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#22.極限マゾヒスト

【クロリア国立闘技場】


《さ、さぁ!!先程の試合は一瞬で終わってしまいましたがッッッ今度ばかりはそうはいかないでしょう!!二試合目はッッッ》


東と西に、それぞれ両者が構える。


《西に見えるのはッ!!トレビーノ派を率いる淡然たるカリスマ イアン・トレビーノ!!

東に見えるのはッ!!同じくリエン派を指揮する貪欲なる小公女サンチュ・リエン!!》


熱く火花を散らす、2試合目はそれぞれの派閥のリーダー対決である。

以下、控え室での会話だ。


「どっちが勝つと思う?ミス・ヤギ」


「アタシ、サンチュちゃんのことよく知らないしなぁ。わかんない」


「ミス・サンチュはイアンの幼なじみさ。アイツも複雑な思いを抱えてるだろうな」


「へぇ、で そんいうあんたは誰なのよ?」


「ジェズアルドは飽くなき探求者さ……まぁ、ミス・サンチュやイアンからすれば俺も幼なじみという訳だけどね」


「何歳?」


「俺とイアンは今年で33だ。それで彼女は丁度30。ハハッ、笑っていられる歳ではないな!」


「おっさんじゃないの」


「お兄さんだ、まぁ見てな。サンチュは恐ろしいレディだ」


「恐ろしい?」


そして、舞台に戻る。


「こんにちは、イアン。調子はどう?」


「最悪な気分だ。なぜ俺は生い立ちから今に至るまでこうも哀れな男なのか」


「苦労人なのは尚も健在なのね。そう、ジェズアルドが帰ってきたらしいけど」


「……ツギハギをつけてな、アイツらしい。何があったのかは聞かないでおく」


「あらかた検討はついてるのでしょ?」


「ついてない、だが思いつく可能性ではイアストラの爆発に巻き込まれたのだろう。不死身の男だ、心配してはいなかったがな」


「嘘つかなくていいわよ、気が気でなかった様子ってのは噂で聞いているわ」


「それは噂だ、部下たちの妄言に過ぎん」


「変わらないのね」


「変わるさ、気づいてないだけだ」


《両者見合って!!》


「手加減してくれる?」


「俺は平等主義者だ」


《始めっ!!》


ふたりが一斉に距離をとった。


「もちろん対策はしてきたのだろう?」


「してないわ」


「なぜ?」


「それじゃ面白くないもの」


「そうか」


サンチュは拳のバンテージを外した。


「なんのつもりだ」


「もっと痛みを感じたいの、お互い本気で行きましょ」


「ならぺちゃくちゃ喋るなッ」


5,6メートルも離れた距離から彼は飛び上がる。

そのまま、なんの手加減も加えることなくサンチュと距離を詰め、近距離の肉弾戦に持ち込んだ。


かなり離れた観客席にまで響くその拳と拳がぶつかり合う音は徐々に闘技場のボルテージをあげていく。


「……ッいやなとこを狙ってくるわね」


「お前もよく耐える」


その距離で殴り合えば、圧倒的にガタイの良いトレビーノに部があった。

客から見ても一目瞭然、このリーダー対決はトレビーノが制す……それは戦う前から決まっていたかのような


「あぁっ!!」


遂にトレビーノの一撃がサンチュにクリーンヒットした。

その衝撃でサンチュは1m先まで吹き飛ばされる。


「3人戦……お前が負ければこの選抜試合はトレビーノ派の勝利だ。悪いことは言わない、降参しろ」


「する訳ない」


彼女の鼻からつーっと鼻血が流れている。

それをワイルドに袖で拭い、ニッと笑った。


「楽しいねぇ、イアン!」


「……始まったか」


それまでの冷静な顔はどこに消えたのか、サンチュは感情の赴くままに野獣と化した。


「極限までのマゾヒズム、お前の悪い所はそれを人に与えようとするところだ」


「え?ダメなの?それ」


「そりゃ…」


「私が気持ちいなら、皆も…そうだよッ」


彼女は思いっきり踏み込んで、不意をつきトレビーノの懐に入った。


「うッ!」


強いアッパーカットがトレビーノに直撃。

もちろん人の固い顎を生身の手が思いっきり殴った訳だから彼女の手もタダでは終わらない。


「いい……感覚」


それでも彼女には、その感覚が快感を促進する材料でしかない。


「まだ!!」


アッパーをくらいフラフラとしているトレビーノに追い打ちをかける。


腹、肋、上腕、腿、脛、男としての急所、体の痛いところを全て。

それは確実に殺りに来るではなく、ジワジワと嬲っていくような……オーディエンスは全員ドン引きだ。


「……ハァハァ」


「どう?」


一度、彼女のペースに入ってしまえば、あとはもう…蟻地獄のように抜け出すことは出来ない。

実際、トレビーノの体はいま悲鳴をあげている。

全ての箇所は計算されたように完全に破壊されてはいない、が心まで蝕まれているのだ。


「勝たなくては……俺は…」


「イアン、もっと楽しみたいの?」


「……」


怖くて仕方がない、彼女だって常にこのような感じではない。

普段は感情に抑えが効いている、が…これが試合である、そして相手はトレビーノであるという相乗効果が性癖をくすぐりドーパミンをどんどん湧かせているのだ。


「あはっ、でもイアンは私にしてくれないね。それじゃ、つまんない」


殴られたいという意思、これからトレビーノがどう行動しても彼女が折れることは無いのだろう。

そう、殺しが有効でない場面に限りサンチュは最強。

死の瀬戸際を楽しみたい彼女にとって、死以外の痛みはもはやガソリンでしかない。


「……降参だ」


「イアン・トレビーノ降参!!勝負あり!!」


《勝負あり~~ッッ!!またもや降参!!一試合目に続き波乱万丈な展開!!これでイアン派、トレビーノ派ともに一対一!!次の試合で勝負を決することが出来るのか?!》


「まけちゃったじゃん、ムッシュ トレビーノ」


「これはしょうがない。むしろ、ここでイアンが出ていったことに敬意を示そう。アイツはいつも苦労人だからなぁ。俺が行かなくてよかった」


「まぁ、可哀想だったね。んでさ、なんでムッシュ トレビーノはアタシを初戦で出したんだろう」


「相手の手も見えないし、偶然だと思うぜ。見事だったよミス・ヤギ」


「まぁね〜」


「次の試合、俺が勝ったら夜…」


「いかない、とりあえずガンバ」


「もちろん、イアンには優しい言葉をかけておくれよ」


「おう」


ジェズアルドは軽快な足取りで舞台へ向かった。

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