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イベント2 異世界帰りの幼なじみと初登校するらしい。なお、下着はつけていない模様①

 俺こと木島達郎(きじまたつろう)は、30代から10代に若返り、幼なじみと共に高校生活をやり直す決意をした。

 

 ――のであるが


「たーくん。さっきのはどこが悪い?」


 外見は女子高生、中身は俺と同い年の幼なじみ――依知川梢(いちかわこずえ)が俺にたずねる。


「……わからないのか?」

「わからない」


 俺は、はぁーっ、と盛大なため息をはく。


「全部だよ。ぜ・ん・ぶ」


 俺の言に、もともとむっつりした表情の梢は、心なしさらに仏頂面になる。


 実際、大変だったのだ。

 あのあと、俺は大家と消防隊員に必死に状況を誤魔化さねばならなかった。

 幸い、梢の手で作られた囲炉裏は、とてつもなく巧妙にできていたので、床に焦げ目一つついておらず、大事にはいたらなかったのだが……


「私は自分で手に入れた食材を、いつものやり方で調理しただけなのだが」

「いつものやり方って……」


 そういやこいつ、昨日まで異世界にいたんだったか。

 狩猟系ファンタジーゲームとかだと、たしかにキャンプファイヤー的な調理場で猫が生肉を炙っていたりするが……


「なんでコンロを使わなかったんだ」

「コンロ?」


 小首を傾げる梢。


 俺は部屋をよぎって、炊事場に据えられたガスコンロのつまみをひねる。

 

 チチチッ……ボッ。

 

 おなじみの音を立てて、二口あるコンロの左側が点火する。

 

「これだよ。まさか知らないわけじゃねえだろ?」


 苦笑しながら梢を振り返ると、彼女は驚きに目を丸くしていた。


 ――え? 

 まさか本当に知らなかったとかあるの?


 彼女は腕を組んで宙をにらみ、しばしの間、考え込んだ。

 

「……そういえば、こんな器具もあったような気がする」


 ぽつりとそう呟き、火の点いていない右側のコンロに掌を向ける。


 ――ボッ


 次の瞬間、ひとりでにコンロに火がともった。


「こうやって、魔法で火をつけた」

「………………」


 さらりとこの世の物理法則に反する現象を見せつけられた気がするのだが……。


「どうやら私は異世界生活を送るうちに、日本の文明の利器に関する知識をかなり喪失してしまったようだ」

 

 そう告げる梢。

 

 いやいや、君、それって文明の利器の知識だけじゃないよね?

 狭い賃貸アパートで室内キャンプファイヤーをしちゃいけないとか、基礎的なこの世界のルールも喪失しちゃってるよね?


「……とりあえず、その辺も直していこうな」

「わかった」


 素直に頷く梢。

 

 ……こいつの症状は、便宜的に『異世界ボケ』とでも名付けておくか。


「それはそれとして、もう通う高校は決まっているとか言ってたよな?」

「言った」

「転入手続きとかは?」

「私の願いをきいた神様が、すべてお膳立てしてくれた。私もたーくんも、今日から転校生として登校できる」

 

 彼女はそう告げると、ベランダまで歩き、なにか細長い箱を、ずずずずっと引きずってきた。


「……なにこれ?」


 俺は室内に置かれた物体を眺め、尋ねる。

 RPGでよく見かける宝箱のような見た目だ。


「私の荷物入れ。昨晩のうちに運び込んでおいた」

「そうか」


 どうしよう、感覚がマヒしてきて、もはやこの程度のことでは驚かなくなっちまってる。


 梢は、宝箱のふたを、ガパッと開けると、一着の学生服を取り出した。


「はい。たーくんの制服」


 無言で受け取る俺。

 

『これでやっと念願だった好きな人との学園生活が送れる』

「ん? なにか言ったか?」


 俺は、梢の発言が理解できず、そう尋ねる。

 英語とも日本語とも違う、奇妙な言語に聞こえたが……。

 

「たいしたことじゃない。ただのアースガルド語の独り言」

「アースガルド語?」

「異世界の公用語。たーくんには、理解できないと思う」


 そりゃ、理解できんわ。

 

『一緒に色んな青春イベントをしようね♡ それで最後には、たーくんの方から私に告白してもらうからね♡』

「……何言ってるのか知らんけど、とりあえず初日から遅刻はまずいから、そろそろ出ようぜ」

「わかった!」


 妙に張り切った声でこたえる梢。

 

 彼女は物入れから、細長い物体を取り出す。


「ええと、なんかそれ、剣に見えるけど、本物じゃないよね?」


 梢が柄を握り締めると、ぶぅぅぅん、という低い音と共に、刀身が青白い光を放ち始める。


「聖剣クロムキャリバー。異世界で邪神を討伐した時にドロップした、私だけが装備できる武器」

「……で?」

「攻撃力は999、斬撃力750で刺突力――」

「いや、性能はきいてねえから。なんで今、それを取り出して背負おうとしてるの、って聞いてるんだけど」

「もちろん、登校中にモンスターに襲われた時、たーくんを守るためだが」


 梢は、ヒョウッ、と狭い室内で器用に剣を振り回して見せる。


「たとえドラゴンとエンカウントしても、必ず即殺するから、安心して登校して欲しい」

「……向こうでは知らんけど、こっちの世界では道端で竜に遭遇するとか100%ないから、そいつは仕舞っておこうな?」


 どうやら、俺の幼なじみの異世界ボケは、思ったより深刻らしい。

 

 これは大変な学園生活になりそうだ、と俺は内心でため息をついた。

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