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救ける

「嘘……!?」


 村に到着した瞬間、そこには嫌な光景が広がっていた。


「この忌み子め! 汚い真似しやがって!」


「いつもいないと思ったら、よくもあの河原に行ったな!」


「妖怪を誘き寄せる気が貴様! その貧弱な頭で考えてみろ!」


「す……すみ……ません」


 坊やは村の広場で村人たちに囲まれ、殴られている。


 その罵声があんまりにも大きく、村の外にいる私でもはっきり聞こえる。


 坊やは結構殴られたようで、頭から血が流れ、今でも死にそうな顔している。


「何してるんだこいつら!」


 その光景、まさに若い頃の私に起きた事そのもの。


 勝手に嫌がられ、なんもしてないのに酷い扱いされて、当たり前のように誰も助けに来ない。


「ふさけるな!」


 私は前に走る、今でも場いる村人たちを皆殺したい気分だ。


 でもそうはならなかった。


「どうしてだよ!」


 村に近つこうとすると、目の前に見えない壁が現れて、前にちっとも進めない。


「地蔵、貴様!」


 横を見ると、そこには地蔵がいた。


 私は彼のことがよく知っている、彼こそがこの村を守ってきた張本人。


 私が村に入ろうとする度に、壁を貼って私を止めるもの。


「地蔵!邪魔するな!村に入らせてくろ!」


「……」


 地蔵は何も言わず、ただただその大嫌いな聖人君子ツラを見せるだけ。


 焦った私は拳を上げ壁に殴りかかるが、壁は全く動かない。


「ふさけるな! 坊やがこんなことすれて、あなたはただ見ているだけかよ!」


 パンッ! パンッ! パンッ!


 私は拳で壁を殴るが、それがただ何もない空間から衝撃音が生じるだけ。


 気付けば拳には血が付いていて、痛みがしっかりと伝わる。


「何であんなクソみたいな人間を守るのよ! 何で坊やを見殺しにするのよ!」


「……」


「私は入らせろ! 入らせてくれ! じゃないと!」


 目の前にいる坊やは殴られ、血が流れ、最初は謝りの言葉を振り返してるが、だんだんと声が小さくなり、きっと死にかけてるだろ。


「じゃないと……坊やが死んちゃう……!」


 気付けば、私は涙を流していた。


 唯一の友人、唯一の理解者と言える坊やが殺されかけてるのに、私はただそれを見ることしかできない。


「お願い、坊やを救わせてくれ……!」


「……」


「えっ?」


 一瞬、拳の手応えが消えた、私は急な事態に反応できず、そのまま地面に倒れだ。


「壁が、消えた……」


 起きて周りを見ると、私は村に入った。


「地蔵、あんた……」


 私は地蔵の方を見るが、彼はあの嫌なツラのまま。


 でも今の顔は、まるで「行け!」と言ってるように見える。


「今度だけは感謝するわ!」


 私は立ち上がり、坊やにいるとこへ走る。


「ぽっぽぽ……ぽっぽぽ…… 貴様ら! 坊やに何しているだ!」


 腹の力を全力で振り絞り、叫ぶ。


「八尺様!? どうしてここに!?」


「化け物だ! 逃げろ!」


「わああああああああああ」


「逃げるんじゃないよ! 今殺して……坊や!?」


 村人を追いかけたいが、坊やのうめき声を聞こえ、私は正気に戻った。


 私は慌てて坊やを抱き上げ、体を揺れる。


「坊や! 坊や! 大丈夫か! 答って!」


「う…… う……」


「いいか! ここで死なせない! だから耐えて!」


 坊やを背負って、私は普段使ってる隠れ家の方へ走る。


「起きろ! 起きてくれ! お願い! 頼むから!」


 家に連れ変えた後、私は坊やの傷口を洗って、薬草を塗れ、止血する。


 私ができること全部やってみた、若い頃の治療の知識を振り絞った。


 でも、坊やの意識が全く戻らず。


「どうして! どうして起きないのよ! 殺すなら簡単なのに……!」


 今まで無数の命を奪ってきた、動物も、河原に迷い込んだ村人も、全部妖怪の力であっさりと呪い殺してきた。


 私はそれのおかけで自分が何でもできると思い込んだ、でもそれは違った。


 私は、ただ坊や一人の命すら救えない、恨むしか能のない化け物である。


「お願い…… 死らないで……」


「……八尺さん?」


「坊や!? 起きたのか!?」


「ここはどこ、僕は……」


「起きるな! まだ傷が治りきっていない!」


 起きる坊やを慌てて止める。

 

 これ以上坊やに傷を負わせる訳にはいかないのだ。


「自分の身に何か起きたのか、覚えてる?」


「僕は……河原に行ったことがバレて、殴られて……」


「ね、坊や、君は村八分されてるだろう?」


「……」


「正直教えてくれ、もう嘘をつかないで」


「……わかった」


 そこから、坊やは今までのことを話した。


 村に生まれて、子供の頃は普通に生きてきった。


 でもある日、親が事故にあって、ふたりとも死んでしまった。


 それから、坊やは村人から忌み子と呼ばれ、虐められるようになった。


 彼の身に起きたことはそう簡単なはずがないとは思うが、若い彼には何か起きたのかをはっきりとわかるすべもなく、ただただ理不尽な虐めを受けることしかできなかった。


 なんという可哀想な人。


「僕の知ってることはこれだけ……そうだ!」


「おい!? 急に起きるな!」


「僕の釣竿! 僕のスマホ! 早く家から取り戻さないと!」


「なによ今更! 釣竿とスマホはどうでもいい!」


「ダメだ! それは僕の親の遺物だ!」


「えっ……」


「早く取り戻さないと…… 痛い!?」


「あなたの状態じゃ村に戻れない! とりあえず寝ていなさい!」


「そんな……」


 無理矢理起きろうとする坊やを納め、とりあえず彼を寝かせることにした。


「お母さん…… お父さん……」


「親の遺物……」


 寝ながらも親の寝言を言う彼を見て、私は考えた。


 若いのに親を失い、そんな親が残したもの。


 親からも愛されてない私にとって、きっと考えられないほど大事にしているだろう。


 遺物をこのまま村に残すと、村人に何されるのか…… 


「クソ! この恩は大きいわよ坊や!」


 私はもう一度村に戻るようとする。


 そんな大事なものを、失わせる訳にはいかない。

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