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二十位 夏祭り


見ているだけで吐き気を催す人混みと、途方もない数の出店。辺りにはモラルが

寝ているとしか思えない量のポイ捨てによるゴミが散乱しており、夏の夜空の

下にはある種の地獄が生まれていた。


「7月下旬の割に蒸し暑くないのがせめてもの救いか......」


俺はうちわで顔を扇ぎながら、溜め息を吐いた。


「す、凄い......」


生前の真白はその病弱な体のせいで夏祭りに行くことは出来なかったのだろう。

真白は始めて見る夏祭りの騒々しさや、大きさに驚いているようだった。


「花火までかなり時間が有るな......」


俺はスマホのロック画面を見ながらそう呟いた。今が大体6時で花火が

始まるのが7時半。一時間半の間、暇をもて余すことになりそうだ。


「それなら出店で時間を潰そうよ。リンゴ飴、食べてみたいな」


「了解。でもリンゴ飴はかさ張るから後な。他の出店を回ろうぜ」


「じゃあ、金魚すくいやりたい!」


「残念ながらウチにはブクブクは(おろ)か水槽もない。

 よって、金魚すくいは却下だ」


それに俺は生き物を飼ったことが無いので色々と不安だ。


「ええ~? じゃあ、スーパーボールすくいで」


「絶対に何かをすくいたいんだな......」


と、言うことで早速俺達はスーパーボールすくいの店に移動した。


「わあっ、ポイだ。本物のポイだ!」


「ポイを見ただけでそこまで喜べるのすげえな」


「だって、夏祭りと言ったらポイでしょ? 私、初めて見たから嬉しくて......」


真白はそう言いながら、せわしなく水の中を流れるスーパーボールに狙いを定めて一気に

ポイですくいあげた。四つほどのスーパーボールをすくいあげてもポイは破けず、真白は

次々とスーパーボールをすくいあげていき、彼女の持っている皿がスーパーボールで

いっぱいになったとき、まるで役目を終えたと言うかのようにやっとポイは破れた。


「滅茶苦茶取ったな」


スーパーボールがパンパンに詰まった袋を満足そうに持つ真白に

俺は笑いながら言った。


「ふふ。凄いでしょ」


霊華もUFOキャッチャーでチートみたいなテクニックを披露していたが

アレは真白の才能だったようだ。


「暑いし、次はかき氷でも食いに行くか」


「やった。食べよ、食べよ。私、コーラね」


「俺は抹茶が良い」



そんなこんなで出店を満喫した俺達は最後にリンゴ飴を購入して花火を

見るために移動をしていた。


「お、其処に居るのはもしかして神納木と紅葉谷さんか!?」


すると、聞き覚えのある声が何処からか聞こえてきた。


「月島......?」


「お、やっぱり神納木だ。二人で夏祭りデートか~?」


ニヤつきながら俺達に近付いてくる月島。その体には黒い浴衣を纏っていた。


「え、えっと......何処かで会ったことありましたか?」


浴衣を着こなしたイケメン様に真白はオドオドと疑問を投げ掛けた。


「はあ? この前、一緒に映画観に行っただろ。神納木とイチャイチャしすぎて

 俺のこと忘れちまったのか?」


「え、映画? 私、観てないですけど......それに、私と枯葉はそういう

 関係じゃありません」


真白はうつむきながら答える。


「......紅葉谷さん、神納木の呼び方、呼び捨てに変えたのか? 

 前はさん付けだったよな?」


「一度も枯葉のことをさん付けで呼んだことはありませんけど......。

 本当に貴方、誰なんですか?」


話が全然噛み合わない二人を見ながら、俺がどうしたものかと

首を横に振ると、月島が俺に詰め寄ってきた。


「神納木、説明してくれるんだよな?」


「いや、まあ......うん。いずれお前にも話すつもりだったし。

 分かった。説明するよ」


7時半まで、まだ少し時間がある。花火が始まるまでに月島に事の顛末を

話すくらいは出来るだろう、そう思い俺は月島に全てを話した。


「成る程......あの日、俺と神納木達が別れた後に霊華さんに異変が起こって

 次の日になると霊華さんが真白さんに変わっていたと」


「な、なんだ。月島さんは霊華さんの知り合いだったんだ。月島さんが私を

 名字で呼ぶから私のことを知ってるのかと思ってビックリしちゃった」


真白はバツが悪そうに苦笑する。


「いや、真白さんのことは元から知ってたんだけどな。色々あって、真白さんの

 お墓を見る機会があったんだよ。そのときに神納木から真白さんのことを聞いた」

 

「てかお前、こんな馬鹿げた話を簡単に信じて良いのか?」


もし俺が月島の立場なら、くだらない話だと一蹴する筈だ。


「驚いたり、疑うのは霊華さんのときに散々したって。金縛りを使える幽霊が

 存在する世界なんだ。死人が幽霊になっても可笑しくないだろ?」


「まあ......確かにそうだな」


俺はコクコクと頷く。


「兎に角真白さん、アンタのお陰で神納木は立派......かどうかは甚だ疑問だが

 きちんと高校生になれたんだ。コイツの友達として礼を言わせてくれ」


疑問に思うな。


「え、私枯葉に何もしてないけど......?」


「アンタがそう思ってるだけで神納木からすると、真白さんは恩人みたいだぜ?

 神納木、滅茶苦茶熱心に真白さんのことを話してくれたからな」


月島はそう言ってイケメンスマイルを『ニカッ』と見せた。


「そうだったの?」


「......さあな」


「もう少しで花火が始まる。俺、友達と来てるんだ。そろそろ合流しないと」


畜生、友達自慢か。


「分かった。俺達は事前に調べておいた花火スポットに移動する。

 付いてくるなよ?」


「分かってるって。どうせ、ネットの情報だろ? ネットに載ってる

 花火スポットの情報ほど宛にならないモノはないぞ」


「ああそう......まあ、取り敢えず行くだけ行ってみるよ。待たな、月島」


俺はそう言うと、軽く手を振った。


「おう、待たな神納木と真白さん! それと......」


「ん?」


「霊華さんを取り戻すために、また今度三人で話し合いしような!

 霊華さんは俺の友達でもあるんだから!」


月島は笑顔で俺達にそう言い残すと、大きく手を振って人混みに溶けていった。

......外側だけでなく、内側までイケメンなんて俺に勝ち目ないじゃないか。

俺はそう思いながらも笑っていた。

今回も『うらめし生活』を読んで頂き、本当にありがとうございます。

つきましては私のモシベーションの向上のため、この下にある星を塗り潰し、ブックマークを登録し、出来れば感想とレビューも頂きたいのです(強欲) どうぞ、宜しくお願いします(;_;)

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