一夜 はじまり 2
「ちょっといいかな?」
「?はい」
俺がその人に声をかけられたのは、今日みたいなお日様が出ているの暖かい日だった。
外でいつものように怪談本を1人で読んでいると俺より背の高い青年に声をかけられた。和服を着こなして、はっきりとした目に丸眼鏡をかけていた。優しい顔をした方だと感じた。
しかし、よくよく見ると彼はとても色白の肌で痩せていた。ウエストが凄く引き締まっていると表現するよりひょろひょろで細かった。
「俺に何か用ですか?」
「あはは、そんな強ばった顔しなくて大丈夫だよ。怪しいものじゃないから」
それ言われたら余計に怪しく見えますけど。
何て失礼な言葉は飲み込んで、俺は口を開く。
「あの、貴方は‥」
「僕かい?僕は名乗れるものの立派な名前じゃないよ。だから好きに呼んで欲しいな」
「な、なんかはぐらかされた‥?じゃあ、お兄さんと呼びますね!」
「ふふふ、それで良いよ。じゃあ、君の名前は?」
「俺は春夏冬 椛です」
「椛か‥‥、素敵な名前だね」
「ありがとうございます。実は、苗字が春、夏、冬と書いて秋がないから''あきなし"と言われているんですけど、よく"はるなつふゆ"と間違われますね‥‥」
「へえ〜‥‥。あきなし‥‥春夏冬‥椛‥‥」
俺の苗字は分かりやすいようで間違われる事を今までの経験上から知っていたので、自己紹介の時に話すネタとして出している。初めて出会った人にそれを話せば、大体の人が
珍しいなどと表情を驚かせていた。
しかし今自己紹介した彼は、俺の名前を連呼していた。あまりにも不思議な行動だった。
何度も何度も俺の名前を呼んでは呼んでを繰り返していた。
「あの‥?」
「!あ、ごめんごめん。僕‥人の名前忘れやすいから覚えようと思って‥」
そう言うことか。てっきり俺の名前そんなに変だったのかと不安になった。
「椛‥か。そっか。ねえ、椛は、突然だけど怖い話は好き?」
「!!怖い話ですか?大好きです!」
「ほら、さっき読んでいた本も怪談本なんですよ〜!」と幽霊や人が恐ろしげな顔をしている表紙を見せた。
「この怪談シリーズは、家に12冊以上あってどれも傑作なんです!今読んでるのは、13巻目で、2ヶ月後に新巻が発売されるんですよ!はぁ〜、待ちきれない!!早く2ヶ月後になって欲しい!!」
「へぇ、そんなに面白いんだね。‥‥ふふ、こんなに怪談話を愛してる人に出会ったのは君が初めてだよ」
「あはは、俺都市伝説やUMAとかそう言うのに興味があるので‥」
「そう。じゃあ、話は早い。椛、オカルト大好きな君にはこれをあげよう」
そう言って男性はおもむろに何処からか本を出した。そしてその本を俺に「はい」と手渡す。一冊200ページぐらいある本屋で売っていそうな分厚い本だった。
「‥‥本?怖い話特集ですか?」
「取り敢えずページを開いてみて」
「うーん?」
不思議そうに俺は渋々本の表紙部分に手を触れた。
しかし、ページを捲れば文字一つなく真っ白なアスファルトが広がっていた。
「あれ‥‥?え?」
思わず目を凝視させながら俺は隅から隅まで懸命にページを捲り続けた。どうして?どうして、何も書かれていないの??目の前に沢山の小さな黒い文字がない事に俺が驚いていると、頭上からクスクスと笑い声が聞こえた。
「これはね、怪談を記録してくれる不思議な本なんだ。誰かが話した怪談を、本が自ら聴き取って執筆してくれるの」
それが出来るなら自分でやった方がいいんじゃないの?初めそう疑問を問えば、またクスリと笑って、
「僕は事情があって、長くこの仕事を続けられないんだ。ごめんねそれに僕は‥」
その先の言葉は何を言っていたのか、ボソボソ声で呟いてたので分からなかった。
「そうなんですか」
もしかしたら、大変な用事でもあるんだとそこで俺は理解をした。
「うん。もう、僕には時間がない。これは君にしか頼めない事なんだ」
数秒間俺のことを見つめてそう言った。
消えてしまいそうな声から、溢れ出す強い意志。
「わかった!俺やってみるよ!!」
「!!本当に‥‥?」
「うん!!俺、怖い話好きだしより一層好きなものと繋がれる何て本当に嬉しいよ!!お兄さん、俺にこんな面白いこと教えてくれてありがとう!」
「?!?!」
彼の丸メガネの奥底、そこに秘められた瞳から雫が滴る。
俺が「大丈夫ですか?!」と、手を慌てながら様子を見ていたら、
「ごめんごめん、君に出会えた事が嬉しくて」
涙を頬に染み込ませながら、ニッコリはに噛んだ。
「俺今まで色んなオカルト漁ってきたんだ!この前1人こっくりさんやろうとしたけど、友達に止められちゃった‥‥」
「‥‥それは、辞めた方がいいね‥‥でも」
でもと、言葉を詰まらせる彼に俺は不思議に首を傾げた。
「でも?」
そして、同じ言葉を繰り返せばクスッと笑ってこう言った。
「椛が居るなら僕は安心できるよ。君に頼めて本当によかった!ありがとう」
彼がそう言ってふんわりと微笑んだ途端、近くで咲いていた桜が、吹雪の用に俺に襲いかかった。風が鳴る音共に、視界に桃色の花びらが舞い散るのを見て目に入ったら大変だと、瞼をぎゅっと瞑りおさまるのをまっていた。
やがて、騒がしい音が止んだのが分かりゆっくりと閉じている瞼を開けた。
「あ、あれ‥‥?」
目を開けば、いつの間にか隣にいたあのお兄さんがそこに居なかった。まるで、最初から居なかったと思わせるかのように。
ただ、目の前にさっき彼から貰ったあの分厚い本がちょこんと膝下に乗っていた。
♫♫♫
俺がその体験談を話し終えると、鈴は興味深く「へぇ〜、世の中には本当に不思議な事もあるんだね」と声を漏らした。
「え、その人その後一体どうしたの?」
「いや、実は気がついたら居なくなってて。それでこの本を貰ったんだよね」
そう言って本を鈴に出した。
「何か、普通の本だね。表紙は無地で題名無いけど」
「うんうん、鈴もそう思うよね。でも、此処で色んな人の怪談話を聞けば何かあるかもしれない!!」
「え〜‥‥何か物凄く怪しいよそれ‥‥大丈夫なの?」
「まぁ何とかなるさ!この本面白そうだし!!よーっし、そうと決まればこの学校の生徒や先生全員に隅々までありとあらゆる怖い話を聞き出すぞー!!」
そう意気込み俺は、強く本を握りしめた。
それからウキウキ気分で、スキップと走りを繰り返しながら木造建築の中へと走り出した。
「あ!!待ってよ、椛〜!!!」
俺に置いてかれた鈴も後から急いで走り出した。
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