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コラッサンとランゴバルド

 コリアは珊瑚の珠をとり出した。

「これです。これしか考えられません」

 コリアが続けた。

「宝物庫に珊瑚がありました。コラッサンでも珊瑚は貴重なのですね?」

 ディーマ女王が答えた。

「この地方では珊瑚は採れないわ。崑崙山の彼方の海のある地方でしか採れない。だから貴重よ」

 コリアが、次のように説明した。

「ランゴバルドでツアトグアを倒しました。ツアトグアの身体には珊瑚の珠がありました。それを勝利のトロフィーとして持っていたのです。

 珊瑚には霊力があるのでしょうね。

 霧に襲われたときも、珊瑚の珠の霊力が助けてくれたのだと思います」


 女王は納得した。

「珊瑚に霊力がある、という話は聞いたことがあるわ」

 コリアが言った。

「提案があります」

「なにかしら。言って」

「宝物庫の珊瑚で小さな玉を作って、ヤンギルの国民全員に配るのです」

「そうすれば霊力でイフリートを防げるのね?」

「女王さまは、大きな珠で首飾りを作ったらどうでしょうか? 女王さまの護符です」

「それはいいわ。珊瑚でヤンギルの紋章を彫らせることにする」

 女王が続けた。

「あなたには、とても助けてもらったわ。ほうびとして、なんでも好きなものをあげる。欲しいものがある?」

「それでは、この国の記念に、伽羅竹で作った水筒を下さい。私の持っている水筒の三倍くらい大きいとありがたいです」

「出発するの?」

「はい」

「残念ね」

「私には、やることがあります」

「怪物を倒して、最強の剣士になるのね?」

「なにはともあれ、イフリートを倒すつもりです」

「この戦いの祝賀会であなたの送別会もする。水筒は、そのときに渡すわね」

「送別会は無用です」

「どうして?」

「きらびやかな席は苦手です。ひっそりと、独りで砦を出ます」

「あなたの好きなようにして」

「ありがとうございます」

 コリアは、頭を下げ、退席しようとして、止まった。

「あっ、もう一つ、余計なことを申し上げていいですか?」

「なあに?」

「できるだけ早くヤンギル軍の将軍を任命すること勧めます。司令官よりも高位に位置する将軍です。強くて戦略に長けていて情が深い人物がいいですね」

「バシールを将軍にするつもりよ」

「それは無理です」

「どうして?」

「バシールは、すぐに国王になりますよ」

 バシールとディーマは、目を合わせて真っ赤になった。


 コリアは水と食料を持ち、出発することになった。

 砦にいた隊商たちは、もう出発していた。

 彼らは各地でヤンギルでの戦いを興奮して語る。

 ヤンギルの戦いとコリアのことは伝説となって、長く伝えられることになろう。

 勇者コリアだ。

 砦の人たちは戦いの後始末で忙しかった。

 コリアが側を通っても気にしない。

 コリアには戦勝祝賀会のときに厚く礼をしよう、と思っていたのだ。

 こうして、コリアはひっそりと砦を出るはずだった。

 だが、そうはならなかった。



 ちょうどこのころ――。

 遠く離れたランゴバルドのワイルでは、ジモン少佐がベルエ川を船で下っていた。

 オリハルコンを動力とする親衛隊専用の大型船だ。

 現在、ジモン少佐は休職の身であった。

 そもそもは、ワイル四世から甥の行方を捜索するように命じられたことから始まった。

 捜索した結果、甥は死亡しており、コリアという額に三日月形の傷のある剣士が関係している、と判明したのだ。

 ワイル四世は激怒した。

「その剣士を探しだせ」

 そこに魔道士と名乗るマリアンが現れた。

 彼女は、二匹のツアトグアを退治し、剣士コリアを倒した、と言った。コリアを倒した証拠として、折れたシダライト・ソードを見せた。二匹のツアトグアを退治した証拠としては、青緑色の石がついた白銀のブローチを二個見せた。

 ワイル四世は大喜びした。

 魔道士マリアンは上級魔道士になった。

 上級魔道士になるには複雑な手続きが必要なのだが、ワイル四世はそれらを無視した。

 強引に魔道士マリアンを上級魔道士にしたのだ。

 ジモン少佐は抗議した。

 国王といえども規則を曲げるのはよくない。国民への示しがつかない。

 マリアンの話にも納得がいかないところがある。簡単に信用するわけにはいかない。

 ワイル国には上級魔道士がいない、ということを聞きつけて、上級魔道士の地位に座ろうとしているのではないか。

 こうしたことをワイル四世に言ったのだ。

 マリアンが気に入ったワイル四世は、ジモン少佐の言葉を退けた。

「お前の顔はみたくない」

 休職になったジモン少佐はマリアンの正体をあばこうと決心した。

 魔道士マリアンがただ者ではないことは分かる。彼女の正体をつきとめるには、彼女以上の大物に接触しなければならない。

 ランゴバルドで最高の魔道士といえばプネルオだ。推定年齢五百歳とされるプネルオは、今はもう引退している。では、どこにいるのか? 

 親衛隊の情報網を活用して調べると、北にある港町のロスズンドで隠棲しているらしい、と分かった。

 こういうことでベルエ川を下っているのだ。


 ロスズンドに着いた。

 大きな港町なので活気がある、と思っていたが、そうではなかった。

 町全体が暗い雰囲気に包まれている。

 親衛隊の隊士が、あちこちに立っていた。

 その一人に聞いた。

「首都コムモリフのジモン少佐だ。なにかあったのか?」

 隊士が、直立不動で答えた。

「この町は呪われているのです」

「どういうことだ?」

「妖魔が出没するのです。何人もの住民が犠牲になりました」

「それで親衛隊が派遣されたのか?」

「はい。妖魔を退治せよ、との命令です」

「妖魔を退治するのは無理じゃないかな」

「自分たちもそう思います」

「聞きたいことがある」

「なんでしょうか?」

「魔道士プネルオがどこにいるか、知らないか?」

「その名前は聞いたことがありません」

「そうか。礼を言う」

 ジモン少佐は港の方へ歩きだした。

 親衛隊隊士は、任務でロスズンドにきたのだ。この土地のことは知らないのが当然だ。土地のことは土地の者に聞けばよい。

 ジモン少佐は、港の酒場に入った。仕事を終えた漁師たちがいる。

 ジモン少佐は、袋から金貨をとり出し、パチっ音を立ててカウンターに置いた。

 漁師たちの目は金貨に吸い寄せられた。

「だれか魔道士プネルオを知らないか?」

 漁師たちは顔を見合わせて、首を横にふった。

「それなら、このあたりでいちばんの老人は?」

 漁師の一人が答えた。

「奇岩島に、すごい年寄りがいますぜ」

「歳は?」 

「二百歳くらいかなぁ。魔道士だとは思いますぜ。普通の人間じゃありませんわ」

「礼を言う」

 ジモン少佐は漁師に金貨を渡した。

「あ、あのう少佐さん」

「なんだ?」

「親衛隊の船で奇岩島へいくつもりですか?」

「そうだが」

「それは無理ですぜ」

「どうして?」

「奇岩島は岩礁のなかにあるんでさ。親衛隊の大きな船じゃ、無理ですぜ」

「それなら、お前が小船で連れていってくれ」

「それはごめんですぜ」

「なぜ?」

「あそこは呪われていますぜ。妖魔が出没しているのも奇岩島があるからだ、と評判ですぜ」

 ジモン少佐は部屋を見まわした。

「だれか、奇岩島へ連れていってくれる者はいないか?」

 だれも手をあげない。

 ジモン少佐は、金貨の入った袋をカウンターに置いた。

「連れていってくれたら、袋ごとやるぞ」

 ジモン少佐は、もう一つ袋をとり出し、カウンターに置いた。

「この袋には砂金が入っている。他国と取引するには、砂金の方が便利だろう。好きな方を選べ」

 若い漁師が手をあげた。

「両方ではどうですか?」

「いいだろう」


 ジモン少佐は小船に乗り込んだ。

 小船をあやつるのは若い漁師だ。

 岩だらけの海を、小船は大きく揺れながら進む。ジモン少佐は海水でびっしょりと濡れた。

 灯台が見えてきた。いや、違う。灯台にしては不気味な雰囲気がある。怪奇な塔としかいいようがない。

「ここですぜ」

 怪奇な塔のある小さな島に小船が着いた。

 ジモン少佐は、小船から下りて、言った。

「ここで待っていてくれ。待っていて、港まで送ってくれたら宝石の入った袋もやろう」

「ありがたいこって」


 ジモン少佐は塔へいった。

 塔を一周して扉を見つけた。

 扉を開くとかびくさい臭いが鼻をつく。

「おおい、だれかいるか?」

 答えはない。

 らせん状の階段をのぼる。上部の部屋についた。扉が閉まっている。

「だれかいるか?」

 小さな声が聞こえた。

「帰りなさい」

 ジモン少佐が答えた。

「私は親衛隊のジモン少佐。魔道士プネルオどのに聞きたいことがある」

 扉を開いた。

 部屋の中には、羊皮紙の巻物が積み重なっていた。クリスタルのタブレットもある。

 人の姿はない。

 部屋の中央に、細いほうきが、空中に縦向きに浮いていた。




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