前編
広場に集まっている大勢の人。
精霊樹の回復について、既に報せは世界中に広まっているが、改めて、聖女から”世界の救済”について宣言するために、設けられた場所。
「姉さま? 緊張されているのですか?」
そりゃ、してる。
元々決められていたことであり、この演説には、国内外から人が集まり、各国の記者も多い。
つまり、ここで何かをやらかせば、聖女が偽物であることが、バレる可能性も高い。
「少しだけよ」
イザベラが、緊張している様子は、あまり見たことがない気がする。
少なくとも、自分の前では、あの穢れた精霊樹を浄化しに行く時も、死ぬ時ですら、恐怖や緊張はしていなかった。
「……でしたら、手を、繋ぎますか?」
おずおずと提案するマリアーナに、一瞬、何を言われているのかが分からなかった。
手を、繋ぐ?
イザベラ、そんなキャラだったか?
妹に対しては、そんな姉だったのか?
すごい勢いで頭を駆け巡る思考に、答えは出ることもなく、無理矢理、結論を出す。
「マリアーナは、優しいわね」
そう冗談交じりのように微笑み、マリアーナの手を取る。
「え、えっと……そう、ですかね……?」
顔を赤くしながら、恥ずかしそうにするマリアーナに、なんとか誤魔化せたかと、内心ほっとする。
昨日、一晩話していたせいか、少し気が緩んでいた。
マリアーナには、奇跡を使って、俺がイザベラであると勘違いさせているが、一目で偽物だと見抜かれているのだ。
何より、小さい時からずっと一緒にいる姉なのだから、仕草や言動ひとつで、違和感を持つ可能性が高い。
「なにしてるんだ」
気を引き締めていたところに現れた魔女。
呆れるような冷たい視線が、俺に突き刺さる。
「クリミナさん……? 今日は来られたんですね」
驚いた声を上げるマリアーナに、クリミナは、疲れたように視線を逸らした。
「まぁな。お前の姉さんが寂しいとか言うからな。かわいそうだから、来てやった」
「ふふふ……相変わらず、仲良しですね」
「聖女見習いが、空言を騙るなよ」
「平気ですよ。真実ですもん」
口調こそ普段と変わらないが、俺やシエルに大してとは違う、随分と優しい声色だ。
こいつに、こんな人の心があったんだな。
意外な事実に感心しながら、こちらへ視線を送る魔女に、俺も小さく息をつくと、笑顔を作った。
「でも、ちょうどよかった。クリミナ。マリアーナのこと、しばらくお願いしてもいいかしら?」
「構わないとも。最前列は、教会の連中で固められる予定だしな。聖女に、聖女見習いからのお墨付きともなれば、私がそこにいても問題ないだろう?」
「問題は起こさないでちょうだいね……」
「だ、大丈夫です。姉さま。なにかあったら、私が止めますから」
健気なマリアーナの言葉に、クリミナも、何か隠しているような表情をしていて、マリアーナがもう一度、釘を刺している。
しかし、実際のところ、俺がやらかした時に、すぐに対応できるように、できるだけ近くにいたいのだろう。
国王と大司教。
その両方に、すでに奇跡や祝祷術が使えないことは伝えている。
この大イベントで、聖女の力の衰退について、公にするわけにはいかないため、誤魔化す力のあるクリミナが近くに控えることを、大司教も止めはしないだろう。
「基本、いつもの説法と同じ……大丈夫。何回も見てきたことだ」
一緒に旅をしている間、何度も見た。
聖都に来てから、何度も演じた。
「聖女様。お願いします」
短くかけられた言葉に、思い起こしていたイザベラを表情に写して、頷いた。




