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第七十七話 作戦④

 その日の晩、作戦は決行された。

 善は急げと言うよりも、俺達に時間は残されてなかった。

 北階段のバリケードが破られたのだ。


 自らの肉体が傷つくのを厭わなければ、何でも出来る。

 ゾンビ達は爪が全部剥がれようとも、指の皮膚が削れて骨が剥き出しになろうとも、バリケードを引っ掻き続けた。


 バリケードとして置かれたクローゼットの背板は何日も引っ掻かれ続け、次第に摩耗していった。

 いつの間にか、クローゼットの戸は全開で、中には大量のゾンビが入り込んでいたのである。まるで押し寿司のような状態。ギュウギュウだ。

 

 彼らは肉を求めて猛進するのみ。

 後先、考えたりはしない。

 次々と中へ入り込み、クローゼットは破裂寸前まで膨張した。

 そして幸か不幸か、破裂する前にロープが千切れ、内側へ倒れた……


 ゾンビは二階外廊下に溢れ出て、マンション中に広がった。

 結果、マンションの住人は部屋から一歩も出れなくなってしまったのである。


 しかしこんな状況でも、俺、神野君、青山君の三人は落ち着いていた。

 こういったピンチには慣れている。

 むしろ、作戦を実行し易くなってラッキーだ。



「ベランダの避難ハシゴを使おう」


「それで二階まで降りて、手薄な南側まで行く……」

 


 俺の提案に神野君と青山君は頷いた。

 北側階段のバリケードが破られたため、南側は手薄だ。

 ゾンビは正面の坂道からマンション敷地内へ入り、左折して北側階段から建物内へと流れている。


 まるで某人気テーマパークの人気アトラクションに並ぶ行列である。何百匹というゾンビがふらついた足で列を成していた。

 死んでからも肉を食らうために並ぶとは、皮肉過ぎる。

 

 ゾンビの習性として一点に集中することから、二階の南側はガラガラになった。


 俺達はベランダの避難ハシゴから二階へ降り、隔て板を破って南へと移動した。二階にいるのは二世帯のみ。

 幸い、室内にいる人が出て来ることはなかった。気配を感じても怖くて出れなかったのだと思われる。


 一番端の212号室に着くと、ベランダの手摺りを乗り越えた。

 南側はほんの数匹ゾンビが残っているだけだ。神野君と青山君は待機。手早く片付け、俺は擁壁をよじ登って裏手へ出た。


 囮役である。

 電気関係は触りたくないとアピールしてたら、危険な役回りを押し付けられてしまった。まあ、いいけど……


 裏のフェンスを越えてから、大通りへと向かう。

 歩道は結構うろついているので、さっさと済ませなくては……


 俺は小道の角から大通りの様子を窺った──あったぞ。よしよし……

 運転席のドアが開け放たれている車を見つける。そこまで猛ダッシュだ。


 車内へ飛び込むと、雄叫びと共に後ろから手が伸びて来た。



「ひゅっ……!」



 後ろから来るの、反則だろ……

 変な声、出しちまっただろが!

 ありがちなのは分かってるけどさ。

 少しは驚かされた。少しはな。

 

 罰として鉄パイプで瞬殺してやる。

 全くゾンビごときが、俺様を驚かせるんじゃねぇよ。

 車の天井が低いため、鉄パイプは振り上げられなかった。突いて、後部座席に倒れ込んだ所を打ち込む……グシャリ。うわっ、やりにくい。車の中、嫌い。

 

 周りにいるゾンビが寄ってくるのが分かったのでテキパキと行動せねばならなかった。

 丁度いいくらいの長さにしておいた突っ張り棒をクラクションとシートの間に差し込む。

 

 辺りにけたたましいクラクション音が鳴り響いた。



「さ、お待ちかね。お前の出番だ」



 俺は首から下げたAK47の安全装置を外し、車外へ出た。


 走り寄って来るゾンビを撃ち倒す。

 頭には当たってないからすぐ起き上がるだろうが、今はどうでも良かった。

 四方から集まって来るゾンビを撃ちまくって、突破する。

 クラクション音に引き付けられ、来た道からもゾンビが続々と歩いてくる。

 俺は道から外れて、住宅の敷地へ入り込んだ。

 銃声よりも鳴り続けるクラクション音にゾンビは引きつけられるため、追ってこない。


 にしても、記念すべき初撃ちなのに楽しむ暇もないとは……でも、楽しんでる場合じゃないしな。


 移動するゾンビが落ち着くまで、塀に隠れてやり過ごすか……いや、強行突破しよう。


 音に誘導されてゾンビが少なくなっている内に、青山君がワイヤーを一本道に張る予定だった。


 その際、神野君だけで援護するには負担が大き過ぎる。

 

 俺は住宅の中を通って、マンションへ戻ることにした。

 電気の点いている住宅は一軒もなく、これほど月明かりが有り難いと感じたことはない。街灯のある道から離れれば離れるほど、暗くなる。


 塀をよじ登りながら、俺は一時ハマったゲーム、○イクラをプレイしている気分になっていた。

 ゲーム初日の夜、暗いし、ゾンビうようよだし正直焦るんだよな……ああ、これがゲームだったらいいのに。リアルだと必死だ。

 

 建ち並ぶ住宅の隙間を通り抜け、塀をよじ登り、ようやくマンションのフェンスまで来た。


 丁度その時だ。

 ライフルの銃声が聞こえた。

 あれは間違いなく神野君のM16。

 慌ててフェンスを乗り越え、俺は正面へ走った。




 敷地内へ入り込んだゾンビのほとんどがクラクション音に誘われ、出て行ったようだった。


 だが、歩みが遅いため、マンションの上階まで上っていたゾンビはまだ残っている。


 大通りからこちらへ来るゾンビもパラパラといるし、マンションの方からもちょっとずつ降りて来るから、挟まれた状態になる。大分捌けたとはいえ、神野君一人で防御するのは厳しそうだった。

 

 俺が来た時、青山君はやっとワイヤー二本を結び終わった所だった。



「ガシュピン、待ってたよ。援護、頼む」



 嬉しそうな神野君の肩を叩き、俺は坂の下へと移動した。

 神野君は坂の上でマンションから降りて来るゾンビを倒していく。

 俺と神野君の間にいる青山君が道の端から端にワイヤーを張っていった。


 俺は休む間もなく、ライフルを撃ち続ける。上からより下から来る方が断然多いからな。頭脳派のお二人さんと違って俺は実践派だ。



「田守君、手伝って」



 不意に呼ばれた。

 俺は夢中で撃ち続けているというのに。



「え、あ、ちょっと待って」



 もう……忙しいんだから、自分一人でやれよ。作業の遅い青山君に苛つく。



「ワイヤーの内側に入って。そうすれば襲われないから」



 見ると、二本のワイヤーを結び終わったところだった。オレンジ色の光を放つワイヤーが二列、道を横断して張られている。


 青山君の言う通り、俺はワイヤーの内側に入った。電線へ繋ぐためのワイヤーを結びつける。その間に青山君はもう一本、結び付けた。この二つのワイヤーをメーターに繋がる一次幹線と二次幹線へ繋ぐ。



「じゃ、僕はこの二つをメーターの電線に繋ぎに行くから……」

 


 言うなり、青山君が手摺りを乗り越えようとしたので、俺は坂の上の神野君を見た。

 絶え間なくゾンビは降りてくるが、一気に押し寄せては来ない。

 


「俺は青山君を援護する。神野君、後は頼む!」



 それだけ伝え、俺は青山君を追いかけた。

 



 メーターの周りにゾンビはいなかった。問題は別にある。



「暗くて見えない……」


「懐中電灯は?」



 俺は青山君の背中のリュックをまさぐった……良かった。あった。


 手元を懐中電灯で照らしてやる。

 付いて来て正解だった。

 ゴム手袋をはめた青山君は、若干指を震わせながらワイヤーを線に繋いでいった。


 緊張で俺まで懐中電灯を落としそうになる。もし、これが失敗すれば、完全に詰む。


 銅ワイヤーはすぐに繋ぎ終わった。

 俺が被覆を焼いておいたお陰だ。



「大丈夫かな……」



 不安を口にした瞬間、バチバチッと音が聞こえ、青白い光が走った。


 火花が網膜に焼き付く。

 意外に美しいじゃないか。


 坂道でワイヤーに触れたゾンビが何匹も光を発しながら痙攣しているのが見えた。大した電圧じゃなくても触れ続ければ、電流は沢山流れる。


 何だか踊っているみたいだ。

 不謹慎だが愉快。



「やった!!」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] うぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!!!!!! このクソビッチがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! あの女クッソう…
[一言] 三人の連携プレー!これは一生ものの友人になりそう。
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