魔女、猫を探す1
ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ。
甲高い機械音が部屋中に鳴り響く。
「ん、う~ん」
ベッドから目覚まし時計に向かって手を伸ばすが、なかなか届かない。
なんで届かないんだ。
あ、そういえば、昨日の夜に私が届かないところに置いたんだっけ。
「出~た~く~な~い~」
もぞもぞとベッドの中に潜り、耳を塞いで体を丸める。
ピピピピピピピピピピピピピピピピッ。
「も~うっ!」
ガバッと毛布を両手両足で吹き飛ばし、やっとのことで目覚ましを止める。
もふもふの白い寝間着を身にまとう、やや幼い見た目の少女。
白銀色の髪を頭の後ろで一本に結わえている。
ミア・クルスはやっとのことで起き上がる。
なんでこんな朝早くに起きないといけないんだ。
「……あ」
そういえば今日は午前中から予定が入ってるんだっけ。
とろんとした目をこすりながら洗面所に向かう。
ミアが洗面台に右手をかざす。
「ん」
すると、淡い光が右手を包み、次第に洗面台に水がたまっていく。
その水を使ってバシャバシャと顔を洗い、近くに置いてあるタオルで無造作に顔を拭く。
「よしっ!」
ちょっとしたかけ声で自分自身に気合いを入れる。
パパッと準備をしちゃおう。
一本に結わえた髪をほどき、髪を軽くぬらして自分の髪に手をかざすと、暖かな風が吹き始め、髪を乾かしていく。
今日の仕事は確か、猫探しだったか。
なぜ公明な魔女である私が猫探しをしなければならないんだ。
いや、仕事を受けたのは私なんだけど。
髪を整え、キッチンに向かう。
ガチャリと冷蔵庫を開ける。
「……買っておかないと」
ミアは冷蔵庫の中を見ながら言った。
残りの少ないジャムの瓶を取り出し、冷蔵庫の扉を閉める。
別の場所に置いてあるパンを取り、テーブルの横の椅子にどかりと座ると、パンにジャムをたっぷりと付け始める。
「やっぱり朝は甘いものだよな~。いただきます」
べっとりとジャムの付いたパンを口に運ぶ。
「ん~、おいしい」
唇に付いたジャムを舌で舐め取る。
ジャムを更につけようと思って瓶を取る。
「あれ、もうない」
悲しい、とても悲しい。
朝は甘いものじゃないと私は生きていけない。
なのに、ジャムがもうないなんて……
「まあいいか」
ジャムの付いてないパンを口に運ぶ。
やがてパンを食べ終えると、荷物の準備を始める。
とは言っても、必要なものは大してないが。
ポーチと紺色のローブを身につけ、つばが大きく、てっぺんが長く尖った帽子をかぶる。
右手には特殊な木でできた杖を持つ。
これで準備完了だ。
そのまままっすぐ玄関に向かう。
「行ってきます」
家に誰かがいるわけではないが。
扉を開けると、日差しがまぶしく、思わず目を細めてしまう。
「うう~、太陽がキツい」
そんなことを言いながら目的の場所に向かう。
あたりを見渡すと、仕事に向かう時間なのか、様々な人が歩いている。
種族も人間以外にエルフや獣人など様々だ。
みんな朝早くから当たり前のように活動していて凄い。
私とは体の構造が違うんじゃないか?
……午後は買い物をしなければ。
パンにジャムに……うーん、自分で料理をするのは面倒だからな。
何を買うべきだろうか。
なんかもうメイドを雇って全てを任せたい。
いやでも、暮らすなら一人がいいなあ。
「……あ」
目的地にもう着いてしまった。
目の前には当たり障りのない一軒家がある。
とりあえず扉をコンコンとノックする。
すると、家の中からこちらに向かう足音が聞こえ、扉がガチャリと開けられる。
家の中から現れたのは高齢のおばちゃんだ。
「あら、どうしたの? もしかして迷子?」
このおばちゃん、私を迷子の子供だと思っているのか?
怒るよ?
まあ私は大人だから、最初の過ちは許してやろう。
「……おはようございます。ミア・クルスです」
「あら、ごめんなさい、あなたが噂の魔女さんね。今日はよろしく。ちょっとまっててね」
そう言うとおばちゃんは家の中に入っていき、再び戻ってきた。
「はい、これ。ミューちゃんの似顔絵」
おばちゃんから一枚の紙切れを渡される。
その紙には猫と思われるイラストと特徴が書いてあるが、お世辞にも絵が上手いとは言えない。
「ありがとうございます」
「それじゃあ、よろしくね」
そう言うと、おばちゃんは扉を閉めた。
さっさと依頼を終わらせてしまおう。
私は高名な魔女だからな。
猫探しなど一瞬で終わりだ。
まず始めに、魔法で猫の場所を特定をしよう。
そう思い、右手に持つ杖を前にかざす。
「猫よ~見つかれ!」
かけ声は適当だ。
この魔法は特定の種族を感知することができる。
杖に淡い光が集まり、猫の場所が大まかに分かった。
いや、猫が思ったより多いな。
ここから特定の猫を探すのか……
受ける仕事、間違えたかも。