三夜 1年霊組
「は、はぁ‥‥つ、疲れた‥‥。す、鈴速いよ〜」
「それでも何とか追いつけたんだから、平気だよ。だけど、廊下はめちゃくちゃ長かったし、これから色々苦労しそうだな」
あれだけ走ったくせに、鈴は全然息切れしてない‥‥!!何で?さっきのあれは演技だったの?!
「す‥‥鈴のばか、裏切り者!さっきまでバテてたくせに〜」
「はいはーい、ずべこべ言わないの。ま、目的地には着いたんだから気にしない気にしない〜」
ぐぬぬ‥‥、鈴がそうでも俺がだめなの‥。よし、後で一緒に校庭で魔法陣作るのに巻き込んでやる!
1年霊組、その表札が飾れている教室のドアを開く。
ガラガラガラと引き戸と地面が擦れ合う音を立てながら開けた。そして、既に中で待機している生徒達の何人かがが俺達を見つめてくる。
「もう皆グループとか作っているんだね」
皆三、四人で集まって仲睦まじく話している姿がちらほら見える。
「よかった〜知っている人居ない」
鈴はクラスの状況を見て胸を撫で下ろしていた。
そして、俺は席に着席する前にこの教室、今日から一緒に学習していく生徒達の様子を伺い始めた。
ん?あそこで話しているのって、よく見たら狐耳がついてる!
うわぁぁ〜!狐の一族なのかな〜。尻尾の毛並みも良さそう。鈴の2本の尻尾も中々だったよね。狐の顔が特徴の面布を付けていてカッコいい〜!
そして、狐の方と話しているのが‥‥。あれ?!あの方も角が2本生えてる!!鬼の一族か何かかな。1本の角が生えている鬼さんなら俺が住んでいる所に居たけど、2本は初めてだ。
それから、その2人が喋っている席より端っこ1番窓側で1番後ろにいる人。ガヤガヤ騒いでるのとは、反対で1人で黙々と読書をしていた。
あの人、男‥‥だよね?体つきがしっかりしてるし多分そう。黒髪を後ろで結んであるからてっきり女性と思ってしまった。髪は髪ゴムで結ばれていると言うより、綺麗な箸を使って髪を留めていた。
大人しそうな人だな〜。
ある程度色んな人達を観察してみた俺は鈴に声をかけた。
「鈴、俺達も席に行こっか」
「そうだね」
スタスタ歩き、自分の机へと向かう。
木製の机は、表面に引っ掻き傷や見えにくいけど消されていない落書きなどがあった。
俺もそう言えば机に最後まで読んだら呪われる呪文を書き込んで暗唱しようとしたっけ。
全力で止められたけど‥‥。
いつしかの出来事を思い出しながら、「懐かしいなー」とぼんやりとしていると、
スパーンッ
「ん?」
勢いよく扉が開かれ、小柄な少女そして隣には彼女とは頭約二個分離れた背丈の男性がそこに居た。
「霜、行きましょう」
「了解です」
綺麗な人達だな‥‥。
「おい、あれ見ろよ」
「!」
後ろからヒソヒソと話しているのが聞こえた。あ、俺がさっき見てた鬼と狐の方達だ!
「まさか、美留町家の奴が来るとはな。噂は聞いていたけど本当だったのか」
「変な事してると祓われるっスよ。あの2人が居る前では大人しくしてないと」
どうやらあの2人は、彼女達のことを知っているみたいだな。
美留町家?
聞いた事のない苗字だな。
偉い人達なのかな〜?
「美留町さんは、妖怪退治屋の名家だよ!皆彼女達の実力を知っているから恐れているんだ〜。だから君も、彼女達の目の前でやらかさないようにね〜」
ふと、俺の右肩から可愛らしい声が聞こえてきた。顔を右に向けばそこには真っ白な毛玉がいた。ふさふさの毛から、くりくりしたお目目がぱっちりと俺を見つめていた。
「へぇそんなんだね〜!って、わぁ毛玉?!」
「んもぅ、失礼しちゃうな!!これだから人間は‥‥」
「君もこのクラスの生徒?」
「当たり前じゃん!じゃなかったら此処には来てないもん!それに僕は、あの白玉家のケセランパサラン一族なんだぞ〜!」
「どうだー!」そう自信満々に言う白くふわふわした毛玉は俺の肩に乗ってすりすりしてくる。そして、肩から自分の机へとジャンプして俺を見上げた。
「え?!ケセランパサラン?!あの幸せを呼ぶ白い玉って‥‥君たちのことなのか!!」
「そうだぞ〜!!僕の事褒め称えて良いんだぞ!跪け人間!!」
「ははー!ケセランパサラン様〜!!」
「ってちょっと‥‥まじでやらなくて良いよ。全くお前変だな。普通妖怪に土下座する人間なんていないから」
「え?そうかな。ケセランパサランって見た事ないからワクワクしちゃって‥」
「ワクワクって‥‥お前更にやべーな。まぁ、今まで見て来た人間共はお前のような態度じゃなかったけど」
「何話してるの〜?‥‥‥って、あれ?!毛玉が喋ってるんだけど?!」
「お前まで毛玉呼ばわりする気か!!」
俺達の話を耳にした鈴が顔を覗かせた。
鈴はケセランパサランくんの姿を見て少々驚いていた。
「鈴!彼はケセランパサラン君だよ!幸運を呼ぶ白い玉!!」
「‥へ?これが?」
「これが?!次はこれとかお前な〜!あと、僕には白玉幸気と言う可愛い名前があるんだぞ〜!」
「幸気!!可愛らしいな〜!ふわふわしてて綿飴みたいだね!!」
「ふふ〜ん!そうでしょー!!」
俺がそう言えばほんのり頬を桃色にかえた。
少し挑発的な所もあるが、素直な子だな。
「俺は春夏冬椛、こっちは猫宮鈴だよ。よろしく頼む!!」
「よろしくね。」
「あきなし‥‥聞いた事ないな。世の中には珍しい人もいるもんだね。そんで、ねこみやってお前猫又一族じゃん!!」
「いやどう見ても猫又だけど??」
「むきー!!!馬鹿にした態度!!ムカつくお前!!」
「うにゃ?!君に言われたく無いよ!」
「まぁまぁ、鈴も幸気ちゃんも落ち着いて〜」
「だって、こいつな高圧的な態度なんだもん〜!」
「お前だって鼻で笑ったじゃん‥‥って幸気ちゃん?!僕は男だぞ?!」
「知ってるよ〜、幸気ちゃん」
「幸気ちゃん〜w」
「ムキャー!!お前ら、妖怪を甘く見てるといつか痛い目に‥‥」
幸気ちゃんのふわふわな白い毛が針のように張り付け俺たちに威嚇しはじめた。
あぁ、幸気ちゃんの針毛が、机に刺さってる!!どれだけ硬いんだろう‥‥。
刺さった跡着いてそうだな‥‥。
「はーい!皆席についてくださーい!」
「「「?!?!?!」」」
突如、教室の扉が勢いよく開かれ男性の人が入ってくる。先程の聞き取りやすい声も、おそらくあの人だろうか。
俺達よりガタイが強く肩もしっかりして、この人が担任の先生だと一目で分かった。
そして、彼の左頬に斬られたような切り傷があった。
何かにでも、襲われたのかな。結構大きめの怪我で遠くから見てもはっきり分かるレベル。
先生に気づいた2人も急いで席についた。
幸気ちゃん、一瞬で机の上に乗ったけど一体何者なんだろう?そして、その小さなサイズとは遥かに大きい机、第三者視点から見れば幸気ちゃん、完全にミニチュアのぬいぐるみ的存在になってる‥‥。
「今日から君達1年霊組の担任のになった源暁です!僕は今年から教師になった新任だけど、今日この日を僕はずっと楽しみにしてました!!分からない事は何でも先生に聞いてください!改めて皆、よろしくお願いします!!」
そう言って満面の笑みを浮かべた。
先生‥‥明るくて話しやすそうな先生だ。
見るからに活気とやる気に満ち溢れている人であると分かった。
「みんなが此処へ入学したって事は、それだけ怪談に精通したいって思いが溢れているんですね!!いや〜その情熱、すごく素晴らしいです!皆が立派な怪談師になれるよう、僕も精一杯頑張っていきます!」
「な、なんか熱血タイプに近い存在感っスね」
「でも、とても良い先生でよかったわ〜。私ホッとしちゃったわ〜。ね!心待ちゃん?」
「‥‥まぁ、そうですね。だいぶ良いかと」
「‥‥‥源先生‥ですか」
「‥‥‥」
「(うわぁ、なんだか元気満々な人)」
「ふふ、頼もしい人ですね〜♪」
「まぁ、ヤクザみたいな人よりはマシだろ」
「‥‥ふーん」
新しい先生の迫力のある挨拶に、元気だなと笑う人、暑苦しいと苦笑いする人、ただ無言で見ている人など反応は様々だ。
「ふん、人間風情が妖怪を生徒にするなんてふざけてるんじゃないの〜?」
「あれ?毛玉?珍しいっスね。毛玉が生徒だなんて」
「まぁ可愛い〜タンポポの綿毛みたいね♡」
「こら!お前らまでそう言うか!!」
「優しそうな生徒達で良かった良かった!そんじゃあ早速お待ちかねの自己紹介‥‥の前にひとまず移動したい場所があるからみんな僕の後に着いてきて欲しいです!」
そう言って、皆がそれぞれ移動する準備をし始める。
着いてきて欲しい場所‥‥‥?
あ、もしかして入学式かな?
「椛!椛!」
「!幸気ちゃん‥‥鈴!」
「椛みんな移動始めたから俺達も行こう〜」
「うん、行こっか!あ、幸気ちゃんここに乗る?肩を貸すからほら〜」
そう左肩を幸気ちゃんの前に傾ければ、「流石椛、気がきくじゃん!」嬉しそうな顔をしてピョコンと乗った。
良ければ評価よろしくお願いします!