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四柱 彼女が残した言葉


「......ぐっ」


俺は風呂から出ると、そのまま自室に直行してベッドに横たわった。顔を枕に

(うず)めて悶える。酷い目に有った。


「あ、枯葉さん恥ずかしがってる」


そんな俺の姿を見つけて部屋に入ってきた霊華がそんなことを言う。


「......汚された。初めてだったのに」


「誤解を招くような言い方止めてくれません!? 仕方ないから背中の

 流し合いで許してあげたじゃないですか!」


「はずかしかった。れいか、せきにんとって」


「え、何ですか? もしかして恥ずかしすぎて幼児退行しちゃいました?」


酷く眠く、あまりに恥ずかしい思いをしたせいで理性がかなり鈍っていた

俺はそんなことを言いながら動揺する霊華に抱き付いた。


「れいか、俺眠い。一緒に寝て」


抱き付かれた霊華はバランスを崩して後ろに倒れる。しかし、後ろは俺のベッド

だったので霊華は全く痛そうにしない。


「か、枯葉さん強引......」


ああ......駄目だ。思考が途切れてきた。霊華の声もよく聞き取れない。


「zzz」


「って、寝てる!?」


「スー......ハー」


「いや、寝息可愛いなオイ。......このまま唇を奪うのも一興。いや、やっぱり

 ファーストキスは枯葉さんの意識が有るときが良いですね。私は眠らなくても

 大丈夫だし、そもそも寝れませんが今夜は一緒に居てあげますよ」



頬が何やらくすぐったい。霊華が触っているのだろう。


「何触ってんだよ」


「あ、起きちゃいました? 私、枯葉さんの可愛い頬っぺたを堪能中なので

 二度寝してくれません? あ、それとも私の頬っぺた触ります?」


「寝ないし、触らない」


「おはようのハグは?」


「いやだから......ちょっ!?」


霊華は俺の返事を待たずに、起きたばかりの俺をギュッと抱き締めてきた。この下り

何回目だよ。あ、でも起きて間もないうちのハグはヤバイ。心の準備が全く出来て

いないのに霊華の可愛さと霊華の良い匂いが俺に襲い掛かってくる。


「私、枯葉さんの彼女ですから。枯葉さんが寂しいときも嬉しいときも

 普通のときも抱き締めてあげます」


「それを人間は常時、と言うんだぞ」


「枯葉さんは常時抱き締められるのはウザいですか?」


「ウザいけど、お前のウザいところは好き」


「何この人かわい。心臓ドクドク言わせてるし......私とハグなんて何時もやってる

 じゃないですか。何を今更ドキドキしてるんですか。このヘタレムッツリ」


誰がヘタレムッツリだ。


「そりゃ、突然抱き付かれて驚かない奴はいないだろ」


「枯葉さんは驚いた、というよりは興奮してるからドキドキさせてるんじゃないですか?」


「取り敢えず黙れ」


「年頃だから仕方がないですよね。ほら、ムラっときたなら早めに......」


「俺を無理やりヘタレムッツリに仕立てあげようとするの止めろ!」


ヘタレは認めるが、断じてムッツリではない。多分。


「ほら、夏休みが終わって今日から学校が始まるんですよね? 早く行かないと

 間に合いませんよ。枯葉さん、用意遅いなあ」


「お前のせいだろうがっ!」



「『きっと私を見付けてね』か......」


「何だ? その言葉」


夏休みが終わってから最初の登校をすると、如何にもリアルが充実していそうな

活力のみなぎっている声で彼が話し掛けてきた。


「月島か」


「おう。久し振りだな神納木」


自棄に機嫌が良く、髪が何時も以上に整っているのは念願の彼女とやらを

手に入れたからだろうか。まあ、興味はないが。


「久し振り」


「今日は霊華さん、来てないのか? それとも俺に見えていないだけ?」


「いや、アイツは『霊華さんはダルいので一人で行ってきてください』とか

 言ってたから連れてこなかった」


「いや、声真似上手いな。両声類かよ」


月島が苦笑しながら頭を掻いた。


「さっきの神納木、自棄に悩ましい顔をしてたからさ。気になったんだ。

 本当にさっきの言葉は何だったんだ?」


「知ってどうする?」


「どうするかは知ってから決める」


月島は何時にも増して難しい顔をした。その表情を見て、俺は少しの間押し黙り

そして口を開いた。


「......真白の話はしただろ?」


「ああ。あの夏祭りの日に居なくなったんだってな」


「本人曰く、居なくなるんじゃなくて隠れただけらしいけどな。それで真白が

 最後に残した言葉が......」


『きっと私を見付けてね』、あの言葉にはどういった思いが込められていたのだろうか。

俺には分からない。そしてきっと、今も彼女は見つけられていない。


「......成る程」


「お前はどういう意味だと思う?」


「そうだなあ。少なくとも真白さんという人間をこの広い世界から見つけ出せとか言う

 無理ゲーではない筈だろ。だとしたら霊華さんの中から真白さんを見付けろ、って

 いうのが正解なんじゃないか?」


『真白さんは霊華さんという影に隠れただけなんだろ?』と月島は後付けする。


「やっぱりそうなるよな」


「ああ。真白さんの最後のお願いだ。聞いてやれよ」


「......当たり前だ」


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