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イフリートとの戦い

 コリアは、五人の兵士とともに馬で駆けた。

 兵士たちは、コリアの道案内をするために派遣されたのだ。

 野宿をし、次の日に、両側に大きな岩山がそびえているところに着いた。

 この先は足場が悪く、馬では無理なのだ。

「ここまでだ。この先は、独りで歩く。馬をつれて、ここで待っていてくれ」

 兵士たち、ガタガタ震えている。

 コリアが聞いた。

「おい、どうした?」

 兵士が答えた。

「こ、怖いのであります」

「だれにでも弱気はある。それを克服して戦うのが兵士だろう?」

「は、はい。敵となら、いくらでも戦いますが、イフリートとは戦えません」

「お前たちに、戦えとは言っていない。ここで待っていればいいんだ」

「で、でも。ここにはイフリートがいるんでしょう? もし、イフリートが現れたら……」

 コリアは、心の中で苦笑した。なるほど、兵士たちは二流だ。肝が据わっていない。

 コリアが言った。

「よし。こうしよう。お前たちは帰れ。明後日、三十人ほどの兵士で、この場所に待っていてくれ」

「は、はい……」

 もう一つ、煮え切らない。

 仕方ない。

 コリアは、あまり言いたくない言葉を使うことにした。

 自慢である。

 兵士たちを鼓舞するのには必要だ。

 コリアは、兵士たちを見て、胸をはって言った。

「おい、おれはだれだ?」

「勇者コリアさまです」

「おれのことは知っているな?」

「もちろんです」

「なにをした?」

「ヤンギル国で英雄的な活躍をしました」

「英雄的じゃない、英雄だ。どんな活躍をした?」

「モジタバ国に完勝しました」

「それだけ?」

「あっ、グールを倒しました」

「どうやって倒したか、聞いているか?」

「素手でグールの首をねじった、と聞いています」

「それはウソだな」

「え?」

「首を引っこ抜いたのだ」

「そうだったのですか。うわさは当てになりませんね」

「ここではイフリートの首を引っこ抜く。だから、イフリートがここに出没することはない」

「そうですね。それを聞いて安心しました」

「では、すぐに帰り、明後日、三十人の兵士で、この場所に待っていてくれ」

「了解です。勇者コリアさま」

 兵士たちは、帰っていった。

 コリアは苦笑した。

 コリアは、大きな自尊心を持っている。

 自分は最強の勇者だと思う。

 そして、他人から”勇者”と呼ばれて舞い上がるほど軽薄ではないのだ。

 それなのに自慢をするとは……。

 兵士たちの後ろ姿をみて、思わず、独り言をいった。

「あの国は、だいじょうぶかな?」

 クチヤの国王は貫禄があり、上級僧は知識がありそうだし、鍛冶屋は頼りになる。

 しかし、軍隊は二流だ。

 兵士たちの腰が引けている。

 ヤンギルのバシールのような指導者がいないからだ。

 しかし。

「それは、おれが心配することではない」


 コリアは歩き始めた。

 岩山の形や砂丘の大きさから方向は分かる。

 スパイから情報は聞き出してある。


 三つのコブがある岩山を登った。

 崖の上から下をみる。

 そこにオアシスがあった。

 水は血のように赤い。

 スパイの言ったとおりであった。

 以前は清浄な水であったのだが、いつのころからか怪物が棲むようになり、水は赤くなった。この水を飲めば死んでしまう。猛毒なのだ。

 イフリートは、このオアシスの水の奥底に潜んでいるのだ。

 水の中でスパイからの連絡を待っている。

 オアシスの岸辺に下りた。

 大きい石が、たくさん転がっている。

 コリアは、石の陰に腰をかがめて、水面を観察した。

 静かである。

 イフリートの姿はみえない。

 コリアは待った。

 夜になった。

 コリアは待った。

 グールが襲ってきた。

 斬る。

 別なグールが現れて、グールの死体を食べ始めた。

 そのグールも斬る。

 またグールが現れた。

 コリアは、合計五匹のグールを斬った。

 グールの群れが現れ、死体を争奪した。大騒ぎである。

 コリアは、そっと場所を移動した。

 水面が波打ち、イフリートが現れた。

 巨大な蛇であり、首から上は人間の女である。

 イフリートは、「うるさいなぁ」というように顔をしかめ、口から電光を発射した。

 グールたちは塩の塊になった。

 ゆうゆうとイフリートが水の中に戻る。

 

 コリアは、ふと気が付いて、近くの岩を見た。

 ふつうの岩である。

 短剣で削ってみる。

 中は塩であった。

 オアシスの岸辺の岩は、イフリートで塩の塊にされた人間や怪物だったのだ。

 古い塊には砂がこびりつき、岩と変わらなくなっている。


 朝になった。

 イフリートが出て来て、垂直に立ち、周囲を見まわした。

 スパイのサバニたちの報告を待っているのであろう。

 なにもない、と分かると岸辺でトグロを巻き、目を閉じた。

 コリアは考えた。

 今なら戦える。

 オアシスの水の中で戦うのは論外である。

 水には毒が含まれているのだ。

 陸上で戦うしかない。

 イフリートから離れれば電光で塩にされる。

 接近戦しかない。

 幸いなことに蛇の胴体は太い。

 斬りそこなうことはない。

 ただ、強い力ではね飛ばされる危険性もある。

 比較的、力が弱いのはどこだ?

 首筋である。

 首筋を斬り、それから胴体をやみくもに斬る。

 弱ったところで、最後に胴体を真っ二つにするのだ。

「よし、やろう」


 しずかにイフリートに接近する。

 ジャンプし、首筋に剣を突き立てる。

 イフリートが悲鳴をあげ、首をふる。

 コリアは、突き立てた剣を握り締め、振り落とされないようにする。

 イフリートが、なんども首をふる。

 剣が抜け、振り落とされた。

 蛇の胴体の上に落ちた。

 胴体を斬る。

 胴体のぬめりで、剣がずれる。

「ちっ」

 また斬る。

 コツが分かったので、深く斬りこめた。

 イフリートが身体を振るわせる。

 コリアは、撥ね飛ばされた。

 イフリートが口を開ける。

「まずい」

 コリアは蛇の胴体に突進した。

 電光の死角に入る。

 胴体を斬る。

 イフリートが悶えた。

 もう一度、斬る。

 胴体がくねる。

 コリアは、はね飛ばされた。

「しまった」

 剣が手から離れた。

 オアシスの中に落ちた。

 水をしたたか飲んだ。


 コリアは、夢中で泳ぎ、岸についた。

 近くの岩に突進した。

 短剣で岩を削る。

 中は塩だ。

 塩を手づかみし、口に放り込む。

 呑み込んだ。

 まだ足りない。

 なんども、塩をむさぼるように呑み込んだ。


 イフリートが近づいてくる。

 顔がニヤニヤ笑っている。

 コリアは向き合った。

 にぎっているのは短剣だけだ。

 剣に手は届かない。

 頭がフラフラする。

 身体が重い。

 目がかすんでくる。

 これが最後だ。

 コリアは、首の鎖を切り、珊瑚の珠を握り締める。

 イフリートが口を開けた。

 珊瑚の珠を投げた。

 珠はイフリートの口に吸いこまれた。

 そして――、目の前が暗くなった。


 吐き気がする。

 もうれつな吐き気だ。

 それで気がついたのだ。

 胃の中のものを、すべて戻した。

 気分がよくなり、立ち上がった。

 イフリートが倒れている。

 コリアは、剣を拾い、胴体を切り開き、珊瑚の珠をとり出した。

 それから頭を割り、琥珀の珠をとり出した。

 イフリートが琥珀の珠をもっている、というのは上級僧のアリフから聞いたのだ。

 途中で待っている兵士たちに琥珀の珠を見せ、イフリートを確かに退治したことを証明する。

 そして、琥珀の珠はコリアがもらう。

 怪物を退治したトロフィーだ。

 二つの珠をきれいに拭き、懐に入れた。

 ふと見ると、水の赤い色が薄くなっている。

 イフリートが倒れたので、もとの清浄な水に戻るのであろう。


 コリアは歩き出した。

 まだ身体が重い。

 胃が痛く、汗が出る。

 まだ戻した。

 胃液しか出ない。

 それでも、少しは気分が軽くなった。

 剣を杖にして歩き続ける。

 これほど疲弊したのは初めてだ。

 ようやく、兵士たちと待ち合わせることにした場所に着いた。

 兵士は一人しかいない。

 みんな怖がって、結局、一人だけ来たのだろうか。

 この兵士は根性がある。

 琥珀の珠を見せて、安心させてやろう。

「待たせたな。ほら、これがイフリートから取り出した琥珀の珠だ」

「勇者コリアさま。たいへんなことになりました」

「どうした?」

「クチヤが全滅しました」



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