第2話:内心で、キレます!
ちなみにストックは18話くらいです
テスト週間きちーw
って感じです
おかしくない? いや絶対おかしいよね! 俺は殺す気満々だったんだよ!? 発言も殺意マシマシだったよ!?
……と、その時ふと思い出す。
女神が言った「聖人君子として生きなければならない」という言葉を。
もしや、《《聖人縛り》》を俺に強制したというのか?
すると何が起こるか——
主人公である「勇者」とその仲間たちが皇帝ノアに反逆せず、平穏な日々が続き……《《破滅エンドの回避》》ということに……!?
あのクソ女神いいいいいい!
許さん! 許さんぞ!!!
俺の自由気ままな傲慢最強悪役ライフを奪いやがって!
こうなったら! いつかあの女神をぶっ殺してやる!
まずはそのために――!
「ありがたき幸せ。では――〈身命の契約〉」
マジで言葉が違うなぁ!? ……じゃなくって。
俺の知る中で最も強い契約魔術――主従があり、片方が力を借りる通常の契約魔術とは異なり、これは互いの全てを預け合うもの――を発動すると、円の半分だけが描かれた魔法陣が中空に現れた。
「片方が死ねば道連れになる、まさに一心同体になる契約……か。かかっ、面白い! 良かろう。〈身命の契約〉」
ホルコスが大きな前足を上げて魔法陣に触れると、欠けていた部分が描かれ、綺麗な円になる。
そして、身体の中に膨大な魔力が流れ込む。
「これがっ……! 審正龍の力……!」
「ほぉ……まだ妾も強くなれるというのか……!」
魂レベルで同化すると、お互いの能力が干渉し合う。
ゲームでも、契約によって魔物の相棒の力を自身に宿し、戦うキャラがいた。つまり俺も、魔力や体力といった基本的な強さだけでなく、「龍の能力」そのものを手に入れられる可能性があるかもしれない。
元は偶然とはいえ、試してみる価値はありそうだ。
しかし……ゲームでは「ジェネリア」という存在は契約魔術でテイムできたが、魔獣――ホルコスのような、理性を持つ獣――はテイムできなかった。これはゲームにはない要素だ。現実だからこそ、ということなのか。
「非常に興味深いのぉ……とりあえず、お主から得た力をお披露目するとしよう」
次の瞬間、見上げるような巨体が消滅した。
どこへ行ったのかと見回すと――
「ここじゃよ、ここ。全く、勘が鈍いの」
「なっ――!?」
視線を下げると、神聖な雰囲気を纏う白髮の少女が、ポツンと立っていた。
白い外套に包まれたモノトーンの衣装。胸元は少し開いている。髪は背中まで伸びていて、雪みたいに真っ白だ。
それらが陽光に煌めいていて、美しさが増幅されている。
実際はともかく、見た目の年齢は高校生くらい。この世界は確か15で成人なので、成人と言ってもバレないだろう。まぁ、本当の年齢はその20倍くらいだが……
「……人に、なった?」
「その通りじゃ。ふふん、妾の力に恐れをなすが良い」
ふんす、と小さな胸を張って楽しげに笑っている。
これが世界最強の一角ってマジですか?
「さすがでございます、ホルコス様」
「かかっ、おべっかはよせ。しかして、お主、名前はなんと言う?」
「私はノアと申します。以後よろしくお願い申し上げます」
「ノア、か。あい分かった。これから、死ぬまでずっと一緒じゃからな、よろしく頼む」
あっ……ぬわあああ! ミスった!
これ「死ぬまで解除できない契約」だったああ!
待てよ、抜け穴は——ねぇな。一応あるにはあるが現実的じゃない。
契約期間は死ぬまで、つまり「永遠」ということになる。
——俺、もしや天寿を全うするまでこの白髮のじゃロリドラゴンと過ごすってことですか?
平穏な人生が不可逆的にお亡くなりになったのに気づいて横転……
「ではホルコス様、私の住む屋敷に戻りましょう」
「そんな畏まらんでも良い。そうじゃな、ルコと呼べ。敬称もいらぬ」
「……では、ルコ」
「よろしい――おっと、一仕事降ってきたの」
ホルコスがそこで言葉を切った。
疑問に思うのと同時に、不穏な気配に気がつく。
「なるほど、そういうことでしたか」
そこには、小汚く薄い桃色の肌に豚の顔を持ち、俺の二倍ほどの背丈がある豚人——オークがいた。
手には棍棒を持っており、あれで殴られてしまえばひとたまりもないだろう。
このサイズであればCランクほどか。問題なくやれそうだ。
「ではルコ、ここは私が」
「よかろう。ノアの力、存分に見せてくれ」
「承知ッ!」
それを開戦の合図と受け取ったのか、オークは真っすぐ走り出した。
さっきはBランクを問題なくやれたんだ、舐めプしてやってもいいだろう。
「〈落石〉」
オークの直上に、人くらいの大きさの岩が出現した。
岩属性は基本的にあまり強くない。他と違って物質であり、回避しやすいからだ。
とはいえ威力は充分だし、スマートにやれるに違いない。
ふふん、やっぱ俺ってば最強?
だが、それをオークは——棍棒をバットのように振り回して打ち返してきた。
あらら、すっごく速い。あー、これ頭に直撃するわ。いやはや、オークってば中々強打者なんだなぁ——
「あぐっ!」
思い切り頭に岩がぶつかり、その勢いで身体が仰け反る。
……クソ、まぁまぁ痛ぇじゃねぇかよ!
ゲームの世界であってゲームの中じゃないのはもう分かったって!
あぁもう頭に血が昇っちまったよ。早く死ねやこの豚ァ!
「これはこれは。〈爆滅〉」
刹那、目の前に太陽が顕現した。
膨大な熱エネルギーに、なす術もなくオークは焼き払われていく。
「……ふぅ。これくらい、楽勝でしたね」
一発でオークは消し飛び、爆風によって焼けていた草の火は消え、何かが爆発した跡だけが残された。
それに加えて肉の焼けるいい匂いが漂ってくる。すんごく腹が減る匂いだ。
「お主、頭から血を流しておるが大丈夫なのか……?」
「おっと、お見苦しいところをお見せしました。〈大治癒〉」
すぐさま傷を治し、何もなかったかのように微笑む。
ルコには苦笑いされたが、ユーモアを見せつけられたので多分大丈夫だ。そう思いたい。
「と、ともかく。近くにもう魔物はおらぬようじゃ。では、案内するがよい。それと、いきなり見知らぬ少女を連れていては奇妙であろう。ほれ、左手を出せ」
「こう、ですか」
何をするのだろうかと思っていると、いきなり姿が変化し、左手の人差し指に指輪が嵌められていた。龍のような形だ。
『これでどうじゃ。万事解決であろう?』
「……さすがでございます」
指輪の龍の目が、キラリと光った気がした。
……ガチで怖い。
◇
屋敷に戻る道中で色々談笑していたが、俺はふと気づいてしまった。
――こいつ、楽しむ気満々なのだ。
おかしいと思ったんだよ。
契約したり、人になったり、愛称考えたり、指輪になったり! ガチで旅行する計画立ててないとこんな上手く進まねぇだろ普通!
今も指輪からか、ウキウキで楽しんでるのが伝わってくる。
ピクニックじゃねぇんだぞこの龍め……
「ノア様っ!」
屋敷が見えてきたとき、玄関の方から、俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「シャル。掃除ご苦労さま」
「もう、いきなり出ていってびっくりしましたよ! 仕事もあって探しに行けなかったですし……」
銀髪の彼女はメイドのシャーロット。
エレヴァトリスと強いつながりを持つライツィア子爵家の令嬢だ。俺の専属みたいな感じでずっとくっついている。
兄や姉はいるが基本冷たい家族――というか皇帝の座をただ目指しているせいで家族愛がない――なので、自分が姉になってあげようとしているんだと思う。
ついでに言えば、後に闇落ちする。しかしその姿はなんとも痛ましいもので、プレイヤーの中で「救われない」という認識が共通だった。
「って、どうしたんですかその血! ま、まさかノア様のものじゃないですよね!?」
「あー、うん、傷跡ないから大丈夫。ほら、掃除手伝ってあげるよ」
「そっ、そんなノア様がやらなくても……!」
血の気が引いたような顔で止めてくる。しかも両腕を掴んで。
だが、仕事は早く終わらせたほうが良い。
仕事なんてものは次から次へと降ってくるし、すぐ終わらせないと手がつけられなくなるのだ。それで同僚が3人くらい死んだからな。
「〈掃除術〉」
「ああああぁ……」
シャルの情けない声が聞こえる中、葉っぱがどんどん吸い込まれていく。
「はい、これで終わり。じゃあ部屋に帰ろう――」
「おいノア。お前、俺様との訓練から逃げ出しておいてよくノコノコと顔を出せたなぁ?」
家の中から現れたのは、兄のディケール。貴族の装いなだけで、中身は普通にヤンキーだ。灰色の髪が風に揺れている。
ヤクザにもなれない可哀想なやつだが、弱かったノアを抑圧して闇落ちさせて悪にしたのはこいつが基本悪い。
プレイヤーからは「諸悪の根源」「クズ」「タケシ」と散々な言われ方をしていた。
「あぁ、そうでしたね。申し訳ありません、すっかり忘れていました」
「あぁ? 忘れてたぁ?」
いやぁ……実際そうなのだから仕方ない。こいつからの虐待に耐えかね、何かを求めて強くなるため森に出た――それがノアが俺になる前の最後の記憶だ。具体的に何を求めたかは記憶が曖昧だが、とにかくこいつが全部悪い。
というか、よくよく考えれば目覚めた瞬間の痛みはこいつのせいか。ボコボコにされてたんだ。地味に腹立つな……
「いいだろう、二度と忘れられないようにしてやる! 訓練場へ来い!」
「いいですよ、兄上。あ、シャルもついてきなよ。きっと楽しいものが見れるからさ」
「は、はいぃ!」
「わざわざメイドに自分の負ける姿を見させるなんて、さすが逃げた奴だ。頭が空っぽらしい」
あー、面倒なことになったなぁ……いや待て。
この家らしく下剋上という大義名分で暴れられるのでは……?
ルコとの契約とゲーム知識で強くなた俺ならボコせるのでは……!?
っしゃあああああああ!!!!
こいつをボコボコにしてやらぁああああああ!!!!
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