魔女、猫を探す2
人通りの多い場所を歩く。
魔法で猫の大まかな場所は分かっている。
あとはおばちゃんから貰った紙に書いてある特徴が合致する猫を探せばいいだけだ。
それだけなんだが……
「全然見つからない」
ミアは一人つぶやく。
いや、猫自体はたくさん見つかるんだ。
だけど、この町には意外と猫が多い。
もう見つかりませんでしたで終わろうかな。
いや、そうすると私の魔女としての名が廃れてしまう。
絶対に見つけなければ。
「……み、ミュー?」
猫の名前を呼んでみる。
恥ずかしい。
周りの人がこっちを見ている気がする。
名前を呼ぶのはやめよう。
「一体どこにいるんだ」
魔法で猫の場所を特定して分かったことだが、猫は路地裏に多い傾向がある。
何匹かで集まってたりするんだよな。
そう思いながら路地裏をチラリと見る。
ほら、猫がいる。
でも、探している猫じゃないんだよな。
……これ、ガチで見つからないかも。
楽だと思ってこの仕事を引き受けたのに、凄く大変じゃん。
一体どこにいる……あれ、あの路地裏を歩いてる猫って……
真っ白な毛並みに、ぽっちゃりとしたあの体。
「ニャー」
「見、つ、け、たぁ~!」
咄嗟に猫に飛びつくが、見事にかわされてしまう。
くっ、早い!
ダッシュで逃げていく猫を懸命に追いかける。
「待てぇ~~!!」
ヤバい、普段運動なんてしてないから、もうだいぶキツい。
「はあ、はあ、はあ、はあ、」
もう、逃げないでおとなしく捕まってよ!
どうする!?
魔法で拘束しようにも、猫が速すぎて無理だ。
こうなったら!
「壁よ!!」
突如猫の進行方向に人間の身長くらいの壁が出現する。
人間にとっては少し低いが、猫にこの壁は超えられないだろう。
それにここは一方通行だ。
もう逃げられないはず。
「ニャー!」
前方を走る四足歩行の獣が飛んだ。
それはもうキレイなアーチを描いた。
そして、その獣は壁の向こうに姿を消した。
「嘘……でしょ……」
猫ってあんなに高く飛ぶんだなあ。
初めて知った。
というか脇腹が痛いし、もう走れない。
「はあ、はあ、猫よ、見つかれ!」
魔法を発動させて、猫の場所を特定する。
よし、目的の猫の場所はだいたい分かった。
とりあえず一旦休んでも大丈夫かな。
……あれ、猫がどんどん遠くに行ってる。
嘘でしょ、結構な距離歩かないとだめじゃん。
くっ、この仕事キツすぎる。
~
あの猫、どこまで移動したんだ。
あ、やっとあの猫が見えてきたぞ。
絶対に捕まえてやる。
急いで捕まえるのはだめだ。
隠れながら不意を突いて猫を捕まえよう。
物陰に隠れながら猫に近づいていく。
あいつ、余裕をこいて毛繕いをしてやがる。
これなら……いける!!
「捕らえた!」
しかし、さすがは猫。
私の動きに一瞬にして気づき、私の手を綺麗にかわしていった。
つ、強すぎる。
本当に私に捕まえることができるのか?
あ、建物の中に入っていった。
ここは……冒険者ギルドか。
ガチャリとギルドの扉を開き、受付に向かう。
「いかがなさいました、って、ミアさん! お久しぶりです」
そう言ったのはブロンドの髪を肩あたりで切りそろえている受付嬢、リリア・ヴェセリーだ。
「ああ、久しぶり、リリア。ところでここに入ってきた猫を見なかったか?」
「あ、猫ですか? それなら」
不意にリリアはしゃがみ込み、「よいしょ」と言って両手に丸っこい毛玉の獣を私に見せびらかす。
「この子のことですか?」
「ああ! そいつだ!」
この猫、絶世の美魔女と呼ばれている(呼ばれていない)私から逃げてたくせに、リリアには尻尾を振っていたということか!
なんという屈辱!
「私に渡してくれ」
「もちろんです」
リリアから猫を受け取ると、その猫は突然性格が変わったかのように暴れだす。
「ニャー!!」
「お前、さっきまで静かだっただろう!!」
だが、どんなに暴れようと、私は絶対に離さないからな!
というか、この猫重い!
「ありがとう、リリア」
「はい。また冒険者ギルドに顔を出してくださいね。私も話し相手が欲しいので」
「うん、また来るね」
それだけ言ってギルドを出る。
相変わらずこの猫は暴れている。
こんな獣が町中を闊歩しているなんて信じられん。
猫……凶暴性を隠し、人間と共存する道を選んだ生き物。
なんて賢いやつなんだ。
〜
ボロボロな体をなんとか動かし、それでも決して猫を離すことはせず、ようやく依頼主の家にたどり着いた。
左腕で猫を抱えつつ扉をノックすると、一瞬でおばちゃんが出てきた。
「見つけてきました」
「魔女さん!! ミューちゃんを見つけてくれたのね!! ありがとう!!」
いや、出てくるのが早すぎる。
扉の前で待機していたのか?
おばちゃんに猫を渡すと、猫は一瞬にして静かになった。
何なのこの猫?
そんなに私のことが嫌いなの?
「魔女さん、ちょっと待っててね」
「はい」
そう言うと、おばちゃんは家の中に入っていき、二つの袋を持って戻ってきた。
「はい、これ」
そう言って私にの袋を渡してきた。
なんで二つあるんだ?
「あの、一つは報酬だと思うのですが、もう一つって……」
「もう一つは私からのお礼よ。頑張って作ったから良かったら食べてね」
「えっと、ありがとうございます」
「私こそありがとうね。何かあったらまた頼むわ」
「はい……」
いや、やめてくれ。
猫探しなんてもうやりたくない。
「それじゃあ失礼します」
そう言い残し、この場から去る。
まだ夕方にもなっていないというのに、ほとんど体力がなくなってしまった。
普段から運動したほうがいいのかな。
ふと、貰った二つの袋に視線を送る。
一つはジャラジャラと音が鳴っており、仕事の報酬の硬貨だろう。
もう一つの袋からはカラカラと音が聞こえてくる。
謎だ。
帰り道を歩きながら袋を開けてみる。
「おっ」
クッキーだ。
手作りってことかな?
たくさんある中の一枚を手に取り、口に運ぶ。
「……おいしい」
仕事、受けてよかったな。
その後、買い物を忘れて家に帰ったミアは、重い足を動かして再び外出をすることになる。




