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六柱 願い


「枯葉さん、今日は私に付き合ってくれてありがとうございました」


霊華は購入した本の袋をブラブラとさせながら俺に頭を下げる。周囲の人間が霊華の

姿を見ることが出来ない状態で彼女が物を持つと、ポルターガイスト現象が起きるので

きっと今の霊華は周りの人間からも見ることが出来るようになっているのだろう。

これで恥ずかしがらずにコイツと話が出来る。


「お前ってそんなに本好きだったか?」


この幽霊が本に興味を持ち始めたのはかなり最近だ。それまでは本の

『ほ』の字も言い出さなかったのに。


「うーん。最近、無性に本が読みたくなるときが有るんですよね。

 何故なんでしょう」


霊華は首を傾げる。


「ま、お前が本に夢中になってくれると俺は嬉しいけどな」


「何故に?」


「お前の注意が本に逸れてる間、俺はお前の過度なスキンシップから解放されるだろ?」


抱きつかれることも、キスをせがまれることも無い。最高じゃないか。


「あ、へー......」


「何だよその微妙な相槌は」


「いや、貴方のことを心から愛している私にそういうことを言うんだー、と

 思って。そうですかそうですか。私の愛情表現は迷惑ですか。あ、へー」


霊華の目から光が消える。


「愛が重い。質量惑星かよ。後、悪いが突然抱き付かれるのとか普通に迷惑」


「ヤンデレ化してる私に辛辣だね!? もう少し動揺して!?」


「よお真白」


「あ、うん。枯葉おひさ」


ナチュラルに現れたなコイツ。


「霊華に隠れるんじゃなかったのか? 今は逆にアイツが隠れてるんだけど」


「嫌ですね枯葉さん、私はこの通りちゃんと居ますよ」


霊華はペロッと舌を出して笑う。あざとい。


「物真似だったのかよ」


「うーん。どだろ。少なくとも二重人格とかではないよ。私が霊華さんの

 中に存在するんじゃなくて、私と霊華さんが同化してる感じ? 今の私の

 言葉は霊華さんが意識的に頭の中で考えて言ってるものなんだけどただの

 物真似とは少し違う気がする」


霊華は真白に酷く似た口調でそんなことを言う。霊華には幸せになって貰わなければ

いけないと言っていた真白だが、彼女はあのとき単純に霊華の幸せを祈っていたの

ではなく、霊華と同化した自分の幸せを祈っていたのかもしれない。勿論、霊華の

幸せも願っていただろうが真白はアレで結構ちゃっかりしているので有り得ない

話ではない。


「じゃあ、やっぱり久し振り......ってことで良いのか?」


「良いんじゃないですか? あ、でも勘違いしないで下さいよ。恐らく私を

 構成する要素の90%以上は霊華由来のものなので!」


「急に口調を戻すな」


「でも、最近私の持っている真白さんの記憶が鮮明になってきてる気がするんですよね。

 さっきの真白さん風の口調も真白さんの記憶みたいなのを使ってやったんですよ。

 だから、結構似てたでしょ? イメージとしては上京して15年くらいの人が記憶を

 呼び起こして久し振りに故郷の方言を使う感覚に近いかもです」


分かりにくそうで、ちょっと分かりやすい例えやめろ。


「さっき、真白の母親に何か言ってたのは?」


「あれに関しては私もよく分かりません。何かポロッと出ちゃいました。

 上京して15年の人がポロッと方言を出してしまう感覚ですね」


何でも上京して15年の人に例えるな。後、その微妙な15という数字は何処から来た。


「でも、お前は真白の母親のことは知らなかったんだよな?」


「はい。でも、枯葉さんに教えて貰ったら何と無くですけど納得しました。

 あの人は確かに私......じゃなくて真白さんのお母さんです」


「成る程。なんか面倒臭いが、今のお前は片足だけ真白の記憶の海に

 浸かってるみたいな状況なんだろうな」


俺は溜め息を吐きながら呟いた。真白、お前の願いはこれで叶ったのか?

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