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後編

 ただ挨拶をされただけだ。


 たったそれだけで、俺は首元にナイフを突き立てられたような感覚に陥る。


 イザベラには、頼れと言われたクリミナだが、結界の張り巡らされた部屋の中で、微笑み投げかけられた先程の言葉は『お前の正体を知っている』という警告に他ならない。


 逃げる?

 不可能だ。格が違い過ぎる。


 悩む俺を尻目に、クリミナは小さく笑うと、肘をついた。


「そんなに怯えなくていい。なに、マリアーナが10日前に教会の裏で、ひとり泣いてな。見つけたやつが、血相を変えて、この部屋に連れてきたことがあってな。

 その時に言っていたんだ。『イザベラが、大量の花に囲まれる夢を見た』ってな」


 10日前。

 ちょうど、イザベラが死んだ日だ。


 棺いっぱいに、花を敷き詰めて、彼女を寝かせた。


「他の人間ならまだしも、その夢を見たのが、聖女見習いの、しかも妹ときた。これを、ただの夢だと一蹴するなら、そいつは相当お気楽だ」


 マリアーナも、きっと気付いていた。

 さすがに、その啓示の意味もわからなければ、聖女見習いではない。


「仮に、マリアーナがその夢を見た日。それが、イザベラの死んだ日とする。それから数日、現れたイザベラとそっくりななにか」


 そんな夢を見ていたのなら、最初から疑われても仕方ない。


「調べるに値すると思わないか?」


 それどころか、国に入ったところで、殺されなかったのが、もう奇跡だろう。


 彼女たちにとっては、友人の死を偽り、英雄として戻ってきたなにか。

 今まで泳がされていただけで、この状況は完全に詰んでいる。


「………………冗談だ。いや、冗談ではないが。とにかく、敵意がないとだけ思ってくれればいい」


 諦める俺に、少しだけ困ったように掛けられる言葉に、少しだけ眉を潜めた。


 今の言葉のどこに敵意のなさがあったのだろうか。


「本当だ。信じてもらえるかはわからないが、私は、イザベラが生きて帰ってくるとは思っていなかった」

「!!!!」


 気が付けば、淡々と述べるクリミナの胸ぐらを掴んでいた。


 イザベラは友人だと言っていた。そいつが、死ぬと思って、旅に送り出したと。

 許せるわけがない。


「そういう旅なんだよ。あの巡礼とやらは」

「でも……!!」


 確かに、今までだって、何人もの聖女が命を落としている。

 だから、イザベラだけが特別だなんて、誰もが信じてはいたけど、誰もが絶対だとは思っていなかった。


「友達なんだろ!? だったら……!!」

「巡礼を成功させるとは、信じていたよ」

「ぇ……」

「過去の文献を漁ったところで、巡礼を成功させた聖女は、巡礼後、間もなく命を落としている」


 だから、例え成功させても、イザベラと再会はほぼ不可能だと思っていた。


 ただそれだけだと、相変わらず淡々と答えるクリミナは、力の抜けていた俺の手を退かすと、じっと俺のことを見上げる。


「それに今、私にとって大切なのは、イザベラそっくりなお前の存在だ。お前は、なんだ?」


 そう言われて、今更ながら、初対面にも関わらず、お互いに全く自己紹介をしていないことに気が付いた。

 いや、この人、気付いているんじゃないか……?


 そう思いながらも、自分は、イザベラが巡礼の旅の途中で出会ったドッペルゲンガーであること、マリアーナが成人するまで、イザベラの振りをするように頼まれたこと、クリミナに協力を仰げと言われていることを伝えた。


「信用すると?」


 そりゃそうだ。

 イザベラの名前を出して、偽っている可能性は大いにある。


 何かイザベラに頼まれたことを証明できる確たる証拠……


「じゃあ、この刻印を見てくれ! イザベラが最後に残した、3つの奇跡だ!」


 右鎖骨下辺りに刻まれた、イザベラの残した3つの奇跡。


 これは、聖女であるイザベラ以外にはできない、確固たる証拠になるはずだ。


「聖女が使うよりも、ずっと質は落ちるけど、それでも奇跡を使うことができるのは、聖女の証だろ」

「2つしか見えないが」

「…………ぁ」


 そうだ。マリアーナに使ったんだった。

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