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目が覚めたら夢の中  作者: 説那


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救い2

「アメリア?」

 アメリアの言葉の意図がわからず、私は訝しげに呼びかける。

「……カミュスヤーナ」

 アメリアがその瞳に涙をにじませた。表情が一気に先ほどの笑みから、こちらを心配するようなものに変わる。

「アメリア……何を」

「ごめんなさい。力になれなくて」

 静かに泣いている様子のアメリアに、私はどうしたらいいかわからなかった。


 先ほどまでの彼女とはまるで別人だ。その纏っている空気が違うように感じる。

「辛い目に合わせたくなくて。助けると言ったのに」

「……テラ?」

 今、動けない私の上で泣いているのは、彼女だと思った。

 先ほどあれほど会いたいと思っていた彼女。

 泣きながらつぶやく言葉は、私の心に突き刺さる。

 目の前の彼女は、私の呼びかけに軽く目を伏せて、肯定の意を示した。


「なぜ、ここに来た?」

「貴方を助けたかったからです。アメリアに協力を依頼しました。ここに来る手段がなかったから。アメリアに一時的に私の中に入ってもらい、色を変え、アメリアに扮してこちらに来ました」

「敵地に乗り込むようなものなのに」

「そのようなこと分かっています。貴方も一人で、ここに来てしまったではないですか」

 テラスティーネの責めるような口調に、私は目が逸らせるなら逸らしたかった。

「奴の目的は私だ。私がここに来れば、君には危険が及ばない」

「……私は貴方を危険な目にあわせて、ぬくぬくと守られているのは嫌なのです」


 今はそんなことを言っている場合じゃない。

 エンダーンにとって、テラスティーネは、私を痛めつける道具でしかない。

 私は命を取られるわけではないが、彼女はどんな目にあわされるか、わからないのだ。

 私はテラスティーネを諭すように呼び掛けた。


「テラスティーネ」

「私を!」

 テラスティーネは、涙をたたえた瞳のまま、私のことを見据えた。

 その赤い瞳の美しさに息を呑む。

「私を大切に思うなら、置いていかないでください!もう、離れるのは……嫌なのです」

「……」

 自分の顔に温かい雫が落ちる。

 自分が泣かせているのに、彼女の泣き顔を美しいと思ってしまった。見惚れてしまった。


 そして、私はやはり彼女のことが好きだと思ってしまった。


「テラ。私は今、身体が全く動かない」

 私の呼び掛けに、彼女は目を見開いた。

 きっと何を言い出したのだと思っているのだろう。

「君の涙をぬぐってあげたいし、抱きしめて慰めたい。だから……」

「……」

「君の魔力を私に分けてはくれないか?」

「魔力を?」

「身体が動かないのは、傷つけられた精神を回復するのに、魔力を大量に消費しているからだ。魔力を短時間で私が奪うのにどうすればいいかは、……以前、君に教えたはずだ」


 私の言葉に、テラスティーネは瞼を閉じ、自分の耳の下あたりに人差し指を当て、首を傾げて考え込んだ。

 どうやら彼女の涙は止まったらしい。少しは気を紛らわせることができたことに安堵しながら、彼女の答えを待つ。

 しばらくして、彼女は瞼を開いた。頬が赤くなり、口がはくはくと動き始める。

「思い出したか?」

「……はい。でも、私からですか?」

「私は身体が動かないと言っただろう?」


 テラスティーネは私の言葉に覚悟を決めたように、自分の上半身を私の方に屈めた。そして唇を私のものと合わせた。

 合わせた唇から魔力を取り込む。自分の身体が火照るのを感じる。

 魔力と共に、自分の中から力のようなものが湧くのを感じる。精神的に傷つけられた部分が補われていくかのような。

 彼女の様子を見ると、また目に涙がにじんでいた。私は唇で目尻に浮き上がった彼女の涙を吸い取った。


「気分が悪いか?」

「……慣れない感覚なだけで、大丈夫です」

 彼女は笑おうとしてみせるが、以前魔力を奪われた経験から、それが強がりであることは分かっている。

「少しの間辛抱してほしい」

 私の言葉に彼女はぎこちなく微笑んでみせた。


 それを見て、私は、再度彼女と唇を合わせ、魔力を奪う。

 ようやく、動くようになった鈍い腕を上げ、口づけている彼女を抱き込んだ。髪をゆっくりとすいてみる。彼女は気持ちよさそうに瞼を伏せた。

 唇が離れた隙をついて、言葉を紡いだ。

「私はエンダーンを討伐して、君と共に帰る」

「カミュス……」

「だから、力を貸してくれ。テラ」

 私を見てコクリと頷く彼女の唇に、私は再度自分のものを近づけた。

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