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目が覚めたら夢の中  作者: 説那


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回想 卒業

 薄桃色の花びらが舞っている。

 窓の外で舞う花びらを見つめながら、私は机に突っ伏した。

 見ていて飽きない。そして儚い。


「テラスティーネ」

 私の背中側から声がかけられる。

 私は身を起こして、扉の方を見やった。

 紺色の髪に金色の瞳。普段は着ていないマントを身にまとい、角帽をかぶったアルスカインが立っている。

 その隣にいるのは、ラベンダー色の髪に紫の瞳のシルフィーユだ。


「アルスカイン様」

「休んでいるところ申し訳ないが、そろそろ帰らないか」

「……休んでいたわけではありません」

 席をたつ。黒いスカートの先を払うと、通学かばんを持って2人の方に歩み寄った。


「もうご用事はお済みですか?」

「ああ。もう終わったよ。……すまない。テラスティーネ」

 謝りの言葉をかけられて、私は小首をかしげる。

「兄上は先生に連れていかれてしまったよ。少しでも会わせてあげようと思ったのだけど」

「アルスカイン様が気にされることではございません」

 なんとなく予想はしていた。

 院を最優秀で卒業した彼が、弟の卒業式に保護者として出席したのだ。4年ぶりくらいの訪問だから、教えを請うた先生と積もり積もる話があるのだろう。


 カミュスヤーナ様とは、面と向かってお話しができていない。

 アンダンテを通じて、カミュスヤーナ様と面会したい旨を伝えていたのだが、色よい返答がいただけなかった。

 しばらくして、私が面会希望を出しても、アンダンテとフォルネス様の間で止められていることがわかり、私は2人に強く抗議した。

 フォルネス様がおっしゃるには、カミュスヤーナ様本人には内緒で、私の婚姻の準備を進めていることもあって、2人で会うことは控えてほしいとのことだった。私がカミュスヤーナ様に、うっかり話してしまうことを危惧しているのだ。

 まぁ、その危惧は正しいので(私もカミュスヤーナ様に会ったら、何を口走るかわからないので)、それ以上は何も言えなかった。


 カミュスヤーナ様からも、私の婚約が決まってからは、お呼びがかかることがない。

 一緒に食事を取ったりすることはあるが、すぐに執務室に戻ってしまうので、お話はできないし、執務室に直撃するのはフォルネス様に止められる。

 アルスカイン様の卒業式では、話す機会が取れるかと思ったのだが。


「お姉様!」

 シルフィーユの声に、はっとなって顔を上げる。

 数歩先を歩いていたアルスカインとシルフィーユが、私を心配そうに見つめている。

「ちょっと休んでいかないか?」

 アルスカインが遠くに見える公園の四阿を指さした。

「お姉様、行きますよ」

 シルフィーユが私の手を取って歩き出す。


「兄上と話したい?」

 アルスカインは、私たちに飲み物を手渡しながら、目の前の椅子に腰を下ろした。

「あと半年もせずに、君は16歳になって、兄上と婚姻できるよ」

「でも、カミュスヤーナ様に、内緒で婚姻という大切なことを進めていますし。それにカミュスヤーナ様本人は、私のことをどう思われているのか聞いていませんし」

「そうだね。以前は好きでも、今はその心は変わっているかもしれない、と思うのだね」

「えっと、以前は好きというのはどこから……?」

「兄上から告白されているだろう?君が……たしか9歳くらいの時?」

「カミュスヤーナ様がお話になったのですか?」

「まさか、外出から帰ってきた2人の様子を見ればなんとなくわかるよ」


『アルスカインは聡くてな』

 ……あの時のカミュスヤーナ様の言葉が分かった気がします。


「でも、兄上の心変わりは心配しなくていいよ」

 アルスカインは口の端をあげた。

「君は知らないだろうけど、私やフォルネスは、院や休みの日の君のことを逐一報告しているよ。兄上に」

「は?」

「保護者だからって言い訳をつけてたけど。フォルネスには休みを与えて、君と過ごすように仕向けて、その様子を報告させるのだもの。自分こそ働きすぎなのだから、休みをとって一緒に過ごせばいいのにって、フォルネスが言っていた」

「やっぱり、ヘタレ」

 ぼそっとシルフィーユがつぶやく。


「確かにテラスティーネへの愛情表現は、ちょっとおかしいかもね。他は優秀で非の打ち所がないのにな」

 アルスカインがくすくすと笑う。

 私の顔に熱が集まってくるのを感じる。

 何かとんでもないことを聞かされていると思うのは、気のせいだろうか?

「兄上は……テラスティーネの側にいたいのは確かだよ。さすがに君の婚姻が近くなったらわかるのではないかな。他の人と婚姻してしまったら、側にいられなくなるのだから」

 だから、心配せずに待っていなよ、とアルスカインは語った。

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