八.五夜 携帯電話番号 (語り終了後)
森咲さんは語り終えた後、小さな蝋燭に灯された火を吹き消した。ゆらゆら揺れていた炎は、儚く消え煙になった。
「んふふ、これで私の話は終わりです♪」
徐々にまた暗くなった空間を見て、森咲さんは再びにこやかに笑う。
「お、おぉ‥‥。何か、後味悪い話だな」
そう言って影京くんは、驚いた表情をして腕組みのポーズをする。
「その後、新島さんは一体どうなったのでしょうか‥‥。まぁ、あまり良い結末ではないのは察せますが‥」
恋仲さんの言葉に、「あぁ!それはですね〜♪‥‥ 」と森咲さんは続けて、
「私もそれについては分かりません。ですが、その噂が本当ならかれはもう‥‥」
「めっちゃ怖いじゃん!!それ!!死んでるって事でしょ?!」
「まぁまぁ幸気ちゃん♪これは、多分作り話ですし気楽にいきましょ〜♬」
「多分?!」
「はいはい気にしない〜気にしない♪」
両拳を上げガッツポーズをする森咲さんにサァ‥と真っ白な毛を更に白くさせ固まる幸気ちゃん。すると、彼女は俺へと視線を変え再び口を開いた。
「ところで椛くん♪その本は一体どうなりましたか〜?何か変化とかありました?」
あ‥‥、そうだ。忘れてた。
森咲さんの話し方がとても引き込まれるから夢中になってしまう。美留町さんもそうだったし。
向かい側で、ワクワクな顔をして森咲さんは俺の方を見ている。そして、俺は手にギュッと持っていた本の表紙を開き、ページを捲らせる。
「あ!」
「っげ、マジで言ってるの?」
「わぁ、嘘でしょ?」
その様子を俺の肩に載っている幸気ちゃん、隣に居た鈴も本に視線を向け、顔をこわばらせた。
「何か進展しましたか?」
美留町さんは、俺に問いかけた。
「うん。さっき、森咲さんが語った話がほら‥‥」
そして、そのページを皆に見えるように開いた。皆もそれにならって、蝋燭が倒れないように顔を覗かせた。
見開きページには、"2話 携帯電話番号"と先程と同じ癖字で記されていた。
「おぉ…!これ、確かに私が話したものです〜♪こんな不思議な事って、本当にあるんですね〜♪」
内容まで確認した森咲さんは、嬉しそうな顔をしてそう言った。
「これ、マジの曰く付きとかじゃないっスよね?凄すぎて、言葉が出てこない」
「ですが、妖力とか危ない気配は感じませんし持っていても安心かと」
「そうですね、恋仲さんの言う通り危険な雰囲気はありません。もしかしたら、本当に執筆してくれるだけの"生きてる本"かもしれませんね。春夏冬くん、今のところ害は何もありませんが念の為、気をつけてくださいね」
「うん、分かった」
美留町さんに釘を刺され、俺は深く首を縦に振った。
「おーっし、じゃあこの調子でどんどん行っちゃいますか!もたもたしてたらアレだし、次の話やるぞー!!」
「そうね〜。頑張っちゃいましょう〜!」
影京くんと氷見谷さんの言葉に、皆元いた位置に座り怪談会は再び始まった。
♫♫♫
それから紺太郎くん、影京くん、結羅くん…と次々に怪談を語っていった。話が終えるたびに、皆で本の確認をしては驚いたり感心したりと表情はそれぞれ。
勿論俺も、話が増えていくにつれて興奮と胸の高鳴りが止まらなくなった。
「わぁ……!! 凄いよやっぱり! 俺この本に出会えて良かった!やっぱり俺の知らないオカルトはまだまだ沢山ある!」
「そう言ってるけど、椛の番はもうすぐだよ。オカルト大好きな椛の事だからめっちゃ怖いのお見舞いされそうだけど。それに今から俺が話すから本に夢中になってないでちゃんと聞いててね?」
「うん。任せて鈴! 鈴の話もばっちり聞いてるから!! 俺も、とびっきりゾワゾワする怪談皆に聞かせるよ!」
「なら、良かった」
俺の反応を見て、安心そうな顔をしてそう言った。それから、視線を皆の方へ戻し鈴は炎が揺れ続ける蝋燭を気にしながらこう言った。
ーこれはね、数年前に女性の身に起きた話なんだけど…。
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