頼む頼む頼む頼む全裸男爵(マッパバロン)
「ゼンラシュタイン博士! 怪しげな薬とスライムを使って嫌がる人々を全裸に剥く悪行、このわたしが許さん!」
遍歴の騎士はそう言い放つと、マントを宙に放り投げた。
マントの下から出てきたのは……全裸だった。
「人の全裸を犯罪呼ばわりしておいて……貴様も全裸ではないか! 貴様にわたしを悪だと断罪する資格はない!!」
ゼンラシュタイン博士が叫ぶ。
「わたしの全裸は正義の全裸だ。貴様のような悪の全裸ではない!!」
遍歴の騎士も叫び返す。
「お父様。全裸に正義と悪があるのでしょうか?」
服だけ溶かすスライムのせいでまろび出そうになっている豊かな胸を手で抑えながら、アル=ラシーダ公女は父公爵に尋ねた。
「わからん……全裸は全裸だろう。認めたくないが、それだけはあのゼンラシュタインの言ってることの方が正しいように思える」
「違うのです公爵。全裸に正義と悪とは存在します」
遍歴の騎士が公爵の方に振り向いて言った。全裸で。
「こやつのように嫌がる人間を無理やり裸にするのは、悪の全裸です」
「うむ……。確かに人の嫌がることを強いるのは悪と言えるだろう。だが正義の全裸など存在するのか?」
「存在します!」
遍歴の騎士はそう言い放つと宙に舞い上がり、鮮やかにムーンサルトを決めた。股間になにやらぶらぶらさせながら。
騎士はゼンラシュタインの背後に着地し、足を上げて怪博士の尻を蹴った。
「うぬぅ」
ゼンラシュタインはバランスを崩す。二・三歩たたらを踏んだおかげで、なにかがぶらぶら。
「正義の全裸とは!」
遍歴の騎士はびしっとゼンラシュタインを指差す。
「誰に強制されることもなく、自らの意思で、脱ぐものなのだ!! 自らの意思で脱ぐ全裸こそ至高の自由!」
「ただの露出狂ではないのか?」
ゼンラシュタインが、彼にしてはまっとうなツッコミを入れてくる。そして渾身の右ストレート。遍歴の騎士はひらりとかわす。
「違う! 貴様のように悪に染まりきった男には、わたしの全裸の意味するところのものが理解できないのだ!」
再び遍歴の騎士の蹴り。今度はゼンラシュタインには当たらなかった。
「自ら脱げば、それは悪の全裸ではないのですね?」
突如アル=ラシーダ公女が口を挟んできた。その瞳は理由はわからないが感動の光をたたえている。
「突然何を言い出すのだ娘よ。あれは変態の戯言だ……たぶん」
「いいえお父様、わたくしはあの方を信じたくなってきております」
「なぜだ娘よ。どうして変態の言葉を信じようとする」
「なぜなら……あのお方は非常に立派なお道具をお持ちですので……」
生まれた時から政略結婚の道具となる宿命を負わされた公女の精神は、いつしか歪んでいた。
政略結婚の相手の顔や性格がどういうものでも関係ない。たとえ最低最悪の相手であっても、自分は我慢しなければならない。そう思い続けていたのだ。
ただし、公国と嫁ぎ先との関係を良好にするためには自分が早くから相当の数の子を産む必要があり、それには自分の相手にもそれ相応の道具が必要だ。だから自分が結婚相手に望むのは生殖器が立派であるかどうか、ただそれだけなのだ。
……これが長い間結婚に対する幻想を砕かれ続けた少女の夢のなれの果てである。
奇怪に歪んだ少女の夢は、男性の価値はち◯ち◯が立派かどうか、ただそれだけで決まる、という恐るべき信仰へと変貌していた。
とまあ、これが公女が「あの方は信用できそう」と思ってしまった理由である。
全裸の遍歴騎士のそれは、確かにご立派だった。
「美しき公女よ、正義の全裸のなんたるかに目覚めましたか!」
ゼンラシュタインと戦いつつ、遍歴の騎士が朗らかに言う。
「は、はい……お、おぼろげながら」
服だけ溶かすスライムの侵食は進んでいる。すでに公女のドレスのスカート部分は、膝上20センチのレベルまで露出されていた。その内部にある下着も、半分ほど溶かされているようだ。
胸はもういくつかの布切れを残すのみとなっており、公女は手でそれらを集めてかろうじて大切な部分を隠しているに過ぎない。
「真理にたどりつつある公女様に、わたしの真の名を教えよう!」
(変態の本名など知っても何の得もないと思うのだが……)
公爵は心中そう思ったが、声に出すとなにかろくでもなさそうなことをされそうなので、あえて黙っていた。
「我が名は、全裸男爵!」
(本名でもなんでもないじゃないか)
公爵はそう思ったが例によって声には出さない。
「マッパバロン……様……」
公女は瞳をうるませている。ドレスのスカートはもうほとんど腰にくっついた輪のようになっており、下着の方も三角形の布が紐で吊るされているような状態だ。胸周りの布はすでに消失してしまっており、異世界で言う手ブラ状態になっている。
「公女。あなたはすでにゼンラシュタインによって己の意に反する形でほぼ全裸にさせられている。それでいいのか。他人にされるがままに全裸にされていいのか」
「他人のされるがままに……?」
公女のドレスのスカートはすでに消失している。下着の布も前部分しか残っておらず、愛らしいおしりが丸出し状態である。
「否! 人は他人に脱がされるものにあらず! 自らの意思で脱ぐべきものなのだ!」
「自らの意思…?」
下着の前の部分の布はどんどん溶けていっている。
「公女! 脱ぐのです! 自らの意思で脱ぐのです! さすればあなたは一人の人間として解放され、わたしに力を与えることもできる!」
「開放(意図的な誤字)……そうですわね! 自らの意思で開放するのですね!」
「何を悠長に公女と話し合っているのだマッパバロン。お前はわたしと戦っているのだろう!」
「ぐうっ」
ゼンラシュタインの右ストレート。マッパバロンの上半身が揺れ、下半身の「お道具」も揺れる。
「マッパバロン様!」
「公女、わたしはいい。ご自身を自らの手で解放するのだ! 時間がない!」
すでに公女の前を覆う布は手の親指1本分ぐらいの面積になっていた。
「は、はいっ! わたくし、開放いたします!]
公女はそう叫ぶと、胸と下腹部を覆っていた手を離し、立ち上がった。
ふくよかな胸が、下腹部が、露わになる。
マッパバロンはそれをガン見した。
「よくぞ行動された公女! その崇高な行為がわたしに力を与える。ふぉおおおおおおおおお!」
マッパバロンは両腰に握りしめた拳を当て、咆哮する。
そこに隙を見出したゼンラシュタインは、必殺の一撃を放つためにマッパバロンに向かって突進した。と、次の瞬間。
「エレクトリンガー!!!!!」
なにものかがマッパバロンの下半身から屹立し、その先端がゼンラシュタインの顎を捉える。そのままゼンラシュタインは跳ね飛ばされ、お星さまになった。
「なんで前作の必殺技なんだ~!!!」
ゼンラシュタインは飛び去りながらそう叫んでいた。
※「エレクトリンガー」ってなんのことじゃい、と思った方は、「リンガ」でぐぐってください。
悪は、去った。
廃墟と化した大聖堂の中に立つものは、マッパバロンと公女しかいなかった。
他の人はみな変態ウォーズに巻き込まれることを避けようと、死んだふりをしていたのだ。全裸で。
この後、公女は自分を開放してくれたマッパバロンを心から尊敬し、深い愛情を抱くようになる。
最終的に彼女は一ダースもの子をマッパバロンとの間になすのだが、それはこれとは別の幾多の冒険を経た後の話である。
これらの冒険については、やがて語られることもあるだろう。なに? 聞きたくないって?
要は全裸男爵と書いてマッパバロンと読ませたいだけのお話でした。
今後は反省してかような大馬鹿な話の投稿は半分ぐらいにしようかと思います。できれば。