三柱 幽霊さんとの入浴
ホントはこーゆー日常系を一生書いてたい。
俺は今、入浴剤を溶かした風呂の中にいる。本来であればリラックス
出来る筈の風呂なのだが、今日は違う。
「あの、枯葉さん......何で顔より下、お湯に沈めてるんですか?」
体にバスタオルを巻いて隠すところを隠した霊華が聞いてくる。
長髪を括って団子にしている彼女はとても可愛い。
「だって裸見られたくないし」
「ええ~」
水着を着て入浴するつもりだった俺だが、何処を探しても水着は見当たらなかった。
体に巻ける大きなバスタオルは霊華の分しかないので仕方なく裸で入ることにしたの
だが、やはり霊華に裸を見られるのは恥ずかしい。
「だから霊華に裸を見られないように入浴剤で水を濁らせて、顔以外を水に
沈めてるんだよ」
「恥ずかしがることないじゃないですか~! せめて上半身だけでも見せてくださいよ。
あ、枯葉さんの胸を見るなら私も見せなきゃですね」
「お前の胸には見せるものなんて無いだろ」
俺はそう言ってバスタオルが巻かれている霊華の胸に視線を送る。見事にペタンコだ。
「枯葉さん......」
霊華は眉間にシワを寄せ、青筋を立てながら俺に近付くとお湯の中に
沈んでいた俺の上半身を手で捕らえてそのまま抱き締めた。
「ちょ、霊華!」
「私の胸を馬鹿にした罰です。逆上せるまでこのままですよ」
「やーめーろー!」
俺は霊華の拘束から逃れるためにバチャバチャと湯を飛ばしながら暴れた。しかし
霊華の力は予想以上に強く、拘束から逃れるどころか逆に足を腰に回されて先程より
強く拘束されてしまう。
「ふふん。枯葉さん如きが私の力に敵う筈がないんですよーだ」
霊華は勝ち誇ったように俺を嘲り笑う。
「ぐぬぬ......」
「枯葉さん、どうですか? 意外と有るでしょ?」
霊華は俺の胸に自分の胸をくっ付けてきた。
「そりゃバスタオルでかさまししてるからな。実際は絶壁だろ」
「へえ、この期に及んでまだそんなこと言うんだ~。私が本気になれば
枯葉さんみたいなヒョロヒョロ、何時でも襲えるんですよ?」
霊華は妖艶で挑発的な笑みを浮かべる。畜生、可愛いな。
「襲うな」
「でも私の『彼氏攻略ガイド』には、枯葉さんみたいな根暗毒舌性悪男を攻略するなら
変に駆け引きをするより強引に攻める方が効果有るって書いてましたし......」
根暗毒舌性悪男とかピンポイント過ぎるだろ。
「そんな胡散臭い本さっさと捨てちまえ。後、俺は根暗でも性悪でもない」
毒舌は認める。
「嫌です。実際に枯葉さんは引くよりも押す方が効果有りますし。あ、今夜にでも
枯葉さんのベッドに忍び込んで襲ってあげましょうか?」
「そんな初めては嫌だ」
ホント、何なのコイツ。
「つまり襲わなければOKってことですね。分かりました」
「拡大解釈するな」
「ぬうう......本当にヘタレなんですから。あ、背中流しましょうか?」
「遠慮しとく。ほら、お前はさっさと体洗って出ろ。俺はその後洗うから」
俺がそう言うと霊華が文句ありげに頬を膨らませる。
「私達、付き合ってるんですよ? 背中くらい流させてくれたって良いじゃないですか!
もっとイチャラブな生活がしたいです!」
「普通高校生のカップルは付き合ってても同棲したり一緒に入浴したりしないからな?
俺達は十分、カップルらしい生活をしてる。これ以上何を求めるって言うんだ」
「何を求めるって......結婚?」
何故に疑問形。
「アホか。後、残念ながらお前は戸籍が無いから結婚出来ないと思うぞ」
「え~、私達家族になれないんですか~!」
霊華がショックを受けたように騒ぐ。霊華が俺のことを好きなのは知っていたが
家族になりたいとまで想っていてくれたとは......少し嬉しい。
「まあ、なんだ。籍を入れることだけが家族になる方法ではないだろ」
俺は顔が熱くなるのを感じながら、霊華から目を逸らす。
「……じゃあ、枯葉さんは私と添い遂げてくれるんですか?」
その時、俺を拘束している霊華の力が弱くなった。彼女は何処か不安そうな
表情を浮かべていて、その瞳は潤んでいる。
「俺は浮気もしないし、お前と別れることもないだろうから結果的にはそうなるな」
「良いんですか?」
「何がだよ」
「私多分、赤ちゃん産めませんよ? 幽霊ですから」
霊華は震えた声でそう言うと、俺の拘束を完全に解いた。
「でも、告白してきたのお前だろ?」
「だ、だって交際するのと家族になるのはまた別じゃないですか。付き合うだけなら
直ぐに別れられるし......」
「じゃあなんだ。お前は俺といずれ別れるつもりで俺に告白したのか?」
突然、弱気になり始めた霊華に問い掛ける。
「ち、違いますよ! 私は枯葉さんが大好きですし、別れたくないです。でも赤ちゃんが
産めないのは致命的だって最近気付いたんですよ......」
「俺は元から気付いてたけどな」
「え......?」
「いや、だって普通にそうだろ。死人が生者を産み出せたら怖いし」
今更何を言い出すんだ、と言うかのように俺は呆れ顔をする。
「枯葉さん」
「それでも俺はお前が好き。はい、結論出た。この話終わり」
というか、そもそも俺は子供が其処まで好きではない。そんな俺にとって霊華が
子供を産めるか産めないか、なんてことは些細なことなのだ。
「......ああもう、枯葉さんはズルイです! 普段は絶対に好きだなんて言わないのに
シリアスな時だけ急に優しくなって、甘い言葉を囁くとかズル過ぎます!」
「いや、そんなこと言われましても」
「あー! 顔赤らめて顔逸らした! 可愛いからそういうの止めてください!」
「うるせえ」
まあ、何はともあれ霊華が調子を戻してくれたようで何よりだ。
「ハア......ハア......もう我慢出来ません! 襲います!」
前言撤回。コイツはしおらしいときの方が可愛い。
「やめろ! このビッチが!」
「ビッチじゃありません、私は枯葉さん一筋です! ほら捕まえた! 暴れないで
くれたらたっぷり可愛がってあげますからね。ハアハア......」
「ちょ、待って。やめて。発情した貧乳幽霊にイタズラされるっ! 助けて真白!」
「私の前で他の女の名前を出すとか勇気有りますね。枯葉さん」
霊華の不機嫌な声が聞こえる。あ、やべ。
「私のことしか考えられないようにしてあげますよ!」
「ギャアアアアアアアアアッ!」
風呂場に俺の叫び声が響いた。
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