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目が覚めたら夢の中  作者: 説那


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39/49

要請

 机の上に肘をつき、組み合わせた手の甲に顎を当て、黒髪の青年は何かを考え込んでいる。

 その目の前に、プラチナブロンドの髪、赤い瞳の少女が現れる。

 毎回のことながら、唐突な登場だった。

 それでも以前より心が揺れなくなったのは、そう遠くないところに、愛しい存在がいることが分かっているからかもしれなかった。

 カミュスヤーナは、軽く息をついて少女の名を呼ぶ。


「アメリアか」

「まぁ。名前を憶えていただき光栄ですわ」

 アメリアは艶やかに笑みを浮かべる。

 アメリアの仕草は、魔王が直々に教えたものだろうか。自分の魅力を理解し、それを引き立てるものとなっていた。

 カミュスヤーナは同じ容姿の彼女と比べてしまうので、なびくことは決してないが。

 少なくとも、魔王の目を欺くことはできたらしい。

 カミュスヤーナは内心ほくそ笑んだが、平静を装って、アメリアへ問いかける。

「何用か?」

「エンダーン様からのお言葉を言付けに参りました。このところ貴方様はあの工房とかいう部屋に、こもってしまっていて、すっかり遅くなってしまいましたが」


「それで、奴の言葉というのは?」

 アメリアの後半の言葉を受け流して、カミュスヤーナは口を開いた。

 アメリアは面白くなさそうに頬を膨らませた。その後、思い返したように自分の胸に手を当てる。

「この身体の初花を散らされたくなければ、エンダーン様の元においでになるようにとのことです」

 アメリアの言葉に、カミュスヤーナは動きを止めた後、深々と息を吐く。


「まったく、厄介なことしか考えないな。彼奴は」

「エンダーン様は、貴方様を殊の外好んでいらっしゃいますから」

「こんなもの、好意とは呼べぬ」

 カミュスヤーナは頭を振って、深く息を吐く。

 アメリアは、そんな様子のカミュスヤーナを見て、微笑んだ。

「ちなみに、カミュスヤーナ様は、この身体の初花は散らしていらっしゃいませんよね?」

 念のための確認ですが、と言葉を続けるアメリアに、カミュスヤーナは顔を赤くして口元を覆った。


「それをそなたが聞くのか」

「人間は成人までは外聞に差し障るので、初花を散らす行為はしないと。それは正しかったでしょうか?この身体はまだ成人前のはずなので、十分、交渉材料になると判断いたしました」

「……」

「本当は直に確認できればいいのですが、この身体の指はそれほど長くはないので、確認ができないのです」

 自分の指をしげしげと眺めながら、アメリアが答える。


「エンダーン様も確認はして下さらなかったので」

「当たり前だ!そんなことをしていたら、奴を屠ってくれる」

 そう言うカミュスヤーナは、珍しく分かりやすく怒っている。テラスティーネがその表情を見たら、驚くだろう。

「エンダーン様は、貴方様を傷つける行為を先んじて行う方ではありません」

 するなら、貴方様の目の前で行われるのでは?と、アメリアは艶やかに笑った。


 アメリアが表情を元に戻して、再び問いかける。

「で、どういたしますか?このまま一緒に来てくださいますか?」

 カミュスヤーナは、まだ心境が穏やかでない様子だったが、低い声でそれに答えた。

「……必ず赴くが、こちらでの作業を済ませておきたい。どうせ、そなたは近くで私のことを監視しているのだろう?赴けるようになったら呼ぼう」

「かしこまりました。では後ほどお呼びくださいませ」

 言葉が言い終わると同時に、アメリアの姿がかき消えた。


 カミュスヤーナは、自分の顔を両手で覆う。

 元々、魔王と対峙し決着をつける予定だった。今回の要請はちょうどいい機会だ。

 眠っているテラスティーネからも、魔力を貰い受けた。正確には「黙って奪った」のだが。

 もう二度と彼女に辛い思いはさせられない。

 顔を上げると、鏡の中の自分と視線が合う。

 愛しい彼女と同じ、青の瞳。

 それは決意に満ち溢れ、鋭く光を帯びた。

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