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前編

 わかっていたことではあったが、翌日は多忙を極めた。


 いくら、セント・バルシャナ聖国が王都以外存在しない小さな国とはいえ、それは他の国に比べての話。

 人一人が移動するには、十二分に広い。


 しかも、『聖女は惑える人たちに手を差し伸べるものであって、座して待つものではない』という教えのおかげで、教会に出向いてもらうのではなく、こちらから出向く必要があった。

 これは、かつて、金持ちばかりを相手にした教会が原因らしい。

 全く、その時代に生きていたなら、そんな教会なんて燃やしてやるところだ。


「いまだ、以前と同じとは行きませんが、少しずつ物流も回復してきていまして」

「それはよかった。私も、いくつかの町に寄りましたが、少しずつ活気が戻ってきていましたから、一緒に頑張りましょう」

「はい。聖女様」


 挨拶とはいえ、文字通り、一言『ただいま』と言って終わるはずもなく、相手の巡礼中にあった出来事を聞いて、それに合わせた巡礼中のエピソードを返す。


 ただ、この一日だけで、イザベラの巡礼中のエピソードを、同じものを5回は話した。

 一緒に付いてきている御者も、飽きてそうだ。3日後には、すっかり覚えて、代わりに語れるんじゃないだろうか。


「名残惜しいですが、私はこの辺で」

「えーもう帰っちゃうの?」


 近くにいた子供が声を上げては、親が手を引いて抑えた。


「ごめんなさい。無事に帰ってきたことを、みんなにも伝えないといけないの。また来るからね」


 手を引かれて不思議そうな顔をした子供に近づき、視線を合わせるように、屈んで、頭を撫でれば、案外簡単に納得した。

 ばいばい。と手を振れば、同じように、手を振り返してくれた。


「…………」


 馬車の中、声は出せないが、足を伸ばし、静かに大きく息を吐き出す。


 旅を一緒にしていたから、多少、イザベラの言葉遣いや仕草はマネできる。

 話す内容は、聖女っぽいことを言っているだけ。

 正直、イザベラは聖女らしくない部分があったし、イザベラを知っている人からしたら、違和感もあるだろう。そのレベルの変装だ。


 ただし、どんな言い訳をしようが、偽物だとバレたら、処刑確実。


「…………」


 ドッペルゲンガー故に、容姿に関しては、本人以上に完璧にコピーしている自負はある。

 だが、真の姿を見る魔法を使っている魔法使いがいたら、看破される可能性はある。その上、セント・バルシャナ聖国は、そういった人を惑わせる魔法を看破する類に関して、魔法以外の要素のおかげで、とても強い。

 だから、そんな魔法使いは需要が無く、魔法で看破してくる人はいないと思っていい。


「イザベラ様。着きました」

「ありがとうございます」


 そう。

 そういった類を看破するのに長けた、聖女を唯一、排出できる国だからだ。


 そして、俺はその聖女に変装しているのだから、普段の寝泊まりは、聖女見習いを始めとする聖職者たちが蔓延る教会ということになる。


「イザベラ様!! おかえりなさい!!」

「ただいま戻りました」


 あ゛ーー……帰りたい……

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