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目が覚めたら夢の中  作者: 説那


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覚醒

 窓から強い日の光が差している。

 さすがに硬い床の上で寝ていると、身体が痛い。

 身体を起こした後、身体の下にひいてあった布をたたみ、机の上に放り投げる。

 寝台の側に立ち、中を覗き込む。


 プラチナブロンドの髪の少女が2人並んで眠っている。

 手をそれぞれの顔を近づけてみると、手前の少女は息をしていなかった。奥の少女は規則正しい寝息を立てている。

 手前の少女は元々のテラスティーネの身体、奥の少女はカミュスヤーナが新しく作った人形だ。今の呼吸の状態から、移行は順調に行われているようだ。

 アメリアの意識の移行の作業を始めてから、カミュスヤーナはずっと工房で寝起きしている。

 カミュスヤーナがいない時にアメリアが目覚めて、勝手に結界の外に出られては困るからだ。

 おかげで寝台に寝られず、さらに寝不足が加速している。

 テラスティーネとは、だいたい1週間から10日に一度しか、夢の中では出会えない。

 今後の行動予定について話し合おうにも相手がいないので、工房にいる間は回復薬やお守りなどを作って、時間をつぶしている。

 多分、明日には、また夢の中でテラスティーネに会える。

 それまでに移行が完了しているといいのだが。


 カミュスヤーナがそんなことを考えていたら、寝台の上で動きがあった。

「う~ん」

 奥の少女が寝返りをうつと、その瞳をゆっくりと開いた。

 赤い瞳がカミュスヤーナの姿を認めると、その瞳の持ち主は寝台の上に跳ね起きた。

「カミュスヤーナ様!」

「待て待て!服を着ろ」

 身体を起こしたと同時に、掛けられていた布を跳ね飛ばしていた。服を着ない状態でこちらに向かおうとするのを、慌てて押しとどめる。

「ああ、申し訳ありません。服を取っていただけますか?」

 アメリアが机の上にある服を指差す。

 カミュスヤーナは服をアメリアに投げてやり、寝台に横たわったままのテラスティーネの身体には、布をかけ直してやった。

 アメリアがその間に手早く服を着ていく。


「移行は完璧ですね。視界も良好」

 テラスティーネの身体をまたいで、アメリアは寝台の横に立ち上がる。

「それにしても、だいぶ時間がかかったな」

「そうですか?掌を介してなので、時間はかかると思っていましたけど」

 それとも、口づけで一気に移行したほうがよかったですか?と、アメリアは小首をかしげる。

「いや、時間はあったからいい」

 カミュスヤーナはアメリアの問いかけに、そう答える。


 意識を他者に移す方法は、掌を介しても行えるが時間がかかる。口づけの方が、時間がかからず一気に行える。より身体の内部に近い粘膜を介する方が、効率がいい、ということだ。

 今回はまっさらな人形に対し、意識を移しているので、抵抗するものがなく、より早く移行可能だった。

 それでも6日かかっている。テラスティーネの意識を元の身体に移すのには、一時アメリアの意識が入っていたということもあり、これより時間がかかるだろう。


 アメリアの新しい身体を造るのに1月弱。それからテラスティーネによって、身体を修正するのに1週間。アメリアの意識の移行に6日。

 後のことを考えると、テラスティーネの意識の移行にそれほど時間はかけられない。

「カミュスヤーナ様。私は任務に戻ります。そちらの準備が終わりましたら、お声がけください」

 アメリアがカミュスヤーナの隣で跪く。

 カミュスヤーナはアメリアの頭に右手を置き、暗示をかけた。アメリアの姿が消えるのを見届ける。


 カミュスヤーナは、寝台に横たえられているテラスティーネの頬に手を当てる。手には冷たい感触があった。

 意識がない状態で身体を長い間放置しておくのは、良いこととはいえない。

 カミュスヤーナはテラスティーネの左手を布の下から探り当て、右手で握った。掌を介して、少しずつ魔力を送り込む。彼の魔力で彼女の身体を守るために。


 手もひんやりとしていて熱はない。もちろん身体はピクリとも動かない。

 まるで死んでしまったかのような。

 テラスティーネの意識は、カミュスヤーナの夢の中で眠っている。

 それはわかっているのに、背筋が寒くなるのを感じる。


 カミュスヤーナは以前、彼女のことは自分が幸せにすると誓った。

 彼女は夢の中で幸せだと語った。

 それでいいのではないだろうか。

 そう思い切ろうとすると、別の言葉がカミュスヤーナの心を揺さぶる。


 カミュスヤーナは魔人だ。人間の中では異分子。一緒にいれば、最悪、テラスティーネは今、目の前にいるように、身体の熱を失って果ててしまう。それもカミュスヤーナの手で。

 でも、カミュスヤーナは彼女を手放したくない。彼女の側にありたい。彼女の全てが欲しい。

 彼女を失ったら、自分はもう生きていられないかもしれない。


 眩暈がした。

 寝不足のせいか、考え事の海に溺れていたせいか、そんなことを長々と考える暇もなく、急激に眠気に襲われた。

 立っていられなくなり、寝台の横に膝をつく。寝台の端をつかんで身体を支える。瞼が開けていられない。

 自分の頬にふわりとした温かい感触を感じる。

 霞ゆく目でカミュスヤーナが見たのは、青い眼を細めて微笑むテラスティーネの姿だった。

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