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ケフィアシリーズ

女神の加護? いいえ、ケフィアです。

作者: 渡里あずま

 ネット小説などで、主人公が白い空間で目覚めたら美形やお爺さんな神様に土下座されているのを読んだことがある。大体が神様のミスで死に、異世界転生されるのだ。

 ……しかし、美女の土下座はあまり読んだことがない。それとも、男性向けのハーレム作品だとこのパターンもあるのだろうか?


「申し訳ありません……予想通り、私のミスと言うか……力不足で、あなたは死にました」


 心を読まれてのレスポンスも、ネット小説通りだ。けれど間違えてはいけないこともあるので、ゆいは口を開いた。


「あれは、事故です。あなたのせいでは、ありません……むしろ、生き残った方が大変だったと思いますし」


 唯は双子の妹と揉めて、学校の階段から落ちた。今、ここにいるということはあのまま死んだのだろう。

 その揉めた原因は、双子の妹に彼氏を奪われたからである。放課後、委員会の後に教室へ迎えに行ったところで、妹とのキスシーンを目撃したのだ。

 元々、唯は双子の妹であるあいに色々と奪い取られていた。

 両親からの愛情に、服や玩具。友人――は、双子とは言え二卵性で、アイドル並みに可愛い妹に比べて唯は地味で不愛想だ。だから、仕方ないと思っていたのだが。

 ……彼とは高校進学後、告白されて付き合ったのだが、やはり可愛い子の方が良かったのだろう。


「お幸せに」


 だからそう言って教室を後にすると、階段のところで追いかけてきた妹に腕を掴まれた。驚いて振り返ると、何故だか怒鳴りつけられた。


「何なのよ、いい子ぶって……悔しいでしょう? 泣いたり喚いたりすれば、いいじゃないっ」

「……え」

「そうやって、余裕ぶってるの本当にムカつく!」


 そう言って、掴まれていた腕を苛立ったように振り払われ――結果、階段から落ちた。事故ではあるが、状況だけ見るとかなりの修羅場だと思う。

 しかし何故、神様から力不足という言葉が出るのだろうか? 不思議に思っていると、金髪美女が顔を上げて、申し訳なさそうに説明してくれた。


「実は……私は、別の世界の神なのですが。あなたの魂が、あまりにも綺麗で……幸せな一生を過ごせるように加護を与えたら、この世界の神に搾取されてしまい……結果、あなたを不憫な目に」

「……はぁ……まあ、最低限の衣食住は保証されていたので」


 流石に驚いたが元々、人の一生は神様に左右されるものだと思う。そこまで考えて、唯は美女――女神に、思いついたことを口にした。


「そのお詫びに、異世界転生?」

「はい、あなたの知識にあるような、剣と魔法の世界です」

「……あの、その世界に家畜の乳を飲む文化と、酵母パンはありますか?」

「え? ええ」

「お願いです! チートとかはいいですから、どうかパン屋の娘に転生させて下さいっ」

「…………えっ?」

「山羊の皮袋に乳を入れて、パンの酵母と接触させれば、ケフィア粒が出来るんです! そのケフィア粒を使えばケフィアもですけど、パンにお酒も出来ます! それこそ昔の日本では、チーズに似た蘇を奉納する儀式があったそうなので……私も、異世界で女神様に奉納します! だから、どうかっ」


 ケフィアは市販のケフィア粒を牛乳に入れて、常温で固めることで作れる。それを毎日食べていたので、魂が綺麗かどうかは解らないが、少なくとも腸は綺麗だと思う。

 話が逸れたが、調べているうちに唯は世界の発酵乳や昔の儀式について知った。現代では逆に難しいが、中世ヨーロッパ風の異世界なら出来そうだと思ったのである。


「約束しましょう。奉納の儀、楽しみにしていますね……二度目の人生に、幸いあれ」


 そんな唯に、女神は笑って約束してくれた。途端に眠くなり、瞼を閉じて――次に目覚めた時は、想像していた通りの中世ヨーロッパ風な異世界に転生していた。

 パン屋の娘ではなく、パンも焼く料理人のいる貴族令嬢に転生したのは予想外だった。しかし奉納の儀のことを考えると、平民よりは貴族の方が良いかもしれない。そう思い直して、五歳となった唯――オリヴィアは、小首を傾げるように料理人を見上げ、牛乳の入った皮袋を差し出してお願いした。


「あのね? この袋を一晩、厨房の壁にかけて貰いたの」


 こうして翌日、袋の中には白い、カリフラワーに似たケフィア粒が出来あがり。

 ……後に彼女は『女神の加護』で人々を癒し満たすと、評判となる。

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