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目が覚めたら夢の中  作者: 説那


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回想 来襲

 アルスカインが卒業してしまい、院に通うのは私だけになった。

 今年の夏には私は16歳になり、そして婚姻する。

 私の婚約者はフォルネス様のままで、カミュスヤーナ様とは婚約、婚姻のことについては、全く話せていない。

 アルスカイン様もフォルネス様も、婚約、婚姻のことは気にせず、院生活を楽しむよう言ってくれているけど、本当に、このままでいいのだろうか。


 そんなことを考えながら外廊下を歩いていると、院の正門の近くに立っている人が目に入った。

 黒い髪、両目はグレーの布で覆われている。整った容貌。

 夢でも見ているかと思った。先ほどまで考えていた彼のこと。

 彼は歩いてくる私に気づくと、その名を呼ぶ。

「テラスティーネ。迎えに来た」

「……カミュスヤーナ様。どうして」


 私の婚約が決まってから、私が一緒に帰るのは基本アルスカイン様だった。

 アルスカイン様が卒業されてからは、アルスカイン様かフォルネス様、日によってはアンダンテが迎えに来て一緒に帰宅していた。

 今までカミュスヤーナ様ご本人が迎えに来たことは、一度もなかった。


「皆、今日はどうしても外せない用事があって」

「私一人でも帰れましたのに」

「まぁ。たまには」

 カミュスヤーナが私の方に向かって、左手を差し出す。

 私はその差し出された手に困惑する。

 ここは外だからエスコートはおかしいし、繋げってことなのかな。でも繋いでいいもの?

「帰るぞ」

 カミュスヤーナは、ためらっている私の右手を取ると、指と指を絡めるように繋いで歩き出す。

 私はおとなしくカミュスヤーナの隣をついていった。


 しばらく無言で2人、横に並んで歩いている。

 私は隣を歩いているカミュスヤーナの顔を見上げる。

 両目を布で覆っているためか、その表情を読み取るのが難しい。

「テラスティーネ」

「は、はい」

「……少し話したいことがあるのだが。時間はあるか?」

「はい」

 カミュスヤーナは私の答えを聞くと、この間、アルスカインやシルフィーユと話した公園の四阿の方に歩いていく。

 私ののどが緊張からか、こくりと鳴った。


 四阿に着くと、カミュスヤーナは私に椅子に座るよう促し、自分も向かい合う席に腰を下ろした。

「テラスティーネ。君の婚約のことで……、私は君にフォルネスとの婚約が決まったと告げた」

「はい……」

「君の婚姻の日が近づいてきて、私は自分が愚かなことをしたと思っている」

「……」

「私は君がいなくなるのが耐えられない」


「カミュスヤーナ様」

 カミュスヤーナは椅子から立ち上がり、私の方に身をかがめる。

 私の顔とカミュスヤーナの顔が向かい合う。

 カミュスヤーナは両目を覆っていた布を外した。

 布を外すときに両目を片手で覆い、ゆっくりとその片手も外す。

 閉じられた両目が開かれると、金色の瞳がこちらに向けられた。

 彼がその布を外したのは、何年ぶりのことだろう。

 そして、その瞳を見て、私は彼に感じていた違和感が強くなった。

 私と彼の視線が交差する。

「君が欲しい」

 彼の手が私の頬に当てられる。


「……貴方は誰?」

 私の言葉を聞いて、彼はその金色の瞳を見開いた。

 瞳の光が強く私を射抜く。

「なぜだ。なぜ私の術が効かない?」

 私の頬に当てられていた手が、顎をつかんだ。

「私の目を見よ」

 顎をつかまれて、私の顔が固定される。

 彼は私のことを強い視線でにらみつける。


「……まさか、カミュスヤーナか?小癪な真似を!」

 顎に力が入り痛い。目の前が涙でぼやけてくる。

 目の前の彼の髪色が、ゆっくりと金色に変わっていく。

「こうなれば、そなたには我が弟を連れ戻すための餌になってもらう」

 カミュスヤーナと、うり二つの顔で、彼は口の端をにやりとあげて笑った。

「色を奪ったというのに取返しにも来ず……いい加減、私も待ちくたびれた。ついでに、カミュスヤーナを痛めつけるために、役に立ってもらおう。そなたを特に気に入っているようだ。目の前でそなたを嬲ったら……楽しいだろうな」


 これは魔王だ。

 このまま連れていかれたら、カミュスヤーナ様は私を助けようと動いてしまう。そして魔王に傷つけられる。

 せめて意識だけでも逃げないと。

 彼の手が首にかかった。首を圧迫されて、意識が薄れる。

 カミュスヤーナ様……!

 私の視界は暗転した。

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