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逢魔ヶ高校生  作者: 囀
第1章 入学怪談会編
37/43

十六夜 青行燈

「アァァァ‥‥」


 どうやら先程鈴に蹴り飛ばされた女の怪異が呻き声を上げながら立ち上がってきた。壁に突撃した衝撃で破損しそうになっていた壁が隣の部屋らしき和室へ貫通してしまった。


「?!」


「まずい‥‥椛後ろにいて!」


「う、うん」


 よろめきながら俺達の方へ向かうのが分かった鈴は俺を守る様に立ちはだかる。


 てか『うん』って言っちゃったけど、鈴どんだけの力を持ってるの?


 俺、鈴といて結構経つけどそんな所見た事ないんだけど?! よ、妖怪ってカッコいい‥‥!!



「アァァァ‥ジャマヲ‥ジャマヲスルナ‥‥!」


 そして、俺達に叫びながらその青く長い髪を靡かせ睨みつける。それと同時に女の怪異は、黒い帯の様なもので俺達に攻撃していく。俺は何が起きているのか理解できず呆然としていたが、鈴がバリアを作ったみたいなのでそれで塞げた。


 が次の瞬間、白く細長い糸がシュルシュルと伸びて女の怪異の両手首に絡みついた。

 


「ナっ‥」


 

「全く‥、ちょこまか動きやがって」



「結羅くん!」


 

 糸が繋がれた目線を辿っていけば、結羅くんが手から放ったものだった。彼は蠢く怪異を見つめて動揺せず涼しい顔をしてそいつを見る。



「‥へぇ、猫宮お前あそこまでの力あるんだ。流石って所だな」



「それはどうも‥! 昔から扱かれていたもんで」


「‥アァァァ‥!!」


「?! あーもう、アレは何?! あんなの出るとか聞いてないんだけど!」


「美留町、怪我人は部屋の隅に避難させろ。結界の作り方は知ってるよな? 出来なかったら俺に言え」


「それくらい自分でも出来ますから。平気です!」


 多分、馬鹿にされたことが悔しかったのだろう。美留町さんは少しイラついた態度で返事をしながら反対の方へ走っていった。


 彼女が足を走らせる所には、先程女の怪異の攻撃によって負傷してしまった彼等が座り込んでいた。


「皆‥‥」


 

「アァァァ‥」



 あ。



「美留町さん危ない!!」



「え」


        ドンッ


 その速さ僅か1秒。俺は、美留町さんを横に押し退け向こうへと転がさせる。彼女は何が何だか分からないような顔をして、俺を凝視させた。


 どうやら俺の考えてた事は的中したようだ。俺が視線を戻した時、あの怪異は俺達から目線をずらして何処かを見つめていたから。


 やっぱり、美留町さんを狙っていたんだ!


 俺の後ろからあの女が近づいている事を彼女は認識し、「春夏冬くん!!」耳が張り裂けるくらいの叫び声を浴びせられた。



「?!」



 それから、怪異の白く細長い腕が俺の所に伸びていき‥




♫♫♫


 そして、現在に至る。


 目の前で叫ばれ耳がキンキンする。そして、頬を両手で掴まれ必死にもがくも全く動かない。それどころか体が震えて力も思うように出せない。



 うぅ‥。まずい、非常にまずい状況だ。掴まれた頬に力が入って痛い。彼女の爪が食い込んでいるのではないかと考えてしまう。



「椛!!!」


 鈴の叫ぶ声が聞こえた。顔が動かないため眼球だけをキョロキョロさせると、鈴が青ざめたような顔をして俺を見ていた。それは、結羅くんや美留町さんも同じ。他のみんなもそうだった。



「春夏冬くん!!!」 


「み、源先生‥?」


 それから、新たな声が俺の耳に入ってくる。救いの声の方向を見ればそこには、源先生と霜さんがそこに立っていた。きっと、俺達の異変に気がついてきたのだろうか。



「本当に‥良かった」



「すみません! 僕が役立たずなために、春夏冬くん達を危険に晒してしまった‥!」



 何で、先生謝ってるんだろう。全然悪くないじゃん。



「そいつは青行燈あおあんどん、怪談会に出現する妖です! まさか、まだ祓われていないとは‥‥」



 青行燈。


 聞いた事がある。確か、百物語の会に現れる妖怪とかなんとか‥。そう言えば、この入学怪談会は百物語を参考に作られたものなんだっけ。


 青行燈は百話目が話される時や、百話目を語り合えた時に出てくる妖。そして、百物語は最後の蝋燭を消したら本物の怪異がでてくるのを思い出した。


 あぁ、だから出てきたのか。



「ワタシノジャマヲスルナァァァァ!!」



 再び目の前で叫ばれ鼓膜が破れそうになり顔を少し歪める。まずい、これは攻撃される‥。けれど、逃げるのは当然不可能だ。


 あぁ、もしかしたら俺死ぬのかも。そりゃあ、そうだよね。だって怪異の奴らに無力な人間が勝てるはずがないんだ。


 何だか、皆に迷惑かけちゃったな。


 本当は死ぬ前に、読みかけの怪談本を読破したかった。中学校の同級生達と肝試しやこっくりさんとかもうちょっとやっておけば良かった。まだまだ俺の知らない怖い話を聞きたかったなぁ。


 あーあ。最後の最後でこんな死に方ある? 登校初日で他界他界〜とか前代未聞すぎる。まぁ、最後の最後まで大好きな怪異や妖怪に囲まれるのは本望だし、殺すなら一思いにやってほしい。


 むしろ、オカルトマニアの俺からすれば人ならざる者に殺められるのは素晴らしい事じゃないか。最期まで、妖の事を考えられるのだから。


 気がつけば、俺は握りしめていた"本"をぎゅうと抱き締めた。


 死ぬことは死んでから考えよう。でも、この本だけは守らなくちゃいけない。だって俺は、あの人と約束したから。折角俺が必要だって"本"を渡してくれたのに、ボロボロになって返すのは失礼すぎる。



 と言っても、あの人何処にいるのか分からないんだが。



 てか俺、あの人から"何で怪談を集めるのか"聞くの忘れてたなぁ‥‥。



「しくじった」



♫♫♫





「ア、アァ‥。ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ワタシヲステナイデ、ワタシヲキライニナラナイデ‥」



「え?」


 

 何が起きているのか分からなかった。体中に痛みが走る事もないし襲われる事もない。ただ俺が女の怪異に目を向ければ彼女は、


「何で‥泣いてるの?」


「イヤダ‥‥ウゥゥァァ」



 彼女は俺の問いに答えず呻き声を上げるばかり。長く青い髪で目元を隠すそぶりを見せるが、隙間から見える彼女の青く黒ずんだ瞳から一雫の涙がこぼれ落ちた。


「オネガイ、オネガイダカラ。ワタシイイコデイルカラ‥‥チャントスルカラ。オネガイオネガイ‥‥。ワタシヲミステナイデ」


 震える声で今にも泣きそうな声で、俺の頬に掴んでいた両手をスルッと離しそのまま遠ざかる様に暗い闇に消えていった。



「‥‥」



「もみじぃぃ!!!」



 ぎゅっと後ろから抱き締められ、鈴の泣きそうな声が聞こえてくる。俺が"鈴"と返事をすれば「怪我してない?! 大丈夫?! ごめんねぇぇぇ!!!」と絡む両腕の力が増してゆく。



「椛、本当僕心配したんだけど!! てか何であんなバカなことするかなぁぁ?!?! お前本当大馬鹿じゃぁぁん!!」 



「わっ、幸気ちゃん‥‥。苦しいよ」



「おい‥春夏冬。怪我はしてないか?」


 他の皆も俺の所に向かっていき心配の眼差しを向ける。


「影京くん、うん平気だよ。何処も怪我してないから」







 何だったんだ‥? 今の。

なろうでは毎週日曜日に投稿予定です。

カクヨムでは先行投稿しているので良ければそちらもお願いします!

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