表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/34

十四位 月島湊と紅葉谷霊華


霊華とムードも糞もない告白合戦をして交際を始めた日から、一月程の

時が経った。あれからも俺達の関係は変わっていない。仮にも交際関係を

築いているのだから交際以前と全く変わっていないのは激しく間違っている

気がするが。まあ、そんなもんだ。


『ど、どうでしょうか.......』


そして俺は今、晴天が広がる昼下がりに霊華の作ってくれた弁当を食べていた。

場所は学校。勉学に励む清く正しい生徒達が集まる場所に死装束を着た金縛り系

少女がいるのはどう考えても可笑しい。なので霊華には俺以外の人間から

観測されないようにしてもらっている。


「......普通だな」


『うわー、酷い』


俺が今食べたのは唐揚げだったのだが、味は本当にそこそこという

感じだった。別段、不味い訳でも無いが、感動するほど旨い訳でも無い。


「でも、全く料理が出来なかった頃と比べたら凄く上達してると思うぞ。

 普通に旨いし」


『あのー、私って枯葉さんの彼女ですよね? 彼女の手料理なら

 お世辞でも感激するものだと思うんですが......』


霊華は頬を膨らませながら不服申し立てをした。


「いや、違うな。恋人同士という親密な関係になったからこそ素直な感想を

 伝えるんだ。お世辞を言ってばかりじゃ成長には繋がらないだろ?」


『枯葉さん、付き合う前から私の料理酷評してましたけどね!』


「酷評言うな。俺はお前の料理と真摯に向き合って、正しい評価をしただけだ。

 それにお前は俺の彼女でもあり、俺の家の居候でもあるんだ。俺がお前を養う

 対価としてお前は料理という労働をしている。労働の質にまで世辞を言ったら

 駄目だろ?」


『チッ。結局、彼女になって得られたのは狭い狭い自室だけですか。

 本当は枯葉さんを骨抜きにしてニート生活を満喫するつもりだったんですが』


霊華は不貞腐れたように、舌打ちをした。何だコイツ。


「舌打ちやめろ。.......ま、わざわざ作ってくれてありがとな」


『いえ、どういたしまして。おねだりしてくれたら『あーん』してあげても

 良いですよ? どうします?』


霊華は妖艶な表情を浮かべながら、俺の耳元でそう囁いた。


「遠慮しとく」


『......まあ、冷めきったつまらない男の枯葉さんはそう言いますよね。

 多分、一生結婚出来ないですよ』


霊華は呆れたように溜め息を吐きながらそう言った。何故俺は『あーん』を

断っただけでこんなに罵倒されなければならないのだろうか。


『もう良いです。勝手に食べさせます。ほら、枯葉さん、口を開けて下さい』


霊華はそう言うと、俺の箸を奪い、唐揚げをつまみ上げて俺の口に

押し込んできた。


「む、むぐっ.......や、止めろ! 俺以外に観測出来ないお前が箸を持ったら

 周りからはポルターガイストに見えるんだぞ!」


『え~でも、人が殆ど来ないから此処に来たんでしょう? 大丈夫ですって』


霊華の言っていることは本当だった。何故なら俺達が弁当を食べている此処は体育館の

裏側だからだ。始業式や終業式など、学校中の生徒が集まるときに混雑しないよう

体育館の裏側に扉が有るのだが、俺達はその扉の前の階段に座っていた。


「いやまあ、そうなんだが.......」


俺の予感は良く当たるのだ。それも嫌な予感程。誰かが此処に来るような

そんな予感が今、俺の頭に過った。


「神納木! やっと見つけたぞ。この前、一緒に弁当食べる約束してただろ?

 ......って、ええ!?」


ほら、来た。終わった。閉店ガラガラ、俺の人生グチャグチャ。


「.......よ、月島。どうかしたか?」


「どうもこうも.......は!? 唐揚げと箸が宙に浮いてる!? お、おま

 お前超能力者だったのか!?」


違う。


「成る程。捻くれたことばかり言って、人を遠ざけて、ファッションにも

 ロクに手を出さず、教室の背景みたいに振る舞ってたのは自分の超能力が

 暴走して、人に迷惑を掛けないためだったのか......」


だから違う。


「好き放題言いやがって......霊華、ぶん殴れ」


『ええ!? 私ですか!?」


「それ以外に誰が居るんだよ。ほら、守護霊。ご主人様を侮辱する

 輩を吹っ飛ばしてくれ」


霊華の存在を月島に隠すことを諦めた俺はペラペラと月島の前で

会話をし始めた。その光景を見る月島の目はかなり冷たい。


「お前......超能力者だということを誰にも明かさず、一人で生きてきた

 ストレスで幻覚を見てるのか。うう、可哀想に」


「もう良い。霊華、これ以上月島が訳の分からない妄想をする前に

 姿を見せてやってくれ」


俺は額に手を当てながら呆れたように言う。


「えと.......どうも。紅葉谷霊華です」


俺には分からないが、恐らく月島に霊華が見えるようになったのだろう。

霊華がペコリと挨拶をすると、月島は目を見開いて度肝を抜いた。


「ゆ、幽霊.......?」


白昼堂々現れた霊華を月島が直ぐに幽霊だと気付けたのはその身に纏う死装束と

頭に巻く天冠のお陰だろう。やはり、服やアクセサリーはキャラ付けに

必須なのだと言うことが再確認させられる。


「あ、はい。幽霊です、そうです......はい」


「滅茶苦茶、キョドってんじゃねえか」


母さんにもそうだったがコイツ......もしや俺以外の人間と

会話するの苦手なんじゃないだろうか。


「うっ、煩いですね.......枯葉さんと会うまで人と話したことが

 無かったんだから仕方がないじゃないですか」


「ちょ、ちょ、ちょっと待て! 勝手に話を進めんな! 俺にも

 分かるように話せ!」


月島は頭を振りながら荒ぶったように言った。といっても、一から説明するのは

面倒臭そうだ。


「じゃあ、簡潔に説明するぞ? コイツは幽霊で、俺と今同居してる。出会ったのは

 月島がこの前、守護霊の話をしてきた日の夜。ついでに俺の彼女。はい、説明終了。

 分かったか?」


「何一つ分からん」


「だろうな」


たったこれだけの情報で全てを察することが出来る奴は恐らく天才か変態だ。


「というか、サラッと交際宣言してくれたな。おめでとう」


俺なら絶対にリア充爆発しろ、と言っている筈の場面で月島は素直に

俺達を祝った。なんか負けた気がする。


「月島......湊さんですよね。その、今まで姿を消していましたがずっと

 枯葉さんの横で見ていました。こんな枯れた葉っぱと友達でいてくれて

 ありがとうございます」


『こんな』ってなんだよ。『こんな』って。


「い、いや俺が好きでやってることだから......ん? というか、紅葉谷って」


「実際の真白を知らないお前にも気付かれたか。コイツは生前の記憶を失った

 真白の幽霊なんだ。記憶が無いから別人だけどな」


「......そうだったのか。俺はよく分からないが、大切にしろよ」


月島は何時にも増して、真剣な表情でそう言ってきた。


「言われなくても分かってる。これからはお前にも霊華が見えるように

 するつもりだから霊華とも宜しくな」


「おう。一応、聞いとくけど口外は?」


「頼むから止めてくれ」


今のご時世、幽霊が本当にいる! なんて噂が広まったらどうなるか想像に難くない。

悪質なツイ●タラーなんかに目を付けられて盗撮なんかをされる可能性もある。

プライバシーだけは霊華のためにも守りたい。


「了解」


「月島さん、私が幽霊だっていう事実を凄くすんなり受け入れましたね」


『枯葉さんは最初、滅茶苦茶驚いてたのに』と言うかのような視線を俺に

向けながら霊華はそう言った。


「まあそりゃ、急に目の前に現れたり、空中に浮かんだりしてるのを見せられたら

 信じるしかないって。それにしても、枯葉が彼女と同棲ねえ......人生ってのは

 本当に分からないもんだな」


「それに関しては激しく同意する」


「よかったじゃないですか。枯葉さん。多分、枯葉さんのこれからの

 人生で私以外に貴方に惚れる人居ませんよ?」


なんか、凄い失礼なことを言われている気がする。


「あ、そうだ。お前ら映画のチケットが三枚有るんだけど一緒に行かねえか?

 俺って枯葉と違って交遊関係が広いから、数多居る友達の中で一体誰を

 二人選んだら良いか分からなくて困ってたんだよ」


「一々、ムカつく奴だな」


「満喫型ボッチなんだから別に良いだろ。それに交遊関係が広いってのも大変だぞ?

 例えば、俺が適当に友達を二人、映画に誘うと同じくらい親しい友達から

 『何故、自分を誘わなかったんだ』って文句を言われるんだ。その点、枯葉が

 誘う相手は紅葉谷さんだけだろ? そういう束縛の無い生活は憧れるぜ」

 

まさに俺が無理してまで友達を作りたくない、と考える理由がそれだ。友達関係が上手く

いかなくて悩んだり、逆に上手く友達関係を築くために上手く空気を読んだり、気配りを

したり、何故そんなくだらないことにカロリーを使わなくてはならないのか。

大きな疑問である。


「なら、いっそ自分の考えを吐露して友達を間引けば良いんじゃ無いか?

 自分の本音を吐露して去っていった友達はその程度の友達ってことだし」


俺がそう提案すると、月島は苦い顔をしながら首を横に振った。


「そういう訳にもいかないんだよ。実際はな」


「ああそう......」


まあ、価値観を押し付けるつもりはないし大勢の友達を持っているその道の

プロが意味ありげに首を振るのだ。きっと、色々有るのだろう。


「で、結局、映画行くか?」


こればかりは俺の独断では決められないと思い、霊華の方に目をやると

視線に気付いた霊華はコクリと頷き、口を開いた。


「枯葉さんと月島さんさえ、良ければ私は是非とも行ってみたいです!

 映画なんて見たことないですし」


「霊華が行きたいなら、俺も行く」


そんな俺達二人の様子を見て、月島はクスリと笑みを溢す。


「早速、枯葉は彼女の言いなりになってるな。よし、分かった。

 映画の上映は次の土曜日だ。絶対、来いよ。あ、枯葉L●NE交換しようぜ」


「やる相手がいないから、やってないし、やりたくない。電話番号だけ

 教えとくからやり取りはそれで良いだろ」


メッセージに既読が付くなんて恐ろしいツール、俺が使う訳がない。


「其処で手軽にやり取り出来るメールを代替案に出さない辺り、筋金入りだな」


「L●NE感覚でメールを送られたら困るからな。満喫型ボッチ舐めんな」

 

「ウチの社交性ゼロの葉っぱがすいません......」


「お前は俺の母親か! 後、葉っぱって言うな!」


そんなこんなで月島に霊華のことがバレてしまったものの、危惧していた

トラブルの発生は無かったため胸を撫で下ろした俺だった。

第八のコジカ様より感想を頂きましたっ!!!

ありがとうございます!!!


ほんっとうに励みになります!!!!!

まだしていない方はどうぞ、後書きの下の星を塗り潰してやって下さい!

ついでにブクマもしてください! あ、感想とレビューも! (多い)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ