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目が覚めたら夢の中  作者: 説那


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遁走

 私は森の中から崩れゆく館を見つめていた。


 ここにいるのは、私と、横の茂みの中で、すやすやと寝ている男の赤ん坊だけだ。

 赤ん坊は大きめの籠の中で、幾重もの布に巻かれている。その髪色はきれいな金色だ。


 先ほどまでこの身体を操っていたアメリアは、さすがに疲れたといって、私の中で休んでいる。

 私が気を失っている間に、館内の魔人に避難を呼びかけたり、赤ん坊や私の身体を包む布を調達したりと、かなり忙しくしていたようだ。


 私は木に背を預けると、ずるずると身体を地面に下ろしていった。

 背中に現れた翼が私を横から包む。翼があるせいか少し暖かい。


 アメリアが目を覚ました時には、翼が私の背中に生えていたのだという。

 ここ魔人が住む地では、天仕であることが分かると襲われるからと、アメリアが布を被せ、とりあえず隠した。今は、周りに人もいないから、少しくらい見えても問題ないだろう。

 何より、身体を動かすのが億劫だ。きっと、カミュスヤーナに魔力を大部分奪われたから、その影響だろう。

 先ほど魔物除けにつけた焚火の炎が、辺りをぼんやりと照らしている。


 カミュスヤーナは、エンダーンを討伐した後、その衝動に突き動かされるままに、館を壊し始めた。

 しばらくして目を覚ましたアメリア曰く、私の姿に目を止めることはなく、とても楽しそうに、その赤と青の瞳をらんらんと光らせ、壁を崩し、建具を燃やし、扉を押し倒したそうだ。


 アメリアは私の身体を操り、なぜか赤ん坊になってしまったエンダーンを連れ、館を脱出した。

 多分、カミュスヤーナが、エンダーンの魔力等を奪い、その結果、赤ん坊になってしまったのだろうと、私とアメリアの見解は一致した。

 他にも館で働いていた人がいたそうだけど、館が完全に崩落する前に逃げていてくれればいいと思う。


 カミュスヤーナは無事だろうか?無事だとは思うのだけれど、元のカミュスヤーナに戻ってくれるのだろうか?

 襲ってくる眠気に耐えられず、私は瞼を閉じた。


 近くに人の気配を感じて、目を開けた。

 既に日は落ち、辺りは暗くなっていた。

 館の方から聞こえていた破壊音も、今はもう聞こえなくなっている。

 赤ん坊はすやすやと寝息をたてて、眠ったままだ。

 私は気配を察したほうに目を向けて、瞳を凝らす。

 がさっと草を踏みしめるような音がした。


 焚火に照らされたプラチナブロンドの髪。

 服はボロボロにちぎれており、上半身の半分くらいは素肌が顕わになっている。その素肌も砂のようなものがかかり薄汚れていた。

 それらの上から外套のように大判の布を背中にまとっていた。

 彼は長いまつ毛の下から、赤い両眼をこちらに向けていた。


「カミュスヤーナ!」

「……今戻った」

 かすれた声で、カミュスヤーナは私の声がけに応えた。

「正気は戻ったのですね」

「……館を破壊するのに魔力を使った。魔力が少なくなると同時に破壊衝動が消えた」


「あの……背中のそれは……?」

 私は、カミュスヤーナの背中を指差す。

 背中にまとった大判の布の下から見えるのは……私の背中にあるのと同様。白い羽だった。

「……よくわからないが、魔力が少なくなったら、突然背中に現れた」

 彼が困惑したように告げる。


「……ここまで魔力を失ったことがなかったからな。普段は、魔力で隠しておけるものなのかもしれない」

「カミュスヤーナも天仕の血を引いているということですか?」

「……生みの親を知らないので、何とも言えないが、魔人と天仕の血両方を引いているなど、何の因果か。だが、そんなこと今はどうでもいい」


 自分の足元に駆け寄った私の身体を、彼はその腕に包み込んだ。

「……テラ」

「はい。」

 彼の腕に力が入り、私は苦しいくらい抱き込まれる。

「……君が無事で本当に良かった」

 安堵したような優しい声が耳元でささやく。

「カミュス」

 私の瞳から涙がボロボロとこぼれた。


「……私は君を泣かせてばかりだな」

「これは嬉し涙です。カミュスが側にいてくれて、私はとても嬉しいのです」

「……そうか」

 カミュスヤーナの声に笑みが混じる。

「ずっと側にいてください」

「……」


「生まれが何であろうと、カミュスは私の唯一の人です」

「……私は魔人の血を引いている。……君の側にいたら、私はいつか君を傷つけると思い、君を遠ざけた」

 私は黙ってカミュスヤーナの言葉を聞いていた。

 以前フォルネスが言っていた「彼が私と婚約しなかった理由」がこのことなのだろう。


「……だが、君と離れてわかった。……私は君のいない世界では生きられない」

 私から少し距離を取り、カミュスヤーナは自分の左手を私の頬に添えた。

 その美しい赤い瞳が色を持ってゆらめく。

「……私からもお願いだ。永遠に側にいてくれ、テラスティーネ」

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