二柱 あのゲーム
「枯葉さん、ポッ○ーゲームをしましょう」
「断る」
突然、意味の分からないことを言い出した霊華に俺はきっぱりと言う。
「ポッ○ーの用意はしてありますよ?」
霊華はそう言うと、軽やかに空中を浮遊してキッチンまで行きお菓子の箱を取ってきた。
成る程。確かに棒状のあの菓子だ。それもイチゴ味の。
「ふふん。枯葉さんの好みは知っていますからね。チョコよりイチゴの方が
枯葉さんは好きでしょう? ほら、早くやりますよ」
霊華は袋から棒状の菓子を取り出すと、イチゴクリームの掛かった方をくわえて
俺には何も掛かっていないプレッツェルの部分を突き出してきた。
「お前がイチゴの方食うのかよ」
「唇のところまで到達したら口渡ししてあげます」
「要らない」
俺は雛鳥か何かか。
「もう、取り敢えずやりますよ。えいっ」
霊華は俺を押し倒すと床に座り込んでしまった俺の足の上に乗り、無理矢理
俺の口に棒状の菓子を突っ込もうとしてきた。
「ちょ、やめ、ああああああああ!?」
最近は全然されないので霊華も自重を覚えてくれたのだろう、と高を括っていたのだが
どうやらそれは間違っていたらしい。霊華は俺に金縛りを掛け身動き一つ取れない俺に
強制的に菓子をくわえさせた。
「ふふふふふ。強引にやるのも悪くないですね。ちょっとSに目覚めてしまいそうです」
「ふぐっむぐむぐぐぐぐ!」
と言うか一体コイツは何処から声を出しているんだ。菓子をくわえたままなのに
一言一句正確に聞こえるぞ。
「枯葉さんが食べないなら私がかじっていきますよ~」
霊華はハムスターのように菓子をかじり、着実に俺の唇との距離を縮めてくる。このまま
キスをされてしまうのも悪くない気がするが俺にもプライドというものがある。一応抵抗
させてもらおう。俺はどうにか口を動かして菓子をかじり、そのままそれを真っ二つに
折ってしまった。
「プハアッ! はい、俺が折ってしまったからゲームは俺の負けだな。さっさと
金縛りを解いてくれ」
「ちぇっ。枯葉さん、今のチャンスだったんですよ?」
「何のだよ」
「考えてみて下さい。さっきの枯葉さんは金縛りをされていたので私に無理矢理キスを
されていても仕方がなかったんです。ヘタレの枯葉さんは私とキスをしたい気持ちは
有るけど、自発的にする勇気が無いんですよね? それじゃ私に襲われた体にして
おけば良かったじゃないですか」
コイツは何を言ってるんだ。
「お前はどれだけ自分に自信があるんだよ」
「だって枯葉さん、私のこと大好きですよね? 昨日だって私が添い寝してあげたら
満更でもなさそうだったじゃないですか。あ、そうだ。今日からはお風呂も一緒に
入りましょう」
霊華はナチュラルに凄いことを言う。霊華と一緒に風呂......悪くない気もするが
恥ずかしい。やっぱり無理だ。
「え、普通に嫌だけど」
「即答ですか!?」
霊華は目を見開いて予想外だとばかりに言う。
「当たり前だ」
「あ、私に裸を見せるのが恥ずかしいなら最初のうちは水着を着ても良いですよ?」
「入らないし、水着は着ない。というか、それで俺に何のメリットが有るんだ」
本音を言うと、霊華と一緒に風呂なんてメリットしかないのだがやはり恥ずかしい。
霊華にヘタレ呼ばわりされるのも無理もない気がしてきた。
「そりゃ勿論、私の裸を見れることですよ」
「馬鹿。全裸で入るつもりだったのかよ」
俺はそう言うと、近くに漂ってきていた人魂をティッシュの箱で叩いた。 すると霊華は突然身をよじらせて、顔を紅くする。
「ひゃううっ。枯葉しゃんっ、其処私の性感帯!」
「え何この人魂、お前の体とブルートゥースかなんかで繋がってんの? 初耳なんだけど」
人魂と本体が繋がってるとか一体、どういう仕組みなんだ。
「知りましぇんよおっ! だから、人魂をくすぐるのは止め......ひゃあっ!? あっ、あっ、らめえええ! ブルトゥスお前もかあっ!」
ブルトゥス何もしてねえよ。
「変な声出すな」
「アンタのせいですからねっ!? ぶち犯しますよっ!?」
ぶち犯すとか言うパワーワードやめろ。そして、犯すのは規則に反したことだよな?
きっと唐揚げに勝手にレモン掛けるとかだよな? そうだよな?
「言葉使いが汚いぞ。もうちょっと清楚キャラを目指せ」
「え、霊華めっちゃ清楚じゃないですか」
「お前は今まで俺に吐きかけてきた言葉とやって来た行動を今一度振り返った方が良い」
「私は過去を振り返らない幽霊なので」
「貧乳が過去になることはなさそ......」
衝撃。強い衝撃。とても強い衝撃。それが俺の体に突如襲い掛かった。
「何か言いましたか?」
俺はいまだかつて、胸をイジられたときの霊華の笑顔以上に怖いものを見たことがない。
「レイカノ胸ノサイズハ非常ニオレ好ミダトイイマシタ」
「ふふん。当然です」
霊華が『ドヤア』という腹の立つ笑みを浮かべたとき、軽快な音楽が我が家に
鳴り響いた。
『お風呂が沸きました』
「あ、沸いちゃいましたよ! ほら、枯葉さん行きましょっ!」
「いやだから行かないって。さき入ってこいよ」
俺は手で霊華を払うようにして言う。
「お団子」
すると、霊華が突然そんな単語を発した。
「は?」
「私って、長髪じゃないですか~。だから、お風呂のときは髪が湯船に浸から
ないようにしないといけないんですよね~」
「お前まさか......!?」
「そのまさかです。私と一緒にお風呂に入れば私のお風呂ヘアーを見ることが
出来ますよ。枯葉さん、見たことないですよね?」
「卑怯だぞ......」
霊華のお団子ヘアー、みたいに決まっているじゃないか。
「幽霊なんてな、卑怯でなんぼですやで」
「関西人一年目みたいな関西弁やめろ。関西人舐めんなよ」
「枯葉さんの謎の関西魂はなんなんですか......。それに枯葉さんが実際に関西弁を
話してるところ、私一度も見たことないですよ」
「うるせえ。これでも一応、関西人なんだよ」
遠くまで遊びに行くときは梅田かなんばに行くし。肉まん好きだし。
......関西人と言うか、大阪人だな。
「はいはい。エセ関西人の枯葉さん、お風呂入りますよ。私もバスタオルで
隠すところは隠してあげますから」
「エセ関西人言うな。生まれも育ちも関西だわ。......まあ、そういうことなら一緒に
入っても良いけど」
「はい、言質頂きました。それじゃあ、入りますよっ!」
コイツがこんなにイキイキしてるところ、初めて見たかもしれない。
はい、後日談二話目です! 評価とブクマ、感想、レビュー、お待ちしてますっ!