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目が覚めたら夢の中  作者: 説那


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経緯

 フォルネスが、普段、立ち入ったことのない主であるカミュスヤーナの工房に足を踏み入れると、椅子に腰かけてテラスティーネが待っていた。

 背中を流れる水色の長い髪は、途中で一部まとめられていて、紺色のドレスを身にまとっている。

 先ほどテラスティーネの侍女であるアンダンテと軽く話をしたが、たぶん彼女が強引に工房に押し入って、主の身支度を調えたのだろう。

 それにしてはかなり短い時間だった。相変わらずアンダンテの技量の高さを感じる。

 アンダンテもフォルネスと同様、主一筋なところがあり、その考えや姿勢は一致していた。


「座って。長い話になるから」

 フォルネスは、テラスティーネに示された椅子に座る。

 ミシェルが卓にお茶の準備をして、工房を出て行くのを見届けてから、テラスティーネはフォルネスに視線を向けた。

「まず、カミュスヤーナ様は無事よ。そこで眠っていらっしゃるわ」

 テラスティーネに告げられて、フォルネスは寝台の方に目を向ける。


 寝台にはカミュスヤーナが仰向けに寝かされている。どこか傷ついたりしている様子はなく、表情も穏やかだ。

 そして、カミュスヤーナの髪の色が、以前の黒からプラチナブロンドに戻っている。

「髪の色が……」

「そう、本来の色に戻っているわ。瞳の色もね」

「いったい、どうやって魔王から取り戻したのですか?」

「今から説明するわ」


 魔王は、カミュスヤーナから奪った色、テラスティーネから奪った身体で、自動人形を造っていた。

 カミュスヤーナは新たな器を作成し、自我のある自動人形にそれを渡す代わりに、テラスティーネの身体を取り戻した。

 意識のない身体の機能を維持するため、カミュスヤーナはテラスティーネの身体に魔力を流したらしい。それがきっかけでテラスティーネの意識は元の身体に転移。

 今までの作業で極度の疲労にさいなまれていたカミュスヤーナを、テラスティーネは強制的に眠らせ、自分の身体にあったカミュスヤーナの色を、正当なる持ち主に戻した。


 フォルネスが持っている魔力は多くないので、魔力や色などがそんなに簡単にやり取りできるものかはわからないけれど、結果がそうなっているのだから、そうであったと無理やりにでも納得するしかない。

 とはいえ、話を聞くにはいいが、それを実行するのには、並大抵でない時間と手間がかかったことだろう。

 フォルネスは、2人が共に以前と変わらない様子でいることに、安堵の息をついた後、口を開いた。


「では、カミュスヤーナ様が目覚めれば、この件は解決ですか?」

「私もカミュスヤーナ様も、魔王に遭遇する前に戻ったけれど、今までの行動は魔王には流れてないわ。だから、魔王の興味がカミュスヤーナ様にある限り、また干渉をしてくるでしょうね。……魔王と一度対峙しないといけないでしょう」

「テラスティーネ様。それをお一人でされようと、お考えではないでしょうね」

 フォルネスがテラスティーネに尋ねると、彼女は青い瞳を瞬かせた。そして顔をゆがませる。


「……なぜそう思ったの?」

「以前、カミュスヤーナ様が、テラスティーネ様の件についてお話しされている時と、同じお顔をされていましたので」

「カミュスヤーナ様が?」

「自分を犠牲にして、テラスティーネ様を助けようとしていた時と同じ顔です」

 泣きそうな何か耐えるような顔で、テラスティーネはフォルネスを見つめた。


「そう。カミュスヤーナ様は貴方が諫めてくれたのね。ありがとう」

「いえ、アルスカイン様も、カミュスヤーナ様に貴方と婚姻するようにと懇願されておられました」

「2人に請われてしまったら、カミュスヤーナ様も断れなかったでしょうね」

 テラスティーネはクスクスと笑った。

 その笑みを見ると、カミュスヤーナが守りたかったのは、これだったのだろうと、納得できてしまう。この先に困難があれど、2人が共にあれば、乗り越えていけるだろうと思えてしまうのだ。


「カミュスヤーナ様を責めないでくださいね。その時、カミュスヤーナ様はそれが最善だと思われたのです。カミュスヤーナ様がお目覚めになられたら、魔王への対処について話し合います。だから安心してください。切り離されるつらさが分かってしまったから、私一人で行動して、カミュスヤーナ様をお一人にすることはしません」

「あの、テラスティーネ様。貴方の婚約の件ですが」

「全てカミュスヤーナ様に真実を話されたのでしょう?私たちが至らないばかりに、貴方にはご迷惑をおかけしました」


 テラスティーネが頭を下げようとするので、慌ててフォルネスはそれを押しとどめる。自分はそんな立場にない。礼を言うとすれば、アルスカインになるだろう。

「カミュスヤーナ様は、テラスティーネ様と婚約しなかった理由は、お話になりましたか?」

「お互いが元に戻ったと同時に、カミュスヤーナ様を眠らせてしまったから、まだお聞きしていないわ」

 テラスティーネが寝台に寝ている主を見て微笑む。

「お目覚めになられたら、お聞かせいただけるはずよ」


 主よ、どうか幸せを手にしてください。

 フォルネスは寝台に寝ているカミュスヤーナを見て、大きく息を吐いた。

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