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#9.Conflict

彼女が感情の赴くままに生きているというのなら、僕は理性といいたいところだ。

だが、実際そんなことはなく、今僕は「連絡して」というソフィアさんの言葉を伝え忘れていたようで、どうも言い出せない雰囲気だ。


ソフィアさんは僕に「連絡してくれると確信しているよ」といった。

なら僕は、このメモに記されている場所に連絡をよこすことが礼儀なのだろう。だが


「どーしたの?サゴリン!冒険だよ!冒険」


「そうだね」


彼女があまりにズケズケと進むもんだから、引き返すことを提案出来ずにいる。

連絡をする手段は……魔法ではなく、魔法道具を駆使しなければならない…。

だから、ここじゃっ、できない……ッ。


「そのメモに書かれている場所だよね?そのフィア・ソフィアっていう人もよくサラファンより遠い場所からイアストラに行こうと思うよね」


「そうだね…」


そりゃ、そうだ。そうだ。そうなんだ。イアストラにいるはずのソフィアさんが僕らより早く家に着くはずないじゃないか。

僕らが行ったとしてもソフィアさんは家にはいない。

つまり、


~《無駄骨》~


あっ、そうだ。


「や、ヤギさん」


「ん?」


「イケメンは好き?」


「…え?どした急に?」


僕にはカラヴァーニさんがいた。


「いや、そのね」


僕がカラヴァーニさんを呼び出す紙を取り出そうと懐をまさぐった瞬間。

罪悪感が芽生えた。


『俺も今、永遠に終わらない人命救助の真っ最中だ』


実はあの時、カラヴァーニさんは人助けをしていたのだ。

その時言っていた言葉を今思い出してしまった。

悪い人ではないと思っていたが、饒舌過ぎていったい彼が何をしているのか考えていなかった。

女の人が好き好き~みたいな事も言ってたと思うけど、カラヴァーニさんは男である僕にも声をかけてくれた。

つまり……あの人は単純にいい人だった……。

ごめんなさい、カラヴァーニさん。僕はっ自分のために今現在もいいことをしているあなたを呼び出そうとしていた。


「何も無いならいくよ、サゴリン」


「あっ……うん」


ここは正直に言うしか…ない。


「ねぇ、ヤギさっ」


「異世界って楽しいねぇ~、ねぇサゴリン」


「え?」


「どこもかしこもアタシらの知らないもんで溢れててさ、最高じゃないか」


「…確かにね」


異世界でしか巡り会えないものは確かにあった。

文学作品もその類であると思う。

そして、アメリさんも……。


「でもね、それ以上に気になってることがあるの」


「ん?」


「サゴリンの妹、ほんとにアタシの夢が正しければ元の世界では知らない物じゃない……なんていうか表現出来ないものまで存在することになる。サゴリンもそういうことだったんでしょ?だから、あの時なにかがサゴリンの中で引っかかってハンケインまで飛んだんでしょ?妹になにか関係してるかもしれない!って」


「……それは」


違う……妹の事じゃなかった。

ただ、なんなんだろうか。ヤギさんの言葉は…妙に僕に突き刺さる。


もしかして僕は、何よりも…妹のために生きていた前世の自分には信じられないほど……あいつの事を忘れていたのではないか。


アメリさんのことに夢中になって、その時僕は…アイツの事を少しでも考えていたのだろうか。


「サゴリン?」


「…僕は」


僕はクズだ。


「ヤギさん、僕…クズだった」


「ちょ、なんで泣いてるの?!廃ビルの屋上じゃないんだぞここは」


「僕は…僕は……」


「なんだ、どうしたの。ほらお姉ちゃんに頭撫でて欲しいのか?」


「違う……そんなもの僕には相応しくない……頭を撫でられるに値しない。僕は…」


あの時、アメリさんの膝枕を堪能していた時も……いや、なんなら……これまで生きていた時も、僕は妹の事をほとんど考えていなかった。


ただ、自分勝手に自分のことだけ考え、片時も傍から離してはいけないはずの人間を忘れていた。


妹の話題が出た時だけ、ただその時だけしか…僕は彼女のことに本気になっていなかった。

この旅の目的はなんだったのだ、僕は妹探しだったはずだ。

なのに今はどうだ、アメリさんじゃないか!

アメリさんとは何だ?家族か?親縁か?恋人か?いやそのどれでもない。


「おいおい、顔が思い詰めすぎだよ。サゴリン、ファンタジーなら闇堕ちしちまうぜ」


「……」


「こればかりはアタシに話したくないことか?もしかして、うんち漏らした?」


「違うよ…旅の理由がわからないんだ、僕は何を目的としているのか」


「なにって、あんたは妹じゃないの?」


「違う、僕にとって妹はどうでもよかったんだよ。ただその時の感情でしか無かったんだ。僕には…」


「ん、なに?あんたやっと正常になったの?」


「え?」


「今までさ、サゴリンの心を荒ませないような敢えて言わなかったけどさ、それが正常ってんだよ実際」


「……これが正常?ヤギさんはそんなに…僕みたいな冷ややかな人だったの?」


「ちげーよ、勘違いすんな。大切な人が死んだら誰だって異常になるもんだ。それを乗り越えて正常に戻ってくんだろ?あんたの人生はこの世界で9年かけてやっとであんたの物に戻ってっただけってこと」


「……」


「故人を思い出せないくらい、楽しかったってことなの。前世に生きてたサゴリンには分からなかったか」


ヤギさんは笑った。


「僕は楽しかった?」


「そ、ここにはあんたを虐待する人間もいないし、なによりアタシという超絶美少女がいる。楽しかったから思い出せなかっただけで、それは死者を蔑ろにしている事にはならない。むしろ、あんたの妹があんたの幸福を願っているのなら…喜ばしいことじゃないの?」


楽しかった…確かに…僕はこの世界が楽しい。



「そんな楽しいあんたにひとつ朗報。この世界にはもしかしたら妹がいるのかも知れない!ってなったらサゴリンがやることはひとつよね」


「…探すってこと?」


「ノンノン、正しくは人生を楽しみながら探す。それ以外に楽しいことがあってもいいじゃない。サゴリン、あんたエンジョイが足りんよ?」


「……そうだね、僕は」


「ほぉら!行くぞ!!世界があたしらを待ってるし妹もサゴリンを待ってる……ハズ!さっさとフィア・ソフィアの場所まで一直進だ!」


「うん!」


そうだ。僕はアメリさんも妹も……そのどちらも僕の目的でいいんだ。

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