第七十四話 作戦①
「何とかマンション敷地内のゾンビ、一掃できないかな。俺達だけで」
と神野君。
「そんなん、無理……」
俺が言いかけた時、ニヤニヤした青山君と目が合った。
ああ、明らかに何か企んでいる顔だ。
俺はわざと話を終了させることにした。
「はい、この話は終わり。マンションがヤバくなったら俺達だけで逃げよう」
「待った! 待った! ちょっと田守君、話を聞いてよ!」
ほうら、やっぱりな。
青山君は必死に食いついてきた。
「ガシュピン、意地悪するなよ。聞いてやろうぜ」
神野君が言う。
俺は肩をすくめた。
「どうせまた、NHKスペシャルか警察24時の話だろ?」
「お、分かってるじゃん」
「やっぱりか……現実的な話なんだろうな?」
「勿論! 電力を使う」
「よし、話は終わりだ!」
「ちょ、ちょっと……」
電力使うとか、危険な香りプンプンである。危ないことはしたくないからな。
「坂の手前にある電柱から貰うのか?」
神野君が尋ねた。
ちょ、余計なこと聞くんじゃねぇよ!
「惜しい!」
上機嫌で頷く青山君。
電線から電気貰うとか危なすぎるだろ……
「分かってんのか? 電線ってうん千ボルト流れてるんだぞ。素人が手を出したら危険だ」
「大丈夫、大丈夫。ゴム手袋とゴム長靴で電気通らないようにするから。それに僕が拝借しようと思ってるのは、家の方。高圧電線じゃないからうん千ボルトもないよ。百ボルトか二百ボルト」
マンションの敷地へ入るための坂道。
坂道の脇に密接した住宅から電気を拝借しようというのだ。丁度近くに電柱があり、メーターは坂道側に取り付けられている。
「面白いじゃん! もっと聞かせて」
神野君が乗り気になってきた。
おいおい、二百ボルトでも死ぬかもしれねぇだろ。ゴム手袋って……工事している人って普通、専用の絶縁手袋じゃないのか……
「言っとくけど、俺は絶対に電線触るのは嫌だかんな」
最初に言っておかないとな。
危険な役目を押し付けられたら大変だ。
「もうー、田守君たら……いいよ。電気を流す作業は僕がやる。言い出しっぺだしね」
青山君の説明だとこうだ。
まず最初に坂道の端から端へワイヤーを二、三本張る。そして数歩進んでから、もう一列同じように張る。
道端には金属フェンスが設置されているのでワイヤーはそれに結びつけるとのこと。
この二列に張ったワイヤーへ電気を流すというのだ。
同時に電線へ繋ぐワイヤーもフェンス2カ所に繋いでおく。
次はフェンスに繋いだワイヤー二線をメーターから出ている配線に繋ぐ。
その際、電線は被覆されているので着火マンなどで炙って剥き出しにする。
引き込み線からの一次幹線と出て行く方の二次幹線の二つにそれぞれ繋いだら回路の完成だ。
つまり、電気泥棒である。
内容を聞いてから俺は少しホッとした。
電気がどうとか言うから、てっきり電柱にでも登って作業するのかと思ったのだ。
建物周りの配線から電気を盗むのなら問題ない……ん? 無くもないか……
「でも、そこのお宅、誰か居るんじゃないの? 勝手にそんなことしていいわけ?」
「うーん……多分、逃げてるか、この状況じゃゾンビになってるかも。緊急時だからしょうがないんじゃない?」
「いや、まずいだろ?ちゃんと確認しないと」
不意に神野君が口を挟んだ。
「確か窓ガラス割られてたような気がする。でも、ガシュピンの言う通りちゃんと調べてからにしよう。あと、ワイヤーロープも手に入れないとだし」
「ホームセンターなら駅前にある」
「じゃあ、俺がフェンス越えて入手して来ようか? 場所さえ教えてくれれば……」
「いや、神野君、一人じゃ危険だ。店関係は出入りし易いからゾンビ率高い。俺も行くよ」
A県のボランティアへ行った時の苦い思い出が蘇る。
武器を忘れた俺はホームセンターに忍び込み、命懸けで相棒の鉄パイプをゲットしたのだった。
「じゃ、僕も行こうか? 言い出しっぺだし」
青山君が言った。
「青山君はいいよ。細かい段取りを考えてて」
うん、青山君は足手まといになるから来ない方がいい。
でもサバゲーの時もそうだったが、アイデアと度胸には感服している。
「ワイヤーを結びつけている間、援護が必要だよな。三人だけでできるかな……」
「田守君の彼女さんは? 宮元さん? 手伝ってくれないかな?」
「彼女とか違ぇよ。それに理事長さんの娘だから協力してくれる訳がない」
青山君の言葉に少々焦る。
久実ちゃん、傍目からは彼女に見えるのか……
俺の動揺をスルーして、神野君が話を進めた。
「先に敷地内のゾンビを何とかさせないと。ガシュピンが前に言ってた音作戦でいくか」
「やっぱ、音しかないっしょ」
いつの間にか俺達は詰めた相談をし始めていた。




