回想 彼の告白1
「テラスティーネ様。カミュスヤーナ様がいらしていますが」
「今、まいります」
私は鏡で自分の様子を見直しました。
あの頃はやせていた頬もふっくらとし、体形も年相応に戻っています。
9歳になった私は、少しはカミュスヤーナ様に並び立てるような容姿に、なれているのでしょうか。
カミュスヤーナ様をお迎えするために、部屋を出ます。
「カミュスヤーナ様は、本当に毎日のようにテラスティーネ様の様子を伺いにいらっしゃいますね」
「……嬉しいです」
侍女の言葉に、私は笑みを浮かべて答えます。
初めてお会いした時の私のやつれ具合が、カミュスヤーナ様の御心を痛めたそうで、私の様子を毎日のように見に来てくださり、そのまま食事やお茶をご一緒することが多いのです。もう、あれから3年もたっているのですから、その気遣いに恐れ多くなります。
院でのお勉強など、お忙しい身で、ございましょうに。
アルスカイン様は一つ違いということもあって、院でお話をする機会が多く、帰宅してからも顔を合わせることはあります。しかし、カミュスヤーナ様ほど、自宅で一緒にお時間を過ごすことはありません。
「テラスティーネ」
部屋に入った私を見て、カミュスヤーナ様のお顔がほころびました。
いつもじっと見つめてしまうほど、カミュスヤーナ様の顔は美しいのです。ぶしつけかもしれませんが。
「ああ、今日も体調はいいようだね」
カミュスヤーナ様は私より背が高いので、隣に立つと、私が仰ぎ見る形になってしまいます。
そのため、カミュスヤーナ様は私に話しかけるときは、私の首が疲れてしまわないよう、私の前に片膝をついてくださいます。
「あの……。カミュスヤーナ様。毎日私の様子を見に来て下さるのは大変なのではないですか。私は大丈夫ですから、こんなに頻繁でなくてもいいのですよ」
「私がテラスティーネに会いたいから来ているのだ。そんな気を使わなくていい」
柔らかい笑みを浮かべられて、カミュスヤーナ様は私の頬を撫でました。
カミュスヤーナ様のお顔が近くて、私は撫でられている頬が赤くなるのを感じます。
「今日は草花の図鑑を持ってきた。時間があるときに読むといい」
「いつもありがとうございます」
私のところにいらっしゃる時には、花や本、お菓子などをお持ちくださいます。
私はいつもいただく行為に、どのようにお返しをすればいいのか……困ってしまうのです。
「テラスティーネ。次の日曜日は空いているかい?」
「特に用事はございませんが」
「この近くにフィラネモの丘があるのだ。今が見ごろだという。久しぶりに外に出ないか?」
「いいのですか?」
フィラネモは青い小花をたくさん咲かせる花で、春に丘全体を覆うように咲きます。遠くから見ると、青一色の丘になっているのでしょう。
外には、ほとんど出ずに過ごしていたので、見るのは初めてです。
「はい。嬉しいです。楽しみにしております」
カミュスヤーナ様が優しいまなざしで、私をご覧になりました。




