぱり姉ちゃんと、ちゃんと話せ」
レドルアが何かに乗り遅れたかのような顔をしている。
「せっかく一段落ついたのに、また同じ轍を踏む気なんですか?性懲りのかけらもない人ですね」
「粘着質なのは、お前も同じだろうが、レドルア。人の話は最後まで聞け!
お前はなぜこの場に姉がいるのに、姉だと呼ばない。何をそんなに怖がっている。
特級精霊師だなんだと、あれだけ威張っていたくせに、魔法使いの姉がくれば、すぐ降伏するのが精霊師だと言う気なのか。ハルカだってレンナに降伏していると、そう言うのか?」
「・・・」
「俺はこの人から、お前と姉ちゃんの間に何があったのかを、もう一度正確に聞いた。
お前は確かに姉を怖がらざるを得なかったかもしれない。
だがお前を窮地から救ってくれたのも、またお前の姉ちゃんだろうが。
もう一度問おう。何をそんなに怖がっているんだ」
クライスの口から、続け様に様々な言葉が出てきた。
「だから魔力の暴走です。俺の寝言からもそう聞いたのでしょう?」
「嘘ではない、聞いたとも。では質問を変えよう。お前の前にいる赤髪の女性は、何年間魔力を放置し、さっきの戦いに挑んだのか。魔力の形跡をでわかるだろう。何年だ」
「だから十四年です」
やはりこいつは姉に一度も視線を向けていない、というより思考を放棄をしている。
「すぐに嘘をつく人だ。俺の目には僅か『二日間』にしか見えないが?」
「簡単に嘘をつく。そんなわけ・・・・、いやそんなわけない」
レドルアは、初めて思考を持った状態で、レンナを見る。レンナは目を見開いているレドルアの視線に戸惑って赤面しているが、これが正解なはずなんだ。
「そんな、本当に二日間だなんて・・・・」
赤髪の少年、レドルアはそう言い始める。
「今思えばあの氷の鎌や翡翠の矢も、ちゃんと鍛錬された音だった」
レドルアの目からは、俺の体の上で崩れた時とは違う成分の涙がつらつらと流れる。全く、強いやつが無防備で泣いているなんて、家族というのは不思議なものだ。
「だろう。先入観と自己保身で、お前は味方の能力をないものと考えた。黒猫の戦いで負けたら、間違いなくお前が大きな責任を負っていただろう。よかったな、生きて帰って来れて」
「てっきり私は、ごめんなさい、姉さん。ごめんなさい」
レンナはレドルアの方へ向かう。
「いいのよ私は、あなたがちゃんと、私を姉だと呼んでくれるだけでいいの」
レンナはゆっくりとレドルアを抱擁する。俺はレンナが回した腕に引かれてレドルアの後ろに回り込まされる。
ーー背中ぐらい摩ってやるか。
少しばかり我儘させてもらわなければ、二人の溝は深まるばかり。それを近くでただ見ているなんてのは頂けない。これで少しでもレンナとレドルアの仲が戻れば、それでいい。
家族の愛というのは、そう簡単にちぎれたりはしないのだ。血縁でもないのに俺まで涙が出てきそうだ。
この村に一応の平和がやっと訪れた。
《人物紹介》
レンナ・コルティア〔本名 レンナ・コルテ〕(25)テリテテ村 魔法使い
レドルア・コルテの姉。幼い頃から、レドルアの親代わりのように暮らしていた。昔の西方精神教事件の際に、過去のトラウマであった魔法を呼び起こした結果、魔力暴走を起こし、レドルアにトラウマを残させたまま、離別してしまった経験がある。
魔力が暴走して以来、コルテの名字では、村人から忌避される可能性があったので、コルティア姓を名乗りながら、ブリューズ家とともに暮らしている。
レドルアと同じように赤髪の女性で、見た目よりも五歳は若く見える、綺麗な人である。幼い頃から親代わりとして、子供らしいことをあまりしてこなかったことも相まって、今はクライスにいちゃついている。
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その頃一世代世界にて、ノアは、一通り朝日を見終わっていた。
「今日なんで、クライスは来なかったんだろう。来てくれると思って、お菓子や紅茶まで用意してたのに。嘘つき」
用意された机の、ノアとは反対の席に一羽の鳩が飛んできた。
鳩の作った風に靡く赤髪が、横日を綺麗に反射する。
「君にあげるよ。私の主人はお留守みたいなんだ」
そういってノアは焼いたクッキーを鳩に差し出す。鳩は少し困った様子で首を傾げるが、ノアが差し出したクッキーを嘴でもらって、机の上で貪り食う。
「何しているんだろうな、クライス」
クッキーをすぐ完食してしまった一羽の鳩は、グーグーと甘えた鳴き声を出し、静かに飛び立った。
鳩一羽だけだが、ティータイムにやってきてくれたことに、孤独感は感じずに済んだノアだが、やはりクライスを心配するのだった。
場所は戻って十五世代第二世界。
「では、一悶着ありましたが、昨日の夜から何も食べていないので、ご飯にしましょう。支度してきますね。みんなはそこで待ってて大丈夫です。あクライスは、強制連行ね」
「ね!って、そんなに連れ回さないでくれよ。治療を受けてる身としては言い出しづらいが、この金具も使いづらいものだな」
みんなが不思議そうに、俺とレンナを結ぶ金具を見つめる。
「なんのための金具なんだ?」
ハルカの突然の発言に空気を読めよと、クライス以外の全員が思うが、それはクライスにとっては全くもって誤解である。レンナにとっては、全くもって正解である。
「だから、これは、えーっと」
なんだか意味ありげに隠すのはなぜだろう。やめてほしいな。俺とレンナに何かあるみたいじゃないか。
またノアにおこられることが増えていく。上の世界に上がる方法を、誰よりも早くに発見して、ノアに弁明しなければ。
だが少なくともレンナには何かある、ということを、クライスは知る由もない。
クライス=レンナ複合体は、階段を降りて、黒猫と初めて会ったキッチンへ向かう。
「ちゃんと中身まで復元されているんだな」
「何も、あの黒猫は魔法で存在を一時的に消しただけ。魔法が解ければその存在も元に戻る。解かれなければ、永永無窮に戻らない。それだけ」
平和ボケしたような口調で、平気で怖いことを言い出す。本性が垣間見えるな、お姉さんって怖い。永永無窮って、四字熟語でさらに恐怖感を上げられている。
「うわあーー!うわあーー!うわあーー!」
俺の体が四方八方に引っ張られる。
「うるさいなあ。腕がくっついてるんだからしょうがないでしょう?」
「腕くっつけたのあなたでしょう?」
「うんそうだけど?じゃああなた治らないよ?」
この人のこの態度、なんか物凄いムカつく。今晩まではこんな調子で半軟禁状態だ。
窓辺に鳩がやってきた。ずっとこちらを覗いている。
「鳩だ。可愛いね」
「ね」
この人情緒がどうかしている。
室内を冷たく保って、野菜などを保存する、食物蔵があるが、あそこが一番辛かった。
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「何を取りに行くんだ、白い冷気みたいがブクブク出てるけど、本当に大丈夫なやつ?」
「つまんないことで腰抜かさないの。別に大丈夫よ」
レンナは食物蔵のドアを開けて、クライスを中へ連れ込む。
「えっと、牛の肉はこっちで、葱はあっちだったけな」
「悩まず早くしてくれよ!俺寒いんだってば!」
「はいはいわかった、早くするから。ついてきてクライス」
ついてきてなんて言われなくてもついて行かされますよ。
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あそこの蔵は寒かった。凍って冷凍保存されるのかと思った。
フライパンを使ってお肉を焼いているときは、今度は暑かった。
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「うわあ!めっちゃ高く火が昇ったよ!油入れすぎたかな。ごめんねクライス、ってええ?!」
俺の髪の毛が燃えていた。
「クライス、髪の毛燃えてる!散り散りになっちゃう!」
だから言葉のチョイスがいちいち怖い。
氷の塊に包み込む魔法「【アイシンエンべ】!」
「あ、全部凍った。マズイマズイ」
魔法を取り消す魔法「【リロ】!」
「いや、突然人を凍らすな!」
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結局どちらも寒かったな。
そう言っている間に、ご飯の時間である。
全員が階段を降りて食卓へ降りてくる。
「「「「「いただきまーす!」」」」」
何を察したのか、窓辺にいた鳩は、いつの間にか飛んでいってしまっていた。
〈一応の補足〉
度々うわあーーとか言っていますが、うわあーーは「しりとり対象外」のしょうがない言葉(ex.痛い)です。
その他質問や感想、また評価など、お時間がございましたら、頂けると大変嬉しいです。
<このエピソードの投稿前日の大改稿について>
このエピソードの投稿前日に、第一話から第十一話まで全てのお話で、改稿いたしました。ただ、それらは全て誤字修正、改行位置変更などであり、作品の内容は一切変わっておりませんので、ご安心ください。これからも度々改稿は行うと思われますが、内容の変更は行いません。
日頃からご覧になってくださり、誠にありがとうございます。