十四夜 生徒監視室にて (No side)
題名でも書いてある通り、この回では椛視点ではなく三人称視点になります。
遡る事2時間前。
舞台は変わり、此処は生徒監視室。その名の通り、この学校の教師達が生徒一人一人の行動を監視する為に作られた部屋である。部屋のど真ん中にはいくつものモニター、その中に生徒達の姿が映っている。
この地下は普段、生徒達の実践場、つまり怪談を語り合う為の場所。今は此処で実施されている入怪(入学怪談会のこと)の為に使用されている。この行事を行う事で、実際の怪談会の雰囲気をより正確に自らの目で感じさせる事がこの行事の目的だ。
大事なのは、その場の雰囲気に慣れること。初めはこの様な悍ましい空間へと投げ込まれたら誰も彼もが混乱に陥るのは言うまでもない。だがしかし、怪談師は如何なる時でも冷静の精神を保ち、自らの手で集めたホラー知識を頭の中でフル回転させ語る、そして聞いている参加者を恐怖のどん底へと陥れるのだ。
此処で行う怪談会の進境具合及び生徒達の監視役としてこの部屋が作られた。生徒監視室は、学年ごとに分かれている。その為、監視するモニターの数もクラス分しか設置されていない。最中で、生徒達の様子に異変はないか観察したり、彼等のこれまでの人生を履歴書を使って他の教師達に教えたりしている。
そして今日行われている入怪の為、新一年生に関わる教師達が此処に集まっているのだ。
「今年も何だかんだで、愉快そうな奴らばっかですね〜」
それぞれの画面を眺めて興味津々気に発言するこの男、ライヒェは今年度の一年 聻組の担当する事になった教師だ。褐色の肌がよく目立ち、ノースリーブのチャイナ服から見える程よい筋肉がつけられた好青年である。
「お、あれは‥‥、岬家の一族じゃないですか! そう言えば今年末っ子が入学してくるって言ってたっけな‥」
(しかも双子の‥姉の方は異地組で、弟はオレのクラス‥‥。へぇ〜)
ニヤリと目を細めながらライヒェは椅子に乱暴な座り方をする。すると、頭上から凛とした声が彼の耳に入り上を向く。
「まさか、また無闇に決闘を申し込もうとは考えてないだろうな?」
「お?」
声の主は、黒マスクにチェーングラスを掛けた灰色髪の男性だった。
「レイゼーせんせー」
ライヒェは、その人が誰なのかを知っており名前を呼ぶ。
彼に呼ばれた男、鉄地河原 冷泉は溜息を一つ吐き、再び言葉を漏らす。そして、自身の身に付けているチェーングラスをくいっと掛け直した。
「全く‥‥、お前は本当懲りない奴だ。その戦闘癖は一体どうにかならないのか」
「あっはははは〜 すみませ〜んw オレ強そうな妖怪とか見てると思わず力比べしたくなるんですよ〜、つい〜」
楽観的な言い訳をボソボソ呟きながら「安心してくださいよ〜」と笑う。しかし、そのチャランポランな態度が気に食わなかったのか冷泉の額に青筋が立つ。
「"つい"じゃない! もし命まで奪ってしまったらどうするつもりだ!」
「いや〜、でも大丈夫っしょ。妖怪はある程度の回復能力は付いてますし、オレ一度も殺すような事はしてませんよ」
「そう言う問題ではない! ましてや、罪もない人間にまでお前の怪力が当たったら一溜まりもないぞ」
「まっさか〜! オレが人間何かに手を出す訳ないな〜い。あいつら、ひょろひょろもやしの集団じゃないですか。あんなの相手にもなりませんよ」
「あっははは〜!」甲高いライヒェの笑い声に、冷泉は再び怪訝な顔をする。
(こいつは、自分の力の加減を知らない奴だからな‥‥。もし俺が完全に人間だったなら恐らく死んでいただろう)
冷泉は、左腕の裾を捲り自身の腕を見た。そこには、人の腕だとお世辞にも言えないような冷たく硬い器具が手と腕の代わりに取り付けられている。
半分人間半分機械、冷泉は奇人なのだ。彼の父親は人間の血筋を持っていたが、母親が機械だった。二人は、周りから反対される声を押し退け、冷泉を産んだらしい。
「ほら、レイゼーせんせい!」
「‥‥? ‥‥ぐっ?!」
ライヒェに呼ばれ振り向くも次の瞬間、冷泉の左腹部に押されるような刺激を感じた。ただ、押されるような感覚があるだけで決して痛みはない。しかし、押される力が余りにも強く身体が動いてしまった。
「ライヒェ!!」
「あちゃー、やっぱり、半分金属のアンタには敵わないですね〜」
「残念〜♪」と反省の色もないような軽い気持ちでいるライヒェ。殴られた腹部にあたる服がシワになり、冷泉が埃を払うような動作をして元に戻していく。
「次やったら、ミサイル飛ばすぞ」
「どーぞお好きに♪ オレ別に死んでるんで、意味ないですよ〜。蜂の巣にしてもどーせ生き返るんで」
そう言って、被っている帽子から出ているお札のような紙切れをぴらぴら揺らし八重歯を見え隠れさせた。あまりにもいい加減な考え方に、これには冷泉も呆れた。
ライヒェ、彼はキョンシーだ。キョンシーの一族である彼は産まれた時から自身の体は死体同然の硬い体であり関節が曲がらなかった。おまけに今のようなムキムキな肉体では無く、痩せ細っており肌も青白かった。
だが、小学生の頃に"スポーツ"にどハマりし、動かない関節を無理矢理曲がらせた。しまいには、普通は曲がらない所まで動けるくらいに柔らかくなった。
それから徐々に鍛え上げ、今では誰もが羨むくらいの逞しい肉体に変化していった。
「その内、人間まで殺しちゃうんじゃない〜? アンタの事だし」
「!」
すると彼等が話している右側で、白髪の女性、ショコラが口を挟んだ。ライヒェは、彼女に視線を送った。
「あれれ、ショコラせんせーまでそう言っちゃいます?」
「そりゃあ〜、日頃から人様に攻撃仕掛けたり突撃してきたらそう思われても仕方がないでしょ〜。そこの堅物野郎には、別に突進して良いけれど」
ショコラは愉快愉快と笑い、片手に赤い液体が入っているグラスに口をつける。彼女の言葉に冷泉はツッコミをかました。
「おい、勝手に俺を巻き込むな」
「本当ですか! じゃあレイゼーせんせー、最近新しい技の練習してるんですけど今度オレのサンドバッグになってください!」
「なる訳ないだろう、アホか!」
「まぁまぁ良いじゃないか。これも彼のスキンシップだと思えば」
穏やかな声と共に、ピリピリしている彼の肩に誰かがそっと手を添えた。三人が振り向くとそこには、エメラルドグリーンの髪色をした優しそうな顔の青年が微笑んでいた。
「柯楓せんせー!」
「黒鳥‥‥お前」
「おー、鴉帰ってきたのか。おかえりー」
ライヒェと冷泉、ショコラに呼ばれた者、黒鳥 柯楓は3人の所に向かった。そして、苛立つ冷泉を宥める素振りをする。
「ふふ、ライヒェはライヒェなりに君と仲良くしたいだけなんだよ」
「スキンシップにしては過激すぎだ。それに、お前までアホになられると困る。ただでさえマトモな奴が少ないんだ」
「大丈夫、例え僕のあたまがポンコツになっても冷泉ならカバーできるよ。頑張って」
「‥‥やめろ、それ以上俺に仕事を増やすな」
「はぁ‥‥」 深く溜息を吐く冷泉に、柯楓が「あ、でも‥‥」と何かを思い出す。
「今年からは頼もしい新任さんも加わるんだから。何とかなるよ」
「あ〜、あの家系が祓い屋の奴だっけ。へぇ、あいつ一年の担任になったんだ」
「そうだよ、確か‥源 暁くんと言ってたかな。とても礼儀正しくて良い人だったよ。だから、大丈夫じゃない?」
「‥‥ふーん‥。その"礼儀正しさ"が一体何処まで続くかね〜」
つまらなそうな顔で、片手に持つグラスを揺らしショコラは呟く。その透明な器から見えるお世辞にも綺麗とは言えない濁った液体に冷泉は顔を顰める。
「お前、何だその悍ましい液体は」
「何って? 見れば分かるでしょ〜。血液だよ血液」
「一緒に飲む〜?」 揶揄うようにグラスを前に出す。彼女の誘いに、「いらん」と冷泉は断固否定の顔。これには、戦闘大好きなライヒェも引いていた。
「うわ‥‥、流石のオレでもショコラせんせーの血液愛好家には引いちゃいますよ」
「はははっ、お前だけには言われたくないよ」
「まぁ、しょうがないさ。ショコラがそうなのは仕方がない事だから」
「ほらぁ、こいつも言ってるでしょ?」
「くっ‥‥、黒鳥お前そのアホどもに対して甘やかし過ぎだぞ! もう少し、厳しくしてやらないと‥」
ガラガラガラガラ
堪忍袋の尾が今にもキレそうな彼の声を遮るように部屋の扉が音を立てて開かれた。そして、入り口の方から、
「失礼します! ただいま戻りました!」
「失礼致します」
2人の声が聞こえてきた。
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