十三夜 ハプニング発生(?) 3
やがて、結羅くんが戻り皆の視線が一気に彼に集中した。
「んで、どーだったスか?」
襖の前で立つ彼を見て、紺太郎くんがそう質問する。周りも結羅くんの様子を伺いつつじっと見つめた。
「出口がない」
「は?」
出口がない?
驚きが欠かせない中、皆が騒ぐのに構わず絲目くんは口を開く。
「そのまんまの意味だ。何処を行ってもこの部屋に辿り着く。無限ループしてるかもな。空間自体が歪んでいるんだ」
「それに異様な空気を感じる‥。此処に長居するのはあまり良くないかもな」 更に結羅くんは驚きもせずに淡々と述べながら腕も組んだ。そして、俺達の所に向かいゆっくりと腰掛けた。
「それって、つまり‥」
「あぁ。怪異絡みだな」
「え?! 怪異?!」
美留町さんと結羅くんの会話で、"怪異"という興味深い言葉が出てき俺は思わず声を上げた。あまりの大きな声だったため、美留町さんや結羅くんが目を見開いて俺を凝視してくる。
「椛‥‥」
隣で鈴の呆れたような声が聞こえてくる。隣を見れば、幸気ちゃんも引いた様な顔をしていた。
「あ、ごめんごめん‥‥。怪異とか都市伝説とかそう言う摩訶不思議な事に目がなくて‥‥つい」
「‥‥へぇ。人間はそう言うような馬鹿げた話は信じないし気味悪がってしねぇのに、珍しいじゃん」
「あはは‥」と笑う俺に対し、結羅くんは面白そうに呟く。
「取り敢えず、怪異の元凶を見つけ出して捌くしかねぇな。あとは‥‥、おい美留町。ちょっといいか」
「何ですか?」
結羅くんに呼ばれ、不思議そうな顔をする美留町さんは再び彼と話し始めた。ブツブツと話す声は聞こえないが、きっとここから出るための作戦を考えているのだろう。
それにしても、祓い屋と妖怪が話し合っているのって何だか新鮮だなぁ。今まで読んできた話は、妖怪と祓い屋がお互いに敵対心を持ち戦争するのが殆ど。
昔の世界はそうだったみたいだけれど、今は昔よりも大分マシになってきたもんなぁ。やっぱり、お互いに争はず妖怪と人間、仲良くなるのが1番!! うんうん!
「にしても、めっちゃ真っ暗っスね〜。吸い込まれそう‥‥」
「ほぇ〜。マジでどーなってんの?」
美留町さん達が話している間、俺達は外の様子をじっと観察していた。ただ闇が広がる空間に、影京くんが不思議そうに身を乗り出した。
「やべぇな‥‥これ」
「ちょ、ちょっと影京くん! そんなに外に出たら危ないっスよ」
「へーきへーき! ちょっとぐらい何とかなるだろ〜」
「大丈夫大丈夫〜」と言い聞かせる彼に、「絶対何かあるから危ないって!」と紺太郎くんは心配そうな顔をした。襖から身を乗り出す影京くんを見て鈴は顔を顰めた。
「うわ、もう全く何やってるの。こんな状況でよく元気でいられるね」
「わぁ‥‥、それにしても本当に凄い闇だね。禍々しくて逆に綺麗かも」
俺がそう言えば鈴は若干引き気味な顔をした。
な、何か変な事言ったかな‥?
(あ、言う相手間違えた、椛こう言う雰囲気の所好きなんだった)
「げぇ、お前正気? 流石の妖怪でも引くレベルだよ? 頭のネジ外れてるんじゃないの?」
「あはは〜よく言われる。それ程でも〜」
「褒めてない!」
幸気ちゃんの毒舌を浴びても気にしないで、俺は影京くん達の方を見つめた。やはり、闇のその奥には何もない。けれど不気味さよりとても美しいという思いが芽生えてきた。光輝くという言葉を知らない純粋無垢な闇にもなってくる。
成る程‥、先生も言っていた通り暗闇が綺麗だと思えるのがよく分かる。
そう思いながら、暫く見続けていると先程の黒い"ナニカ"がうようよ蠢くのを再び目にした。
「!」
驚いた俺は目を擦るが、その"ナニカ"はずっとぐにゃりとあちこちを曲がらせて浮遊していた。やっぱり気の所為じゃなかった。
俺は、そう言う得体の知れないものは見るのも好きだ。触りたいくらい。
けれど、アレはダメだ。
触ったり捕まったりしたら、取り返しがつかなくなる。
"あれは、危険だ"そう脳から繋がる神経全体が震わせながら警告していた。
「す、鈴‥、あそこ何か見えない‥?」
「? あそこ‥? 何も無いけれど‥」
嘘‥、見えない‥? な、何で?
「‥‥椛? 顔が青いよ? 大丈夫‥? やっぱりオカルト好きでも体は悲鳴上がってるんだから無茶しちゃダメだよ」
「そ、そうなのかも‥、ごめん」
取り敢えず鈴には謝ったけれど俺は納得いかなかった。いや、そんなわけ無い。だってアレは俺の見間違いじゃないもん。
「それにしても凄えな」
「‥‥!! 影京くん‥!」
俺がグルグルと思考を巡らせている内に、なんと影京くんは部屋から出て闇の中を見回していた。部屋の襖との距離は底まで無かったが俺は顔を青ざめた。
「‥椛やっぱり酷い顔してる、心配だ‥。俺ね護身用でお札持ってきたんだ。これ椛にあげる」
「やはり、そう言う耐性がついてないのですね。無理は禁物ですよ、春夏冬くん」
「‥‥」
「椛?」
ずっと呆然としている俺に対して、鈴達は不思議な顔をする。けれどその様子でさえ俺は気づく事はない。俺はずっと、影京くんの方を見続けていたから。
やばいやばい‥‥。
「影京くん! それ以上行ったらだめだ!」
「? 何だー春夏冬、そんなに怖い顔して。あ、もしかしてビビってる? やっぱり、オカルト好きでも本物の怪異は腰が抜けるか」
「違う! そんなんじゃ無くて‥」
口籠る俺に構わず、彼はその先を歩もうとする。すると、彼の5m先に例のアレが現れた。
やっぱり嘘じゃなかった!!!!
「影京くん、今すぐ戻って!! お願いだから、戻れ!!」
「おい、春夏冬どうした」
俺の様子に気がついた絲目くん達が俺に声をかけた。が、それも俺は気にせず彼に声をかけ続けた。しかし、影京くんは俺の声に聞く耳を持たない、そして例のアレにも気づいてない。
そして、影京くんとの距離が大分近くなった時、黒い謎の手がそっと、そっと近づいて、影京くんを包もうとした。
あぁ‥!! まずいまずい!!
「影京くん、危ない!!」
俺は急いで駆け出し、彼の体に腕を伸ばした。
「はっ‥? って、ちょ」
闇が広がる空間に入り込む彼の筋肉がついた肩を必死で掴みとり、こちらへと引き戻した。彼は、俺よりひとまわり背丈が高く少し力を入れないといけなく、"ふんぬ!!"と声をちぎり漏らしながら腕を引き上げる。
「何して‥?! おい!!」
影京くんは、あり得ないという表情で俺を見つめすぐにまた表情を変え俺に向かって叫んだ。
「!!」
しまった、勢いよく引っ張りすぎたせいで後ろに倒れちゃうことを考えてなかった!!やばい、落ちる‥‥!!
徐々に体が後ろに引き込まれるのを、目でギュッと瞑り視界を塞いだ。その時、背中に何か添えられるような柔らかい物が触れた。影京くんが伸ばした手で、俺の後ろを支えようとしたのだ。だが、時すでに遅く彼に手で支えられた途端、2人して畳に叩きつけられた。
ダン!!っと、背中を打ち付けられ痛みが走り思わず顔を強張らせた。しかし、頭に衝撃が来ることはなく影京くんが俺の後頭部に手を支えていた。
「きゃー! 2人とも大丈夫?!」
「椛!? 椛!? 怪我してない?」
「おいお前ら、大丈夫か?!」
「いてて‥あぁ、俺は平気。けど、春夏冬お前は大丈夫か?」
「うん、さっき‥‥、影京くんの後ろに何か居たからびっくりして」
「え? まじ?!」
「うん‥」
俺が恐る恐る首を縦に振ると、「や、やべえ‥‥」と顔面蒼白になって影京くんが呟いた。
「だから言ったんスよ。危ないって‥。近づくなんて自殺行為と全く一緒じゃないっスか」
「悪い悪い、でもよぉ‥‥。何か知らねえけれどあの空間が綺麗って思ってよ、思わず手を伸ばしちまってた」
「‥‥綺麗? 貴方馬鹿通り越してポンコツなんじゃないんですか?」
「もしかして椛のがうつったんじゃない? こいつもさっき同じこと言ってたから」
「お前ら辛辣すぎだろw」
「でも、彼の後ろ見ても何も無かったわ‥‥」
「気の所為では‥?」
何で‥、何で皆に見えないの‥?
もしかしてあれは俺だけしか見えなかったの‥‥?
周りが口々に「見えない」と意見する声に俺は反面少し背筋がゾォ‥っとした。
「はぁー本当びっくりした。もぅ、2人に何もなくて良かっ‥‥‥ え」
「どうしましたか〜? 幸気ちゃん♪」
「あ‥‥あれ‥‥」
顔を青ざめるながらその方向を見つめ、幸気ちゃんは指を指し示した。俺達も便乗して指が指す方向に顔をやる。すると、そこには‥‥。
「‥‥! え‥‥」
「う、うそでしょ‥‥?」
俺達は目の前の光景に目が離さずにいた。
「最後の蝋燭の火が消えてる‥‥」
最後の誰かがそう震えながら言った頃にはもう、部屋の中もろとも闇に飲み込まれていった。
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