後編
嫌われてた? 教会に? 聖女なのに?
確かに、そう言われれば、そうだったのかもしれないと思うことは、旅の中に多くある。
だが、世界的に最も大きな精霊信仰の聖女を、嫌う?
そんなことがあるのだろうか。
もし、それで巡礼を失敗すれば、瘴気は世界中に溢れ、自分たちだって死ぬというのに。
「受け入れがたいかもしれないが、事実だ」
嘘をつかなさそうなシエルにまで言われてしまっては、否定する言葉も出てこない。
「なんで……」
「そりゃ、アイツが――」
クリミナが口を開いた瞬間、シエルの手が遮る。
「すまない。追いついてきたみたいだ」
「あぁ……後ろの連中はどうにかするから、適当に祈る振りしてろ」
後から来るという騎士団が追いついてきたのだ。
今の話を聞かれるわけにもいかず、一度話を中断して、倒れた魔獣の近くに跪き、手を組んだ。
祈りの仕方なんてわからないから、ただの記憶にある形だけを真似る。
だが、騎士たちからすれば、それで十分だ。
「さすがです。すでに倒されていたのですね」
「うむ。灰被りの君の前で、情けない姿を晒せないからな」
「せっかく、イザベラを連れてきたって言うのに、もったいない」
「それに関しては、教会から文句が来ていますので、後ほど対応してくださいね」
そういえば、公務の間に少しだけクリミナへ会いに来たのだった。
すっかり時間を忘れていたが、既に次の予定の時間になっている。
全く反省している様子がないクリミナに、注意している騎士も疲れたようにため息をついている。
「実害被る魔獣の討伐に勝る、急務な仕事なんてないだろ」
「自分は言えませんので、ご自身でお伝えください」
「そうするよ」
少しだけ頬をひきつらせた騎士の様子からして、今の言葉は嫌味だったのだろう。
こいつの場合、普通に悪びれず言いそうだし、今のはこの騎士の言葉選びが悪い。
「じゃあ、このあと、ご要望通り、イザベラと言い訳回りしてくるから、後片付けは任せるよ」
「承知した。この名呼ばれれば、音より早く駆け付けることを約束しよう!」
「…………」
さらっと仕事を押し付けるクリミナに、うれしそうなシエル、そして彼女たちを見て何か言いたそうな騎士。
自分の立場からすれば、クリミナがこのあとついてきてくれるのは、願ってもいないことだが、少しだけ騎士に同情する。
「イザベラ。もう行けるか?」
「あ、うん。ありがとうね」
クリミナに促されながら、来た時と同じように、空を飛びながら、王都へ戻った。




