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落ちゆく巣 

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 海をいかに埋め立てて使うか? みんなは考えたことがあるだろうか。

 水の惑星を持つ地球は、実に7割が水なんだ。数十億の人口が、3割の地表の中で頑張っているわけで、これから先も人類が数を増やしていくとなれば、埋め立ては重要な手段のひとつとなるだろう。


 ――なに? 宇宙にコロニーをつくる?


 そりゃあ、アニメという名の未来を見すぎだあ。

 段階を踏まず一足飛びに技術を得たとて、精神が追っつかなければ破滅が待つのは、アニメ大好き諸君ならいうまでもあるまい。ことは、着実にレベルアップしていかねばいけないのだ。


 だからな、もし自分たちに理解が及ばないな〜と思ったら、遠慮なく不思議がっとけ。

 不思議がるだけだぞ。首を突っ込んだり、あれこれ理屈をこねたりするのは、もう少しお利口になってからの方がいい。

 どれが甘くて、どれがすっぱいか。十分に知らないまま珍味にありついても、ありがたみが分からないからな。

 特に子供は酔いが回るのが早く、経験も浅い。初体験が永遠の沼となるのは危ういなあ、と先生はつくづく思うのよ。

 ひとつ、先生の昔の話を聞いてみないかい?



「お〜、アリの巣ができてる!」


 当時、まだ片手で数えられる年齢だった先生は、幼稚園の友達と一緒にアリの巣探しに精を出していた。

 自分の足元を行く、小さい小さい生き物は子供の興味を引くに十分な身近さ。

 最初こそその小兵、一匹一匹を遊び道具としていたが、たまたま彼らが巣に出入りする様子を目の当たりにしたときから、目標は巣に。アリたちは追跡するエサの立場と相成った。

 一匹を泳がせておけば、芋づる式に自分がより甘い汁をすすることができる。

 はからずも、大きくなってからも通じる戦略のひとつを、先生たちは早くも学ぶ機会に恵まれたといえよう。


 巣は先生たちにとっての、生けるおもちゃだ。

 土でもって埋め立ててしまうこともあったが、大半は水責めに処する。

 中よりアリたちを、存分にあぶり出すためだ。

 埋めてしまってはそれっきりで、再び太陽をおがめるのをアリの自助努力に任せるのは、少々荷が重いだろう。先生たち自身の遊べる時間も限られているし。

 しかし水ならばあふれてしまっても、そこにアリたちの身体が乗っかる。巣の奥で過ごしていた彼らへの、強制招集命令。

 満足に身体がいうことをきかず、その手足をじたばたさせながら訪れた地上にて、今度は先生たちの遊びに使われる第二ラウンド。

 彼らの命をもてあそぶのに、とても良い効率を誇る手法として、先生たちは愛用していたわけなのさ。



 その日は休みの日ということもあって、かの友達と二人して午前中からアリを追い回していた。

 先生たちの追跡は、町中を適当に歩き回って見つけたアリを、とことん追い回す手法をとる。さすがにお店の中へ入らなきゃいけないルートをとられたら自重するが、それ以外の敷地への侵入は許容範囲だ。

 狙いを定めたら、しつこく追っていく。それが田畑へ侵入しようが、生け垣をかき分け、フェンスをのぼることになろうともだ。

 たとえブロック塀の下、わずかなすき間へ逃げ込んだとしても、先生たちはそこを巣とみなし、手持ちのバケツでもって猛攻をかけるだけだ。


 先生たちは、ひと目をはばかることを知らない。

 こうと決めたら近くの用水路から遠慮なく水を汲み、どんどんとすき間へ注ぎ込んで「いかに、いかに」と尋問せんばかりの責めを展開する。

 とがめる人がそばにいて、止めてくれるなら引き下がりもした。しかし、そうでなければ先生たちの根気が尽きるまで、塀の下は根も腐らせんばかりの水を迎えることになる。

 その結果がかんばしいことになろうと、そうでなくとも、この時間が先生たちにとっては楽しくて仕方のないものだった。

 先生たちが遊べなくなる、その時が来るまではな。



 午後もおやつどきを回り、帰る時間をぼつぼつ迎えようかというとき。

 本屋の裏手、駐車場の近くで先生たちはかの一匹を見つけた。

 今まで見たアリたちのいずれよりも大きく、当時の先生たちの親指一本からも余裕ではみ出す巨体を持っていた。

 動けるデブといったところか、その動きも俊敏で、先生たちの視界にうつるやたちまち敷地外へ向けて転身、逃げ出す構えを見せた。

 挑発じみたこの動きに、先生たちがこたえないはずもなく。アリがせっせと走るまま、道路を越えて、畑を越えて、何百メートルも離れた空き地まで連れていかれた。


 いまだ建設予定が立たず、ロープが渡されただけの数坪程度の広さの土地。

 友達はアリを追ってさっとくぐっていったが、先生はわずかにたじろいでしまう。

 先生は目がよかった。敷地の外側からでも、地面に穴を開けるアリの巣たちは見やることができたんだ。

 友達の進む何歩か先には、いくつもアリの巣がこさえてあった。

 ひとつひとつの穴の間は、数十センチも空いていやしない。ここまで密集しているところなど、めったに見たことなかった。

 それはぐるりと、人数人を内へ押し込められるほどの円を描いてな。でっかいアリはそこの合間を突っ切って、奥まった巣穴のひとつへ潜り込んでいったんだ。


 先生が制止の声をあげるのと、友達が巣穴の囲う円の中心へ踏み入り、唐突に開いた大穴の中へ真っ逆さまに落ちていったのは、ほぼ同時のことだった。

 悲鳴はあがったが、すぐにその声はくぐもっていく。

 穴のふちからは、どんどんと土がひとりでの中へ落ち込んでいき、この穴を埋めたてんばかりだったんだ。

 先生は自ら飛び込む度胸はなく、とっさに声を張り上げて近くの家々へ助けを求めたが、ただのふざけた大声と思われたのかなあ。

 ようやく、一軒の家から大人が顔を出したのは、何分か経ってからのこと。その時にはもう、友達の落ちた穴はすっかり埋まって、先ほどまで変わらない地面の姿がそこにあったんだ。


 いくらそこを掘り返しても、友達は見つからず。周りを囲うアリの巣も、すっかり形を失っていた。

 先生が見た通りのことを話しても、誰も信じてくれなくてな。それからのことは幼心にショックが大きくて、詳しくは語りたくない。

 いまとなっては、友達がいたことが幻かと思ってしまうほど、不思議で信じがたいできごとだよ。

 アリたちに意趣返しをされた、と思えば仕方のないことなのかもしれないんだがね。

 奇妙なことにうかつに飛び込むのはまずいと、さんざん授業されたわけさ。


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