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目が覚めたら夢の中  作者: 説那


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20/49

魅了

 カミュスヤーナは、部屋に防音と目隠し、侵入阻害の結界を張る。

 人払いは済ませている。そもそも深夜なので、人が訪ねてくることはないだろう。

 寝室を使わないとならないのが痛いが、深夜に他の部屋にこもるのも、おかしいから仕方ない。

 カミュスヤーナは寝台の端に腰を掛けて、空中に向かって話しかける。

「そこにいるのだろう。アメリア。そなたと交渉したいことがある」

「……エンダーン様ではなく、私に?」

 姿は見えないが、すぐ近くから聞きなれた声が、カミュスヤーナに応える。


「そうだ」

「私がその交渉事に応じると思って?」

「話だけでも聞いてみてはどうだ。それから判断してくれてかまわない」

「ふーん」

 カミュスヤーナのすぐ隣に、プラチナブロンドの髪に赤い瞳の少女が現れた。

 腕と腕が密着するほど近い。

「こんばんは。カミュスヤーナ様」

 カミュスヤーナの愛しい少女にそっくりな容姿、声。アメリアは、カミュスヤーナの顔を仰ぎ見ると、艶やかに笑う。

「私をお呼びいただけるなんて光栄ですわ」


「……ここでは、奴に身体や視力を貸すことはできない。結界を張ったからな」

「あらあら、エンダーン様に内緒のお話ですか?」

「彼女の身体を返せ」

「それはできません」

「代わりに私をくれてやる」

 カミュスヤーナの言葉に、アメリアは目を見張った。


「本気ですか?まぁ、エンダーン様はお喜びになられると思いますが、この身体も気に入っていらっしゃったのですよね」

 どうしましょう?と、アメリアが小首をかしげる。その様子が、カミュスヤーナに愛しい少女を思い出させる。


「優先順位としては、私の方に興味があるのだろう。奴は」

「それはおっしゃる通りですね。貴方が手に入れば、この身体はなくてもいいのかもしれませんね」

「そなたは捨てられるのだな」

 カミュスヤーナの言葉に、アメリアはピクリと身体を震わせた。


「私が奴の元に赴いたら、奴はきっと私で遊ぶことに夢中になるだろう。そしてそなたは捨てられ、忘れ去られるのだ」

「そんなことは」

「ないとなぜ言い切れる。むしろそうなることしか想定できないが」

 アメリアの顔が引きつっている。笑みを浮かべようとしているが、それに失敗して顔をゆがめている。


「そなたはそれでいいのか?」

「私はエンダーン様の配下でしかないのですから」

「私はそなたがエンダーンの寵愛を得られるよう取り計らえる」

「!」

「そなたが私に協力するなら、だが」

 カミュスヤーナはエンダーンに似せた笑みを浮かべて、彼女の顔を覗き込む。アメリアが呆けたように、カミュスヤーナの瞳を見つめる。


 カミュスヤーナはアメリアと視線を交差させたまま、彼女に魅了の術をかける。

 しばらくすると、アメリアが頬を赤く染めて、ほころぶように笑った。

 テラスティーネが笑いかけているようで、カミュスヤーナは胸が痛くなる。

「今から言うことを実行せよ」

「はい、仰せのままに」

 アメリアはカミュスヤーナの指示を聞き遂げると、目の前に跪いて礼をとる。

 カミュスヤーナはアメリアの頭の上に右手を置いた。

 アメリアはカミュスヤーナの手を下から見上げた後、姿を消した。


 カミュスヤーナは緊張から解き放たれて、寝台に仰向けで身体を預ける。

 アメリアには結界から抜けると、このことを記憶から消してしまうよう暗示をかけた。

 彼女は意識することなく、カミュスヤーナが話した通りに動くだろう。


 このままテラスティーネの身体だけ取り返したとしても、きっとまた魔王は干渉してくる。ならば、これを機に魔王の力をそいでおかなくては。

 カミュスヤーナは愛しい少女と一緒にいる時間を伸ばそうと、行動をしている自分に気づいていなかった。

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