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イベント4 異世界帰りの幼なじみと部活見学するらしい。やめろ、そんなに激しくやると服が破けるだろ! ⑥

 グラウンドの真っただ中に、全裸で立ち尽くす俺。


 着ていた学校の指定ジャージは、中身の下着ごと、砲丸を投げようとした瞬間に細切れになって風に散ってしまった。


 場が水を打ったように静まり返る。


「え? なに? なんであの人脱いじゃってんの?」

「わかんねえ。けど、めちゃくちゃいい肉体してね?」

「すご………私、鼻血が出てきた……」


 居並ぶ部員たちの目が俺にそそがれる。

 

 次の瞬間、俺は誰かに抱え上げられた。


『たーくんの裸を他の人が――他の女子が見るのはダメ!』


 (こずえ)は何事かを叫びつつ、俺をお姫様抱っこして、全力疾走で部室棟へ向かっていったのだった。

 


  

「そういうことか……」


 俺はため息とともに言った。


 更衣室にて梢から説明を聞き終えたところである。


 ――バフを二重に受けた肉体が、限界を超えて膨張した。こちらの世界の衣服ではそれに耐えられないことを見落としていた。


 彼女の言を思い出しつつ、俺は改めて自分の体を見下ろす。

 

 なんか古代ギリシャの彫像みたいなゴリマッチョだ。

 ありえなさすぎて、逆に笑ってしまう。

 

 不幸中の幸いと言うべきか、現在は部活時間の真っ最中なので、室内には俺たち以外誰の姿もなかった。

 なので、誰得な俺の姿でお目汚しする心配はないのだが……。


「……たーくん、恥をかかせてごめん………」


 こちらに背中を向けた梢が、か細い声で告げる。

 ぐす……と微かに鼻をすする音も聞こえてきた。


「もういいよ。起こっちまったもんは仕方ねえだろ」

「たーくん……」

「それより、今後は気をつけな。あまりにも不自然なことが起こると、俺たちが普通じゃないことがバレちまうぜ? おまえさんは普通のスクールライフを送りたくて、現代日本(こっち)に戻ってきたんだろ?」

「うん……わかった」


 素直に首を頷かせる幼なじみに、俺はそっと苦笑いした。


 まあ、今回のことは俺にも責任がある。

 変な魔法をかけられたとわかった時点で、部活から強引にでも逃げ去るべきだったのだ。

 でも、せっかくクラス委員の長谷が交渉して、顧問や部員たちが準備をしてくれたのに、それを無下にするという選択がどうしても俺にはできなかった。

 社畜体質とやらが染みついてしまっているのかもしれん。

 

「で、どうだったんだよ?」

「……どうとは?」

「部活は楽しめたのか?」

「ああ……うん。私個人としては、満足のいくものだった。最後は失敗したが」

「そりゃよかった」

「たーくん…………」


 梢が小さいが、感極まった声を上げる。

 放課後の人気のない更衣室の中、グラウンドで上がるかけ声が微かに聞こえる。


 なんとなく妙な雰囲気になってきたので、俺は誤魔化すように辺りを見回した。

 そして、ふとあることに気付く。

 

「なあ梢、ここって女子の方のロッカールームじゃないよな?」

「あ」

「まさか……」

「慌てていたから、女子の方にたーくんを運び込んでしまった」


 ――やっぱりか


 俺は即座に立ち上がる。

 誰かが来る前に、出ないとまずい。


「あ、たーくん待って!」


 梢が制止の声を上げる。


「その格好で外に出るのはまずい」

「たしかに」


 だが、急がねば。

 どうするか。


 ふいに梢がスカートを脱ぎ始めた。


「おい! おまえなにやってんだよ!」


 俺は慌てて目を逸らしつつ、叫ぶ。


「とりあえず、これを着て」

「いや、それは――」

「そのまま外に出るよりはマシ」


 梢は振り返ってこちらに近付くと、強引に俺の腰にロングスカートを巻きつけようとする。


「お、おい!」


 俺はとっさに後ずさろうとしたが、焦りのあまり足を滑らせ、尻餅をついてしまった。

 梢も巻き込まれて、俺の上にかぶさるように転倒する。


 その時、入口の方から声が届いた。


「梢さん? いらっしゃるんですか?」


 こつこつと足音がこちらに近付いてくる。


「あの、木島(きじま)君はどうなりましたか? わたくし心配になって――」


 長谷(はせ)がロッカーの列に姿を現す。

 そして、こちらを見た。


 

 ――全裸の俺の上に、上は制服、下はパンツ姿で乗っかっている梢を。


 

「ひぃぃぃぃっっっ!? ヤッてる!?」


「「違う!!!」」


 

 部室棟に俺たちの叫びが響き渡ったのだった。

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