第1話:転生先は悪役でした。ただし……
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うだるような暑さ、セミの声が騒がしい日本の夏。
窓の外を見上げれば、飛行機雲が空を割るように伸びていた。
「エラーログ確認して、スクリプトを見直して……っと」
学生ならば、この暑さであっても元気に動けるのだろう。
しかし、三十路の俺にはそんな元気はない。それどころか、終わる気配のない仕事が積まれて死にかけている。
社畜は元気などとは程遠い場所にいるのだ。
「おい袖城! ぼさっとするな! まだ仕事終わってねぇだろ!」
「す、すみません……」
エアコンの冷たい風が一番当たるところでふんぞり返っている上司に怒鳴られ、喉が渇いてかすれた声で返事をする。
あー、マジで腹立つ。本当にイラつく。仕事が終わってねぇのはそっちのせいだろ?
だいたい、なんでこんな難しい作業をちょっとしかパソコン知識のない俺にやらせるんだよ。こういうのは外注だろ普通。
コストカットのしわ寄せを俺に投げるなよ。舐めやがって……!
これで手取りが同年代の平均未満とか終わってる。早く家に帰ってマギアカしてぇ……
「ちんたらしやがって……まったく、これだから最近の若者は。俺が若手だった時代には——」
上司の決まり文句である「最近の若者は」が発動した瞬間、俺は聴覚をシャットダウンして大好きなマギアカのことを考えることにした。
——『|マギア・カミナンテ《Magia Caminante》』とは、ストーリーの面白さや探索要素に定評があるオープンワールドのPCソシャゲだ。
進捗は【探索度】というもので表され、これを100%にするためには、広大なマップの全てにあるメイン・サブストーリー、挑戦、宝箱などを全てクリアする必要がある。
そして、俺は世界で3人しかいない「100%に到達しているプレイヤー」の一人。
達成時に取得した【踏破】の実績が、それを証明してくれている。
達成した瞬間は——いや今も、まるで頂点に君臨している気分だ。
その純然たる事実を思い出すたび、ストレスも“ある程度”は吹っ飛んでくれる。
……え、「全部じゃないのか」、だって?
それは無理だ。この上司ほど嫌いな奴はこの世界にいない。
しかし——現実は変わり始める。
ブチッ、という音と共に突然PCの画面が真っ暗になった。
「ちっ……故障か?」
「故障~? ふざけたことを抜かすな。今すぐ直せ!!!」
そういや、今徹夜で作業してたんだった。このパソコンもだいぶ古いし、直射日光を浴びていれば当然壊れる。
あーあ、どうしよ。仕事できなくなっちゃったよ。いっそ逃げようかな。というかもう転生したい。最強になって上司をボコボコにしたい。
すると、すぐに画面が白く煌々と輝き始めた。
故障ではなかったか、そう思ったのも束の間。真っ白な画面には黒い文字が表示されていた。
『思い出してみてください。あなたはどんな人生を歩んできましたか?』
不思議な問いだったが、3人目の愚痴を言う相手——元々隣のデスクにいた——が最近過労死していたのでちょうどいいと思い、独り言をつぶやき始めた。
後のことは考えていなかった。ただ愚痴を言いたかった。
「……日々、社畜として苦しめられ、少ない金で何かに縋ろうとする人生だった。頭も良くないし顔も普通だった俺には何の取り柄もなかった。暴れたい衝動を必死に抑えて生きていた。もうぶっ壊れてるのは自分でも分かってる」
ふとその原因である上司を見れば、大きく口を開けたままその動きは止まっていた。
もしかしたら、世界も止まっているのかもしれない。あるいはただの死ぬ間際の幻覚か。
あぁ……俺、疲れてんだな。
『その通り。だからこそ、あなたには第二の人生を用意したのです』
「第二の、人生……?」
『あなたには、悪役——ノア・エレヴァトリスに転生してもらいます』
「ノア……っ!?」
ノア・エレヴァトリス。
それは、マギア・カミナンテ——通称「マギアカ」の中で常勝不敗の最強キャラであり、悪役だ。
数多もの魔術や、彼だけの強力な固有魔術【深淵】を使いこなし、その上洗練された剣技は一流。
リノヴァルト帝国の公爵家の三男と地位もあり、将来的には皇帝にまで上り詰める。
そう、彼は地位も名声も女も欲しいままにする男。そして、傲慢に生きた最後には勇者の力を得た主人公と、虐げた民たちによって殺されてしまう男。
しかし——あぁ、最高じゃないか!
「悪役? はっ、上等だ! 好きなように暴れ、好きなように生き、二度目の人生を謳歌してやろうじゃねぇか! そんな事が本当にできるならよぉ!」
さぁ、何をして生きようか。
冒険者として名を馳せるのもいいな。悪党として小賢しく生きたっていい。でも聖人なんかにはなりたくないな。俺には合わない。
ともかく。
どう生きようが、救うも殺すも、全て俺の意のままなのだ。
——それが、俺の憧れた“魔帝ノア”なのだから。
『といっても、転生先はゲームではなく現実の世界。私にとって、世界があのままでは困るのです』
「現実……? お、おいちょっと待て——」
『ですから、あなたにはプレゼントを授けます。私の目が届くところにおいて、あなたには《《聖人君子》》として生きなければならないという祝福を』
「はぁ!? マジで何を言って——」
『最初は慣れないでしょう。ですが、あなたが聖人として世界を変えれば平和が保たれ、あなたも聖なる心を手にするに違いありません』
「俺は最強の悪役として無双して会社でのストレスを発散したいんだよ! いいから話を聞けよこのクソ野郎——」
刹那、淡々とセリフが表示されていただけの真っ白な画面から、「女神」が生えてきた。
きらびやかな見た目をしており、その手には、金色に輝く剣が握られている。
「さぁ、お行きなさい。私、女神アザノヴァの祝福をその身に宿して!」
——それを、真っ直ぐに俺の胸に突き刺す。
「かはっ——!?」
身体が熱を帯びる。呼吸が上手くできなくなっていく。
「生まれ変わりなさい、ノア。あなたはこれから真っ当に生きていくのです」
瞬きの直後、視界は空中に変化する。
そして身体が落ちていくような浮遊感と共に俺の視界は暗転した——文句の一つも言えないままに。
◇
「——はっ!?」
痛みに目が覚める。
それと同時に、鬱蒼と生い茂る木々と青空が見えた。どうやら、今の俺は地面に仰向けで倒れているらしい。
身体の節々がズキズキと痛むせいで動ける気がしねぇ。
しっかし……胸の辺りがクソ熱い。まるで焼けるような熱さだ。
そう思って胸元を見ると、先程クソ女神が俺にぶっ刺しやがった「金色に輝く剣」が、しっかりと刺さっていた。
しかも俺の身体を地面に固定するかの如く串刺しになっており、血がドクドクと湧き出ている。
「まずはっ……これを抜かないと……」
臓物が蠢く灼熱の痛みに耐えつつ、剣の柄に手を伸ばしゆっくりと引き抜く。
「……〈治癒〉っ」
咄嗟に口に出たその呪文。
一瞬「あっ」と思うも、手からは緑色の光が放たれ、胸の傷はみるみる治っていった。それに伴い、身体の痛みも消えた。
「ほ、本当にゲームの世界なのか……!」
いつも画面の向こうに広がっていた光景が、今、目の前にあった。
魔力の流れを、魔術を発動する感覚を、確かに感じた。
おもむろに立ち上がると、胸いっぱいに空気を吸う。
深い森の匂いを、木漏れ日を、今までとは異なる身体を感じる。
剣を持ち、血にまみれてなお輝く刀身に、自分の顔を反射させる。
そこにいたのは、紛れもなく少年時代の「ノア・エレヴァトリス」だった。
短い黒の髪と、全てを飲み込みそうな黒の瞳は悪役に相応しい。
「にわかには信じられないが……五感がここを現実だと告げている。信じよう、ここは——マギアカの世界だ!」
あの上司から逃げることが出来ているこの状況を、どうして拒むだろうか。少しでも遠ざかることができるのならば、俺は喜んでこの世界を受け入れよう。
さぁ、傷は治った。
どうして森の中なのかは分からないが、きっと俺の住む屋敷は近いはず。
となれば、マギアカ全クリ勢の俺ならこの場所も自然と分かる。
確か、「ニレイスの森」だったか。危険な魔物が跳梁跋扈する、エレヴァトリス公爵家の領地だ。こんなに深い森は領地にここしかない。
時刻は太陽の位置から察するに昼下がり。
服が少し汚れているから、屋敷を飛び出してきたのかもしれない。まだ記憶が混乱してて思い出せないからなんとも言えないが、遊ぶ時間くらいはあるはず。
「やはり、悪役に転生したならやることは一つでしょう」
せっかく強いキャラなんだし、魔物を盛大にふっ飛ばしてみたいよな。口調もなんか貴族感出てきたし。
あと、今はとにかくストレス発散がしたい。一回ガス抜きしてから楽しみたい。
「魔物の魔力はあっちの方、か」
そうして俺は、神剣を片手に異世界での一歩を踏み出したのだ。
——それから数分後。
森の深く、大きな山の麓に空いた大きな空洞に、無数の魔物が群生する巣窟があった。
濃密な血と死の匂いが、風に乗ってはっきりと伝わってくる。
その入口に、番犬の如く群がる狼の魔物がいた。
「なるほど、暗影大狼か。Bランクの魔物……やれるな」
テンプレよろしく魔物にはランクがある。
下からD、C、B、A、Sの五段階。
つまり、こいつはそこそこ強い。とはいえ、最大まで強化されたキャラならば数発で倒せる程度だ。
今の俺で倒せるかは分からんが、知識があればどうにでもなる。
どれだけ弱くとも、知識と忍耐があればレベル100の魔物を倒せるのだ。それはゲームでも証明されている。
「……そういや、固有魔術っていつから使ってたんだっけ」
ノアの代名詞とも言える固有魔術、【深淵】。
作中では悪魔との契約によるものと仄めかされていただけで、正確な時期は明らかになっていない。
ものは試しに、詠唱をしてみるとしようか。
「深淵なる闇よ、我が意に従え」
……ダメだ、何も起きない。
いや正直分かってたよ、契約してないし。残念だけどしょうがないよなぁ……しばらくは固有魔術を使えるようにするのが目標になりそうだな。
だが、問題はない。俺には知識がある。マギアカに存在する数多の魔術を知っているのだ、どうとでもなる。
「「「グルルル……」」」
「おっと、これは失礼」
からかっているのか? と言わんばかりに唸り声を出されてしまった。これどう考えても襲ってくるやつ。とってもマズいはずだ。
「グルルラァ!」
一匹が駆け出したのを皮切りに、十匹近くが一斉にこちらに向かってきた。俺の持つ武器は神剣と魔術——はて、どうにかなる気がしてしまうのは傲慢なのかもしれない。
さて、どうしようか。神剣を使うか、魔術を試すか。
う~む、ここは景気よく――
「〈爆滅〉ッ!」
ちょうど高く飛んで襲いかかってきた狼に、地獄のような魔力の塊が直撃する。
――刹那、白と赤の閃光が数回瞬いた。
灼熱は大地を焼き、地面を抉ってなお太陽のように煌めきを放つ。
一拍遅れて焦げた匂いと共に爆風がやってくるが、それは〈防風壁〉で防ぐ。
「グルルッ!」
俺の足元の影から「狼の分身体」が出てきた。これは暗影大狼の能力。初見殺し的な奴だ。
だが、ゲームの知識によってこいつの特性を理解していた俺は神剣を振り抜き、その首を綺麗に落とす。
「これで一匹。さて、次はどうするか」
俺がそう呟いた途端、狼たちは尻尾を巻いて逃げてしまった。
追いかけようかと思うも、足がなぜか動かずその場に立ち尽くす。
「まぁ、問題ないか」
おいおいマジかよ……戦闘、クソ楽しいなオイ!
血湧き肉躍る戦いの最前線、まるで自由の象徴だなぁ!?
もっとだ。もっと俺は魔物を狩って強くなって世界最強になる!
ダンジョン――魔物と宝のある迷宮だ――もじゃんじゃん踏破してやらぁ!
「素材の回収は……出来ないな。さて、ここからどうしようか」
その瞬間、巣窟の奥の方から強烈な威圧感を感じる。
暗影大狼とは比べ物にならない存在感は、ただの魔物ではないことをいとも容易く証明してみせた。
「とりあえず——逃げるか」
脇目も振らず、俺は足を動かし始めた。
剣を絶対に落とさないように、足元に気をつけながら。
「はぁ……はぁ……こ、ここまで来れば……!」
果たしてどれだけ走ったか。11歳の体力では限界が近づいてきた時、異変が訪れる。
——空を、大きな影が覆い尽くした。
一瞬、太陽が雲に隠れたのかと思ったが、空を見やればすぐにそれが勘違いであることに気づく。
「な、なんだ?」
刹那——大地が弾けるような爆音と共に、白い巨体が落ちてきた。
辺りの木々は踏み潰されて見るも無惨にカーペットと化しており、開けた土地が出来上がった。
そこに吹き抜けた風が木々を揺らし、心のざわめきと共鳴する。
「汝、何故その『神剣ネメシス』を持っておる。それは女神アザノヴァの所有せし物であろう」
ゆっくりと、尊大な口調で話しかけてきたのは、大きな身体と一対の翼を持つ龍だった。
龍と言えばゲーム内においても最強格の一つで、魔物の中と限定すれば間違いなく最強。
にしても、この純白の体躯、黄金の眼——もしや。
「あなたは、もしや審正龍ホルコス様ではないでしょうか?」
「いかにも。さすがはエレヴァトリスの子だ。分を弁えておる」
俺がなぜかエレヴァトリスの人間とバレている……のは一旦無視だな。
さて、今俺はなんて言った?
頭の中じゃ、そんな丁寧な口調じゃなかったはずなんだが。
よし、じゃあ次はこう言おう。「今すぐ貴様をぶっ殺し、俺の平和な生活のために血肉も鱗も有効活用してやる」と。
素晴らしい。完璧だ。
魔力がどれほどあるかは分からないが、いくら大陸において神の使いとされる聖龍でもどうにかなるだろう。
なにせ俺はゲーム知識を持った最強の悪役。龍が聖龍になるくらいは些事だ。
俺は前世のストレスを発散するため、自由気ままに暴れるのだっ!
「あぁ、偉大なる審正龍様。どうか私めと契約していただけないでしょうか。私にはあなたが必要なのです」
「ほぉ。契約と来たか。かかっ、面白い。神剣を持っているのは不思議じゃが、その剣を持っている以上悪い者ではないはず。良かろう、契約してやる」
……あっれえええええええ???
「面白い!」「続きが読みたい!」
など思っていただけましたら、
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