十八位 早朝にて
明日、もう一話投稿します!
俺が何時ものように目覚めてリビングに向かうと、何やら真剣な表情で
真白が机に向かっていた。その手には鉛筆が握られている。
「おはよう。真白」
「......うう」
俺が挨拶をしても真白は反応せず、難しい顔をしながら唸るだけだった。
相当集中しているようだ。
「何を書いているんだ?」
俺はそっと、真白の背後に回り込むとそう聞きながら机の紙を覗いた。
どうやら、ただの紙ではなく原稿用紙のようだ。
「ふぇっ......? か、枯葉!?」
「俺とお前以外に誰がこの家に居るって言うんだよ。追加の幽霊はもう要らんぞ」
「た、確かに言われてみればそうかも」
真白はそう言いながら原稿用紙を自分の手で隠した。
「おい、何で隠すんだ」
紙が原稿用紙だったということ以外、まだ何も見れていないのだが。
「だって、枯葉に書いてること読まれなくないし」
真白は口を尖らせながら原稿用紙を裏返す。そのせいで完全に原稿用紙に
書かれた字を読むことが出来なくなってしまった。かなり人に見られるのが
恥ずかしいものだったらしく、真白は顔を赤らめている。
「ま、別に何でも良いけど。朝食は食ったのか? 食ってないなら適当に作るけど」
毎日、料理を作ってくれていた霊華がいなくなって約1ヶ月の時が経った今、俺は
料理が作れるようになっていた。といっても別に凝った物を作れるようになった訳では
ないのだが。真白が居るのでコンビニ弁当や惣菜で済ます訳にもいかないし、体に
悪いものばかりを食べていると、霊華が帰ってきたときに怒られそうなので自分で
作れるようになるしかないと思ったのだ。
「あ、お願い。私も手伝おっか?」
「いや、いいよ。所詮、朝食だし。手伝ってもらうほどのものでもない。
目玉焼きとトーストで良いよな?」
「うん。ありがと。枯葉の目玉焼き、滅茶苦茶美味しいよね」
「卵割って焼くだけの料理だけどな」
俺は苦笑しながら、熱したフライパンに油を引いて卵を割り入れた。数分程度で
作れる料理なのだが意外と真白からは好評で、定期的に作ってくれと言われている。
目玉焼きなんて誰が作っても同じような物だと思うのだが......。
「ほい、出来たぞ。真白は塩派だよな」
俺は白い平皿に卵とトーストを乗せ、トマトを添えたものを二皿
真白の待つテーブルへと運んだ。
「枯葉、今日から夏休みだっけ?」
「ああ。夏休みは母さんがボーナスをくれるんだ。どっか行くか?」
「え、何それデートの誘い?」
見透かしたような笑みで俺をからかう真白。その姿には何故か既視感を感じた。
「行かないんだな?」
「いや、行く! 枯葉も最近、勉強のせいで大変だったんだから夏休みくらい
どっか遊びに行こうよ。今の私は幽霊だから、昔と違って思いっきり遊べるし」
「幽霊生活を満喫してるな......行きたいところとかあるか?」
折角、真白が退屈な病室のベッドから解放されたのだ。彼女の意見を尊重したい。
「うーん。そうだな......夏祭りとか行ってみたいかも」
この辺りに夏祭りなんてあっただろうか。一度も行ったことがないので分からない。
「分かった。近くでやってないか、ネットで調べてみる」
「......ありがとう」
真白は確かに嬉しそうだった。優しい笑顔を浮かべていた。
しかし、何故か真白からは筆舌に尽くしがたい悲壮感が漂っていた。