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十三位 恥と流血はよく似ている

新型コロナウイルスが流行っております。不要不急の外出は自粛しましょう。


「......は?」


「いや、流石に其処まで露骨な反応されるとちょっと傷つくんですけど」


「当たり前だろ」


付き合わないか、霊華は確かにそう言った。誰だって突然何の脈絡もなく

そんなことを言われれば驚くだろう。


「枯葉さんって、好きな人とかいませんよね? 知ってました」


「いや、俺答えてないし。まあ、いないけど」


「じゃあこの際、付き合っちゃいましょう」


「何故そうなる」


俺が謎の結論にツッコミを入れると霊華は笑った。


「枯葉さん、私のこと嫌いですか?」


その質問はどう考えても俺の答えを知った上での物だった。確かに腹の立つことも

多い、霊華だが嫌いだと思ったことは一度もない。寧ろ、この数日間での同居生活で

たまに垣間見える優しさには好感さえ抱いていた。


「......嫌いではないが。逆に聞くぞ。お前、真白の記憶のせいで俺のことを気になって

 しまうのは不本意だ、みたいなこと言ってたじゃねえか。俺と交際するっていうのは

 真白の記憶に従うってことだぞ?」


そう、あくまで霊華が俺に好意的な感情を示したり、行動を取ってくるのは真白の記憶に

よるものなのだ。霊華自身が俺を好きな訳ではない。この前の間接キスだって霊華本人は

嫌だったんじゃないだろうか。


「違います」


「何が違うんだよ。自分で言うのもアレだが、恐らく真白は俺のことが好きだった。

 それが幽霊であるお前にも影響しているって話だろ? それは紅葉谷霊華の

 感情じゃなくて、紅葉谷真白の感情だ」


強く言うつもりはなかったのだが、無意識の内に俺は低い声で霊華を

怒鳴り付けてしまっていた。


「何の証拠が有るんですか」


「じゃあ、お前が俺を好きな理由を言ってみろよ」


霊華が俺に抱いている恋愛感情が真白の記憶によるものだとしたら真白の

エピソード記憶が欠如している霊華にはその感情の理由を説明出来ない筈だ。

すると、霊華は顔を真っ赤にして俺を睨み付けた。


「好きの理由を聞かせろって......かなり枯葉さん性格悪いですね。分かりました。

 滅茶苦茶恥ずかしいですけど、それでこの気持ちが私のものだと言う証明になるのなら

 説明してあげますよ」


......何かがおかしい。俺の考えなら、霊華が口籠ったりする筈だったのだが。


「まず、幽霊になって長い間さ迷っていた私を最初こそ拒んだものの最終的には

 同居させてくれたことです。これは本当に感謝しています。そして、私の悩みなんかも

 寄り添うように枯葉さんは聞いてくれました。幽霊の私には不必要なご飯なんかも

 わざわざ用意してくれて......人を驚かせることでエネルギーが補充出来なくなった

 ときも色々と考えてくれましたし、好きになる要素なんて山ほど有りますよ」


「......え、あの」


「そりゃ、最初から好きだった訳じゃないですよ? 全然、タイプじゃなかったですし。

 その頃枯葉さんのことを気になったのは枯葉さんが言う通り、真白さんの記憶に影響

 されてたんだと思います。そのときは貴方を気になる理由も分かりませんでしたから。

 でも、今は違います。私は貴方を好きな理由を説明することが出来ましたから」


理路整然とそんなことを語る霊華に俺はただただ圧倒されていた。

最早、俺に何かを言う資格は無い。


「......そか。すまん。怒鳴ったりして。霊華は霊華だもんな」


俺は素直に深々と頭を下げた。


「ふふっ。寛大な私は許してあげます。それで枯葉さんは私のことどう

 思ってるんですか? 聞かせて下さいよ。私だけこんな恥ずかしいことを

 言うなんて不公平ですよね?」


「......それは」


どうにか押さえようにも俺の眉は勝手にピクピクと動き、目は小魚のように

泳ぎまくった。それもこれも霊華が食い入るように質問をしてきたせいだ。

 

「まあ、別に私は枯葉さんに好かれるようなことしてないからそれが普通の反応

 ですよね。これ以上、枯葉さんを困らせてもアレですしこの話はこの辺で.......」


そんな風に顔を紅くしながら苦笑する霊華の手を俺はぎゅっと握った。しかし、どうやら

霊体化中だったらしく俺の手は霊華の手を透けてしまい、結果として空気を握ることに

なってしまう。


「そこは空気読んで実体化しとけよっ!」


俺は恥ずかしさから、そんな風に霊華を怒鳴り付けた。


「知りませんよ! 理不尽過ぎます!」


「いやいやいやいや、お前のせいで俺滅茶苦茶恥ずかしかったからな!?

 どうしてくれるつもり!?」


「だから、知りませんって! 枯葉さん、今、滅茶苦茶ダサかったですよ!」


ああ、言っちゃったよ。もう、枯葉のメンタルはズタボロだよ。

いっそのこと、俺で焼き芋でも焼いてくれ。


「兎に角! その、だな......お前のこと、好きじゃないこともない」


俺はそっと霊華から目を逸らしてそう言った。


「......ん? それって、つまり」


「いやでもだな? 俺達ってまだ出会ってから一週間くらいだろ?

 それで交際はちょっと早すぎる気が......」


俺がそう言うと、霊華は俺の肩をポンポンと人魂で叩いてきた。熱くはなく

モチモチとした感触の人魂だ。一体なんなんだと思い、彼女の方を見ると霊華は

これ以上無いくらいに顔を紅くしていた。


「......っ」


どうやら、この人魂は霊華が意図して動かしているモノではなく霊華が

感情を昂らせ過ぎたせいで表れたもののようだ。


「えと、霊華?」


「な、何で? 何で枯葉さんが私のことを好きなんですか?

 もしかして、真白さんと同じ容姿だから......」


俺が恐る恐る聞いた質問に、焦ったような声色で聞き返す霊華。

何と無く不安を煽るようなトーンの声だった。


「真白は関係ない」


「じゃ、じゃあ何で......」


「退屈でしかなかった俺の生活は、お前が来てから随分楽しくなった。

 それでだと思う。といっても、俺自身よく分かってないんだが......」


母さんが来ただけで、まさかこんなことになるとは互いに思っていなかっただろう。

しかし、人というものはよく出来ているらしく実際にこんな状況になると恥ずかしい

と言う感覚や感情が麻痺してしまうのだ。血が出るような怪我をしたときに

ジーンとするだけで痛みはあまり感じないのと似ている。


「......枯葉さん、私はね? 多分、私達が付き合ったところで何も変わらないと

 思うんですよ。だってもう、初期段階から同棲という交際の最終ステージに

 いるわけですし」


「まあ......確かに」


よくよく考えれば、コイツとしてきた生活は少なくとも俺の考える交際と全く

変わらない。一緒にデートに行き、服を買ってやり、ご飯を作ってもらい朝は霊華に

乗られながら目を覚ます......ちょい待て。俺、気づかない内にこんなラブコメみたいな

生活してたのか!?


「だから、もう実質私達付き合ってるような物ですよね。相思相愛みたいですし」


「その表現やめて。お願いだから」


霊華の口からそんな言葉を聞くと、急に自分が告白したのだという事実が現実味を

帯び始めた。


「だからこの際、流れで付き合っちゃいましょう。別に交際してもしなくても

 結果的に交際とは相違ないんですから。それに私はきちんとこの同居関係に

 名前が欲しいんです」


「名前?」


「......はい! 湿っぽいのは此処で終わりにしますね? まあ、見も蓋も無いこと

 言っちゃいますが私って只で枯葉さんちに泊まってるじゃないですか。なんかそれって

 私、枯葉さんに悪い気がするんですよね。でも、私が枯葉さんの彼女になって

 同棲してることにすれば可笑しくないじゃないですか」

 

無茶苦茶な理屈だ。


「つまり、俺に遠慮することなくこの家で生活したいから家主である俺の

 恋人という肩書きが欲しいと?」


「そういうことです! 彼女になったら枯葉さんにも強気に出れますからね!

 ついでに私の部屋も要求します! あ、枯葉さんがパソコン用に使ってる

 部屋で良いですよ?」


「清々しいな、オイ」


まあ、霊華にも個人の部屋が必要だと考えていたところなので別に良いのだが。

それにしても、図々しい奴だ。後、彼女になれば権限があがるっていう前提が

まずおかしい。


「ということで、私の恋人になって頂けますか? 枯葉さん」


「......はあ。さっきまで恥ずかしがってたのが馬鹿みたいだわ。

 結局、何も変わらないんじゃねえか。分かった、宜しくな」


俺は大きなため息を吐いて、握手を求めた。


「ええ、勿論です。宜しくお願いしますね。ふふん」


幽霊は得意そうにあまりない胸を張ると、そう言って笑った。仮にも一応、互いの

気持ちを伝えあったのだ。多少、生活に影響があるかもしれない。それが良い方に

転ぶか悪い方に転ぶかは分からないが......。


「って......!? れいかあっ! お、おま何でこのタイミングに

 金縛りをしたっ!? と、解け!」


「え~? 枯葉さんがなんか元気なさそうでしたから。励まそうと思って」


「元気ないやつにはもっと優しくしろ!」


......やっぱり互いに恥をかいただけで、何も変わりそうにないな。


ども、蛇猫です! Twitterでは翼蛇猫ですっ! 要するにキメラですっ!


皆さんが思っている以上に評価やブクマ、感想、レビューは私のモチベーションの増加

ひいては小説の質の向上に繋がるので是非とも宜しくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 金縛り系彼女、爆誕のエピソードでした。 二人が名実共に彼氏彼女になって良かった良かった。 可愛ければ幽霊だっていいじゃない。 [気になる点] ここから二人の関係はどうなっていくのか? イ…
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