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目が覚めたら夢の中  作者: 説那


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策略

「まだ何も動きがないだと?」

 エンダーンの問いかけに、目の前でアメリアが頭を下げる。

「はっ。彼の方は、頻繁に工房と呼ばれる部屋に出入りしていますが、その部屋を覗くことが結界を張っているため叶いません。それ以外は領主なる土地を治める仕事をしているのですが、エンダーン様に関する動きは見受けられません」


 以前、アメリアを使者として遣わせてから、大分時が過ぎているのに、動かないとは。

 その工房での動きが知りたい。きっと、何かこちらに知らせたくない作業をしているのであろう。


「その結界を破ることはかなわぬか?」

「私の力では難しいかと。しかも私が動きを監視していることは、彼の方には気づかれていると思われます。工房の外では全く尻尾を出しません故」

「残念ながら、あの者の魂はカミュスヤーナの中だからな。身体もそなたとして動いているし、急ぐ要素もないということか。身一つでこちらに来ても問題ないように、準備をしているのかもしれぬ」


「いかがされますか?」

 カミュスヤーナと同じ赤い瞳が、エンダーンの方に向けられる。

 これといった決定打がない。あの時、あの者の魂に逃げられたのは大変迂闊だった。

 一番欲しいのはカミュスヤーナの魂だが、初回の出会いで身体から魂を抜き出すことはできないとわかっている。

 できれば、カミュスヤーナの魂を傷つけるために、あの者の存在も合わせて確保しておきたい。

 なれば、あの者の魂が退避しているカミュスヤーナを、身体ごとこちらに連れてくればいい。


 だが、どうやって?


 魔力の色が似通っているため、カミュスヤーナには、エンダーンがかける状態異常の術が効かない。

 あの少女にエンダーンの魅了の術がかからなかったのも、カミュスヤーナが何らかの方法で、彼女の魔力の色を自分のものと近しく変えたためだ。

 物理的に酸欠状態にして気絶させてから、攫ってもいいが、あの少女のように魂が別のところに退避すると厄介だ。


 こちらにあるもので、彼がここに来ざるを得ない事象か……。


「エンダーン様。私から提案がございます」

「何だ?」

「やはり、この身体を痛めつけると言って、脅されるのが良いのではありませんか?」

 アメリアはそう言って、自分を指し示すように、胸に手を当てた。

「だが、その身体に傷をつけるのは……今はそなたの身体でもあるし。痛いのは嫌であろう?」

 エンダーンの言葉に、アメリアは小首を傾げ、人差し指を耳の下に当てて考え込むしぐさを見せた。


「では、この身体の初花を奪うと言えばよろしいのでは?」

「初花を?そんなこと大したことはないであろう?それに既にカミュスヤーナが奪っているかもしれないではないか」

「いえ、人間は成人してからでないと、その行為はしないようです」

 彼女はまだ成人していないはずです、とアメリアはあっけらかんと告げる。

 魔人は身体が異性を知っているか否かは、あまり気にしない。だが、アメリアの言い分では、人間は身体の清さを重視するのだろう。

「そなた。人間に詳しいな」

「彼の方を監視している最中に本を読み漁りました」

「さようか」


 人間は成人するまでは身体が未成長であると考え、種を残す行為は行わないのだそうだ。人間が成人するのは女性の場合は16歳の冬。

 異性同士で行う行為は、人間と魔人で違いはなく、初めての相手は基本、婚姻相手となるらしい。

 ちなみに、魔人ほど性に関しては公にはされていないらしく、成人前に初花を奪われることは、外聞が悪い行いになるのだそうだ。


 これだけの情報を手に入れてきたアメリアの手腕に、少し感嘆する。

 単に暇だったのかもしれないが、それは指摘すまい。


「その身体の初花を奪ったら、カミュスヤーナは怒るか?」

「怒るでしょうね」

「止めようと動くだろうか?」

「さすがに動くのではないでしょうか。この身体は取り戻そうとしているようですし」


 それは面白い。

 エンダーンは、にやりと口の端をあげる。

「アメリア。またカミュスヤーナに私の言葉を伝えてきてはもらえないか」

「かしこまりました。お任せください」

 アメリアはエンダーンの足元に跪いて礼を取った。

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