十二位 紅葉谷霊華
日曜日の午前中、夜更かしをした者はまだ寝ているであろう時刻に俺と幽霊は二人
正座をさせられていた。気まずい、非常に気まずい。そりゃそうだ。幽霊に乗られて
二人でじゃれているところを実の母に見られたのだから。
「えっと......枯葉?」
「ひゃ、ひゃい!」
「このお嬢さんは誰? 何だか見覚えがある......というか真白さんに
そっくりだけど」
やはり母さんにも分かってしまったか。髪の色が違うので真白とあまり
会ったことのない母さんには分からないだろうと踏んでいたのだが。
「えっと、幽霊はその、なんと言うか真白の親戚なんだ」
双子と言った方が信憑性は高かったかもしれないが母さんが真白の母親に
連絡を取れば直ぐに嘘とバレると思うので親戚くらいが丁度良いだろう。
「幽霊?」
......って、しまった。つい、何時もの癖で幽霊と呼んでしまった。
ヤバい、マジでヤバい。何と言い訳をしようか。
「あ、お母様、その幽霊と言うのはですね......」
「えっとその、霊だ? 霊は? いやその、霊が霊で......」
「枯葉さんは一旦黙ってて貰えますっ!?」
テンパり過ぎて、謎の言動を放つ俺に幽霊は勢いよくツッコんだ。
「す、すまん。でも霊だから霊で......霊か? そうだ、霊華!」
俺は思い付いたように声を荒らげた。
「は?」
そんな情緒不安定な息子の様子に母は疑問符を浮かべる。
「すまん。ちょっとテンパった。コイツの名前は紅葉谷霊華、真白の親戚だ。
幽霊の霊に中華の華で、霊華。それで、愛称が幽霊なんだよ」
無茶苦茶な命名とその場しのぎの解説に幽霊は俺の横でポカーンと口を
開けている。非常事態だったのだから仕方がない。
「霊華......さん? 随分、真白さんと似ているのね」
「は、はい。よ、よく言われます。はい」
「それで、ウチの枯葉とはどういったご関係で?」
母さんは俺に獲物を狙う鷹の様な視線を向けて、幽霊に聞いた。日曜の朝から
一緒に居るところを目撃されたのだ。単なる友人で済ませるのは難しいだろう。
幽霊は身体を震わしながら俺の顔を見てきたが俺は無慈悲にも幽霊から顔を逸らした。
「その、えっと......恋人です」
幽霊はこれで良かったのかと確かめるように俺の顔をチラッと見てきた。
まあ、そう答えるほか選択肢は無かっただろう。俺は静かに頷く。
「こ、恋人!? それはその、相思相愛の!? 純粋な!?」
アンタは自分の息子をなんだと思っているんだ。
「まあ......うん。そうだな。霊華とは一応、付き合ってる」
「じゃ、じゃあベランダにワンピースが干してあるからまさかとは思ったけど
同棲とかしちゃってたり!?」
「......しちゃったりしてます」
幽霊は苦い顔をしながら、母さんの言葉を認めた。恥ずかしい。
穴が有れば入りたい、とはまさにこの気持ちを表すための言葉だろう。
「あ、あ、あ、きっとこれは夢なのよ。万年非リア&根暗野郎の枯葉に
こんな可愛い恋人さんが出来るなんて大いに間違っているわ......」
「おい、今のもう一回言ってみろ母親」
どさくさに紛れて、毒を吐く母親に怒りを露にしながらも今の状況を
きちんと理解出来ていない自分が居た。何だこの状況。
「あ、あの霊華さん!」
「は、はい?」
「息子に何か弱味を握られたりしていませんか!?」
「い、いえ、そんなことはないので安心して下さい。お母様。
そもそも、同棲を申し出たのは私の方からなので......」
幽霊は食い付くように母さんにそう聞かれ、若干引き気味にそう答えた。
母さんはそれを聞くと凄まじい早さで首を回転させて、俺を見た。
「いや、そんな恐ろしい顔でこっちを見ないでくれ。同棲を申し出たのは
確かに幽......霊華の方だよ」
母さんはあまりのショックで魂が抜けたようになってしまった。まあ、いつも通り
俺がきちんと生活してるか見に来たら恋人を連れ込んでたんだからそんな反応にも
なるか。いや、恋人じゃないけど。
「......そ、そう。ウチの枯葉の何処を気に入って下さったのかとか色々聞きたいけど
そういう話はまた今度にしましょうか。霊華さん、ウチの枯葉を宜しくね?」
「え、あ、はい......も、勿論です」
「ありがとう。枯葉、ちょっと外に来て。一人で」
「......分かった」
俺はコクリと頷くと、幽霊を家の中に置いてアパートの外に出た。
母さんから言われることは何と無く予想がついている。
「枯葉」
「何だ?」
「霊華さんのこと、本当に好きなの?」
別に幽霊に恋愛感情を抱いている訳では無いが此処で否定すると面倒だ。
「ああ、勿論だ。それがどうかしたか?」
俺は母さんの質問の意図を知りながら、敢えてとぼけて見せた。
「逆に聞くわ。私が何でこんな質問をしているか分かる?」
「......俺が霊華と真白を重ねてるんだったら、霊華が可哀想だと思ってだろ」
「あら、ちゃんと分かってるんじゃない。そう、貴方が真白さんを好きだったのも
真白さんが亡くなってからずっと塞ぎこんでたのも知ってるけど間違っても霊華さんを
真白さんの代わりにしないで。本当に彼女、真白さんとそっくりだから余計心配なの」
実のところ、幽霊と真白を完全に別の人間として分けられているかと聞かれれば
難しいかもしれない。が、理性的な部分では二人を混同してはいけないと
理解しているつもりだ。
「ああ。分かってる」
「......そう。それじゃあ、私は帰るわ。霊華さんに宜しくとお伝えして。
また今度、霊華さんともお話したいしきちんと連絡してから来るわね」
「分かった。またな」
「ええ」
そう言うと母さんはそのまま、家へと帰っていった。俺が生活をきちんと
出来ているかを見る、という本来の目的を忘れていないだろうか。
「帰ったぞ。霊華」
「あ、お帰りなさい。って、その名前本当で通す気なんですか」
「仕方ないだろ。母さんに言っちゃったんだから。これから人前で
お前を呼ぶときはこの名前を使うからな」
俺は大きな溜め息を吐いて椅子に座った。全く、場を荒らすだけ荒らして
帰りやがって......恨むぞ母さん。
「......折角なんですから、家でもその名前で呼んでくれませんか?」
「は? 何でだよ」
「いや、日頃から名前で呼んでた方が口に馴染むと言いますか。人前で
私の名前を間違えて、幽霊って呼んじゃうことも無くなるじゃないですか」
「成る程。一理有る。でも、あんな適当な名前で良いのか?」
「良いんですよ。なんか、ずっと幽霊って呼ばれるの嫌だったんです。
それに霊華って名前、テンパりながら考えた割には可愛いじゃないですか」
確かに幽霊、もとい霊華を幽霊と呼ぶのは俺のことを人間と呼ぶような物だ。
よくよく考えると失礼だったかもしれない。
「分かった。じゃあ、これからお前は霊華だな」
「フフ。ヤッタ~! やっぱり名前で呼ばれると嬉しいですね」
「安上がりだな」
「む。私は枯葉さんにつけてもらった名前だから嬉しいんです。
尻軽扱いしないでください」
頬を膨らましながら抗議の声をあげる霊華。俺は思わぬ言葉に固まってしまった。
顔が熱くなっていく。
「そ、そうか。なら良かった」
「......って、ちょっと待って下さい。今、私滅茶苦茶恥ずかしいこと
口走りませんでしたか」
「さあな」
俺は適当な返事をすると、はたと気付いた。幽霊には謝っておかなければ
いけないことがあったのだ。
「あの、霊華?」
「はい?」
「えっと......すまんかった。俺がつまらないことでお前に怒ったせいで
面倒臭いことになって」
思えば、こんなことになったのは全て俺が霊華にどうでもいいことで
怒ったせいなのだ。それが無ければ霊華が事前に姿を消すことも出来ただろう。
「い、いや枯葉さんは謝らなくて良いですよ......悪かったのは枯葉さんに
言われたことを素直に聞かなかった私ですし。ごめんなさい」
「......まあ、取り敢えずこれで仲直りだな。母さんに俺とお前が
交際していると勘違いされたが」
仮にもこの俺と恋人同士だなんて、勘違いされたのは霊華からしても
不名誉なことだっただろう。
「そのことなんですが、枯葉さん」
「ん?」
「ならいっそ、私達付き合いません?」
幽霊さん、遂に名前を獲得しましたね!
ということで、私もモチベーションを獲得したいです。
ブクマ、評価、感想、レビューお待ちしています!
特に感想とレビュー、私はいつでもウェルカムというか滅茶苦茶欲しいですからね!?
お願い、感想下さい。(涙) あわよくばレビューも下さい(乞食)
ということで感想とレビューお待ちしてます!
追記
タイトル変えました。テヘッ。