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3年間、聖女を偽ることになりました。ドッペルゲンガーです。  作者: 廿楽 亜久
第11話 偽りの奇跡

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前編


「やらかした……」


 クリミナの部屋で、ドッペルは頭を抱えていた。


 イザベラから託された、3つの奇跡。

 ひとつは、自分がイザベラではないことに気が付いていたマリアーナを騙すために使った。

 そして、つい先ほど、ふたつ目の奇跡も、勢いに任せて使ってしまった。


「最高に”らしかった”じゃないか」

「らしかったで済む話か!」


 クリミナは楽し気に笑っているが、聖女を偽るのは、三年間だ。

 それが、一年目の段階で、貴重な奇跡が残りひとつになった。


 正直、ドッペルの死が目の前に迫っているようにしか見えない。


「しかも、せっかく使った奇跡、割られてるし」


 きれいな水が湧き出るグラスは、あの男が目の前で叩き割った。

 本当に、意味のない、無駄な奇跡になってしまった。


「……」


 だが、クリミナは慌てた様子はない。


 この魔女からすれば、ドッペルの正体がバレたところで、自分も騙されていたのだと言えば、逃れられると考えているのだろう。

 というか、言い逃れるし、言い逃れられなくても、平然とした顔で逃げそうだし。


 騎士団たちからも、教会ほど露骨に嫌われているわけではないが、決して好かれているわけではないのは、その辺りの性格の問題だ。絶対に。


「というか、さっきから何してるんだよ」


 文句を言ったところで、聞く耳を持たない魔女の心理を考えるのはやめて、その魔女が先程から熱心に見つめているフラスコの方へ、意識をやる。


 透明な水に満たされたフラスコで、火もかけていないのに、時折、そこから空気が湧き上がっている。

 目を凝らせば、なんとなく、透明な何かが沈んでいるようにも見える。


「実験だ」

「なんの」

「奇跡のだよ」

「奇跡?」


 意味が分からない。


「聖女を聖女足らしめるのは、なんだと思ってる」


 教会にごまんといる聖職者ではなく、聖女である理由。


「そりゃ……奇跡だろ」


 他の聖職者には起こせない、魔法とも違う、神より与えられた、世界の因果を変えるような力。奇跡だ。


 そのために、イザベラやマリアーナのような、聖女としての素質のある少女たちを教会は囲い込み、修行を積ませる。

 そして、16歳の誕生日に、神より神託を受け、聖女となる。


「でも、奇跡の実験ってなんだよ。見せかけるって話か?」


 奇跡を使えないながらも、奇跡を使えるように振舞わなければいけない。

 そのために、魔法の使えるクリミナや教会や騎士団が、裏で工作することになる。


 大掛かりなマジックショーみたいなものだ。

 その演者は、ドッペル自身であり、ドッペル自身が偽物の聖女(えんじゃ)であることはバレてはいけない。


「……まぁ、そうだな」

「何だよ。その間」


 クリミナの言葉の間に、ドッペルが訝し気に眉をひそめ、肘をつきながら尋ねる。

 だが、その答えが返ってくるよりも先に、勢い良く開く部屋のドアに、ドッペルは慌てて座り直した。


「今戻った! 灰被りの君!」


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